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Electric World  作者: 静野月
血の契約
31/31

第三話

保存したけど、まだ途中です~(汗

 




パーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!



その小気味の良い殴打音に、プレハブ内の空気が震えた。

祐平が、頬を叩かれたのだと自覚したのは数秒後のことだ。


「龍……樹?……」


切れ長の瞳でギロっと睨まれる。

祐平は、何が起こったのか分からないまま呆然と硬直した。

結也も美寿々も、突然のことに口をぽかんと開けて固まっている。

まさか、自分のキャラクターが自分にを手を上げるなんて誰もが予測し得ない出来事だった。


「なに一人で勝手にイジケてんだよ。お前、本当に俺の中身?」


祐平が頬を押さえる。平手打ちされた頬は熱を持ち、じわりと痛みが伝わってきた。


「なに、これ」


と、祐平が奥歯をぎりっと噛む。


「お前、また僕に説教する気か?!」


祐平がカッとなり、龍樹の胸倉に掴みかかった。

殴られるのは慣れていたが、龍樹に体を傷つけられるなんて、許せないことだ。

これでは、自分で自分を叩いたのと同じ。龍樹は、自分の分身なのだから。


「お前がだらしねぇこと言ってっからだ」


「仕方ないだろ! これが現実なんだ!」


龍樹が、ふんと鼻を鳴らす。


「こんな状況でよく言えるな。これだって現実じゃねぇ。いや、それも違うな。全てが現実で、全てがお前だ」


「違う! 僕が龍樹でいられたのはゲームの世界だったからだ」


ヤレヤレと龍樹が首を横にふる。

二人の口論を、結也と美寿々は黙って見守っていた。


「前にも言っただろ? 俺がお前の本質。勘違いしてるヤツも多いけど、ゲームの中ってのは一番本人の『素』が出るもんだ」


「それは……分かってるけど」


「ゲームのキャラクターは、違う自分を演じているんじゃなく、しがらみのない世界で本当の自分を曝け出しているんだ。リアルの世界で真面目な人間が、ゲームの世界で本物の悪党にはなれないのとは同じで、祐平もリアルの世界で英雄になれるんだよ」


「冗談じゃないよ!」


祐平が掴んだ服を乱暴に手放した。もっとも、ここで取っ組み合いの喧嘩をしたって龍樹に勝てるはずもない。

もちろん素手だしスキルも使えないが、それでも龍樹の方が強いに決まっている。


「俺は冗談なんか言ってねーし。そもそも、この世界が冗談みてーなんだ。でも俺は逃げない! 恐れない! 怯まない! 武器が装備できなくても素手でも敵に向かうぜ!」


――――確かに、自分が言いそうな台詞だ。

龍樹は、得意げにぐっと拳を掲げている。

でも、それは【Electric World】限定のものであり、こうやって客観的に見ると、結構、恥ずかしい光景だった。


結也が小さく「ぷっ」と吹き出す。


「あ、ごめん。別に、君たちのことを笑ったわけじゃない」


慌てて取り繕ったが、祐平が顔を真っ赤にさせる。


「こういうストレートなの、いいな。って思って。でも龍樹の言ってることは当たってると思うよ。僕も、ゲームの世界で違う自分を演じるつもりだったんだけど、結局、ほとんどリアルと変わらない性格になってしまったしね」


結也が顔を隣に向けると、愛燐がすっと目を細める。


「そうだな。俺はギルメンに口数が少なく、ぶっきらぼうで愛想のない冷たい感じの性格だと言われている。リアルの、お前の評判そのままだ」


「でも、ここでの僕はおしゃべりだ」


「ああ、そうだな」


結也と愛燐が顔を見合わせてクスっと小さく笑った。

こうして二人が並んでいると美男美女のカップルに見える。

本当は、どちらも結也なのだが。


「しかし、結也はよほどこの子たちを気に入っているんだな」


愛燐が意味深に言うと、美寿々がポっと頬を紅潮させる。


「あ、あの、私も、龍樹の言う通りだと思う。みんなからは大人しいって言われてるけど、本当はプロレスとかボクシングの試合観戦するのが好きなの。なんか……血が騒ぐっていうか……」


言いにくそうにモジモジしていると、ランチョムがクックックと楽しそうに笑う。


「美寿々って、本当は見かけによらずバイオレンスな性格だよね。狩りをする時も、隠れた位置ですごい興奮しながら撃ち抜いてるんだよ」


「こら! ランチョム! ……え?」


美寿々がポカポカランチョムの頭をぶっていると、プレハブ小屋の扉が一気に開いた。

それまでの、まったりとした空気が一転し、緊張した空気が流れる。



「いた……」


見知った顔に、龍樹が右手を上げる。


「よう」


現れたのは、黒いジャケットに真っ赤な革のパンツを着込んだ、ブルーの髪に緑色の瞳の男だ。


「ようじゃないですよ! もーう、俺、くたくた。ケイさん、あんなに可愛いのに人使い荒いし」


がっくりと憔悴しきった感じで現れたのはUUJである。

しっかり武器を装備しているので、中身と結合したままだ。


「あれ? 合体したままだと疲れ感じねーんじゃね?」


「さっき、武器を解除して元の姿に戻ったんですよ。そしたら立っていられないくらいドロドロに疲れてて、装備してもこんな感じで……え?」


UUJがプレハブの中をキョロキョロと見渡した。美寿々と目が合い、ぎょっと目を見開く。


「もしかして根岸ねぎしさん?!」


「え?」


「ちょ……もしかして、このみなさんは中の人?」


UUJの問いに、龍樹が「ああ、そうだよ」と答える。


「もしかして、君たち三人とも同じ学校の生徒?」


「えーーーーーーっ、久我原結也くがはら ゆうや?!」


今度は、結也の姿を見て気を動転させた。

その隣にいる愛燐が、うるさそうに僅かに眉をひそめる。


「な、なに、この英雄大集合は!」


「興奮するのもいいが、お前も武器を解除して中身を休ませろよ。充電もしておいた方がいいぞ」


龍樹に言われ、UUJが「は……はい」と武器を解除した。

UUJの輪郭がぶれ、祐平と比べるとかなり体格のいい坊主頭の青年が現れる。


「ど……どうも。なんか、これ恥ずかしいっすね」


恥ずかしそうに頭をかきながら照れる青年を見て、美寿々が「あっ!」と指をさした。

もう少し背が低かったが、中学の時に同じクラスだった青年だ。


荒垣あらがき君?!」


荒垣要あらがき かなめが、太い腕で「ははっ」と苦笑いを浮かべる。


「まさか、こんな所で昔の知り合いに会うとは……俺もびっくり。しっかし、まさかランチョムの中身が根岸さんとは……」


要がチラリと祐平を見る。

祐平の方は、とてもゲームで遊んでいるようには見えない体育会系の青年の姿に驚いていた。


「あー、ええっと……龍樹の中身さんですよね?」


「う、うん」


「こりゃまたイメージと違うっていうか……もっと大人の人だと思ってた」


「荒垣君は中学校の同級生。入野君は私と同じ高校なの」


美寿々が二人の代わりに簡単に説明をすると、要は気まずそうに目を伏せる。


「そ、そっか。いいなぁ。俺はヒキオタニートです。俺、中学の時、イジメに会って登校拒否しちゃって。そのまんま社会のゴミになってマス」


要が祐平に向かって苦笑いを浮かべる。

祐平は、そのいじめていた加害者を知っているので、なんとなく気まずい感じだ。


「大丈夫だよ、荒垣君。僕だって、三十過ぎてるのにヒキオタニート生活してるから」


結也がニコリと要に笑顔を向ける。


「そんなのどうでもいいじゃん。俺達は俺達だ」


龍樹が締めて、みんなの自己紹介が終了をした。


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