第三話
シュン:≪ねぇ、たっちゃん。まだ来月にならないとギルドの空き作れないよね? 最近、Boldとかインないけど……≫
シュンは、龍樹と同じファイターだ。高レベルで操作も上手くシトロンの中心的人物の一人だった。
そしてBoldは、三ヶ月前くらいに加入したトリックスターだ。
最初の頃は毎日接続していたが、最近はめっきり顔も出さない。
龍樹:≪一応、三ヶ月接続がない場合は強制的に脱退させるっていう制約だし。もう少し待ってくれないかな。俺も彼を待ちたいし≫
シュン:≪うーん、そうだよねぇ。僕も、Boldが嫌いでこんなことを言ってるわけじゃないんだけど、どうしてもカレンを入れたくてさ。ごめんねぇ≫
カレンとは、最近、シュンとつるんで狩りに行っている他のギルドのトルーパーだ。
シュンの話によると、元々、シトロンに加入したかったらしく、メンバーの空きを待っているとのことだった。
シュンと話していると、ミッキーナから耳打ちチャットが流れてくる。
耳打ちチャットとは、一対一の会話ができるシステムで、これで話すと他のメンバーに声が聞こえなくなるのだ。
ミッキーナ:【シュンは、ああ言っちゃってるけど、本当はそんなにココに来たいわけでもないらしいよ】
ミッキーナの声に、龍樹が眉根を寄せる。
龍樹:【そうなの?】
ミッキーナ:【シュンが入れ込んでるだけ。本人は付き合ってる気分でいるみたいだけど。なんだかアホみたいに装備やらなんやら貢いでてさ、自称二十二歳の女子大生って言ってるみたいだけど、本当は男でニートなんじゃないかって噂】
龍樹:【なるほどねぇ】
女のふりをして近づき、貢がせる。
そんなトラブルは、ネットゲームでのお約束みたいなものだ。
もっと酷い、現実の詐欺に近い行為も多い。
ミッキーナの話によると、シュンもその手の詐欺に引っかかっている様子だった。
下手に加入をさせて、もっと被害が拡大するのも困る。
龍樹:【情報あり。カレンのことはこっちで対処するよ】
ギルドマスターをしていると、同じギルド内だけではなく、他のギルドからも様々な情報が入ってくる。
Electric Worldには、現実の世界と引けを取らない政治とコネクションがあって、立派に国家のようなものができているのだ。
UUJ:≪そう言やあ、龍樹さん、昼間、また『血の契約』の奴らが低レベルの狩場で暴れたらしいですぜ≫
『血の契約』とは、ゲームの趣旨を対人に絞ったギルドだ。
通常は暗黙のルールで高レベルのキャラクターは、あまりにもかけ離れた低レベルの狩場を荒らさないものだが、『血の契約』は【いかにも自分達よりもはるかにレベルの低い】キャラクターを専門に攻撃を仕掛けている無差別テロ集団のような組織である。
一撃で、もしくは攻撃を返しても無駄な抵抗で終わらせて殺すというのが楽しいらしく、この世界でもっとも嫌われている集団だった。
もちろん、全てのフィールドはPvPフィールドといって対人戦ができるので、ゲーム的には何も違反はしていない。
『Electric World』は、もともとが『対人ゲー』と呼ばれているゲームで、PvP(Player vs Player)が主流だからだ。
常に敵対勢力があり、争いながら陣地を奪取したり防衛したりを繰り返す。
だが、それなりにローカルルールのようなものができあがっており『血の契約』は、全ギルドに共通する【敵】であった。