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Electric World  作者: 静野月
血の契約
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第二話

「んもう。【血の契約】の奴らに襲われたんなら、なんでボクを呼ばないのさ」


ぐったりする祐平を尻目にランチョムが口を尖らせる。

そうは言われても、彼らを呼ぶ暇なんてなかった。

奇襲は【血の契約】の常套手段であり、撤退が早いのもいつものことだ。


「悪かったな。次は必ず、お願いするよ」


龍樹が頭にポンと手を乗せると、ランチョムが子供のように小さく頷く。

美寿々は黙っていたが、祐平の横顔を見ると深い溜息をふっと吐いた。


今、祐平を支配しているのは疲労と罪悪感だ。

いくら【敵】とはいえ、【血の契約】のキャラクターを中身の人間ごと殺してしまったのだ。

キャラクターは単なるデータに過ぎないが、中身の人間は地下で凍結している同じ人間である。

つまり、非常事態とはいえ人殺しをしてしまったのだ。

人間と融合したキャラクターを殺すということは殺人なのである。


UUJを止めておいて、自分の手を血で染めてしまった。

いくらゲームの中で殺し合いをしているとはいえ、実際は普通の高校生である。

人殺しという重みに耐え切れず、祐平はプレハブに戻ってから一言も声を発していない。


例えようもないくらいのショックに、すっかり打ちひしがれている。

正常な世界に戻れば、一体、自分はどうなってしまうのか。

そう考えただけでも、気が狂いそうだった。


殺されるから、その前に殺す。

ゲームの中では日常的だった状態が、リアルで襲い掛かってきていた。



「さっき、美寿々と商店街のコンビニまで行ったけど、酷い有様だったよ」


町は死体で溢れ、モンスターが闊歩している。

セーブポイントを作って避難させても、キャラクターは自由に出入りしてしまう。


この世界に安全な場所などない。

常に死と隣り合わせで、人間さえも敵になる。


「入野君、お水……」


美寿々がペットボトルを差し出す。

祐平は、焦点の合わない瞳で受け取った。


「龍樹……」


「どうした? 祐平?」


龍樹が隣に座る祐平に顔を向ける。

祐平が疲弊しきった顔を俯かせた。


「僕達は、何と戦ってるんだ?」


その質問に答えられるものはいない。

一体何と戦っているのか。

もう、その理由も原因も分からないくらい世界は狂ってしまっている。


「あの……愛燐さんも、どうぞ」


美寿々が、壁際に立っている愛燐にペットボトルを差し出す。

愛燐の体が二重にぶれ、初めて中身の男が姿を現した。


祐平たちよりも、ずっと年齢の高い大人の男だ。

色が白くて線の細い、儚げな印象の男だった。


「ありがとう」


男はペットボトルを受け取ると、薄い笑みを返す。

美寿々は、少し驚いたように彼を見つめている。


「もしかして……久我原結也(クガハラ ユウヤ)さん……ですか?」


そう聞かれると結也が、苦笑いを浮かべる。


「うん、そう。驚いたでしょう? 愛燐の中身が、こんなおじさんで」


美寿々がいいえと首を横に振る。


「そんな……驚いたのは本当ですけど、まさか久我原さんだったなんて……」


祐平=龍樹も、その名前には覚えがある。

最近、姿が見えないが前はドラマや映画に出ていた俳優だ。

もっとも、その手には疎いので顔を見て久我原結也だとは思わなかった。


龍樹も、驚いたように結也を見上げる。


「僕も驚いたよ。EWの英雄が、こんな可愛らしい高校生だったとはね」


祐平も、少し反応していた。

MMOは大人の人が多いとは聞いていたが、まさか中身が芸能人とは思わなかった。


「休養宣言だなんて格好良いこと言ってるけど、本当はもう精神的に追い詰められていてね、芸能界の仕事はほとんど引退だったんだ。情けないよね。ちょっと親友に裏切られたくらいで、仕事まで手につかなくなったんだよ。EWをやり始めたきっかけは、ほんのリハビリのつもりだったんだけど、自分で信じられないくらいハマってしまった。おかげで、30過ぎの英雄のできあがりだ」


自虐的な笑みを浮かべながら、愛燐の方に顔を向ける。

硬質の美女は、薄っすらと口元を緩めるだけだ。


「俺は、それなりに楽しんでいるよ。相変わらず人との壁を取り払うこともできないみたいだけど」


「そう……だね」


二人で顔を見合わせながら、ふっと小さな息を吐く。


「ここに来る時も、すごく緊張をした。もしかしたら、うざいって思われるかもしれないって思ったら足が竦んだ。かなりの人間不信だったし、人との距離がつかめなくて。でも、君たちが戦っている。そして僕を必要としているって女子高生から聞いた時に、ああ、僕はこの世界でも英雄でありたいって思ったんだ」


それまで、じっと俯いたまま独白を聞いていた祐平が顔を上げた。

年齢は30を超えているが、まだ二十代の青年にしか見えない整った顔立ちを見つめる。


「僕は……久我原さんが来てくれて助かりました。口下手なので上手く言えませんが、感謝しています。助けて頂いてありがとうございました」


「龍樹は、僕に取っても英雄だよ。ゲームの中の君を見ていると、こっちも勇気が沸いてくる。それに……」


と、結也がいったん言葉を区切る。

そして、何かを思い出したように、ふっと笑みを零した。


「龍樹がいるからこそ、正義の味方も悪くないって思ったんだ」


「そう……ですかね。僕は、本当は、そんなに英雄にはこだわってないんです。ただ、あの時は自分が英雄になるのが一番良い方法だと思ったから」


「でも僕らは、そんな龍樹に憧れていたいんだよ」


そう言われると、反対に居心地が悪くなってきた。

龍樹はあくまでもゲームの中の人格で、本当の祐平は、情けないヘタレの苛められっ子である。

龍樹を褒められるのは嬉しい。

彼には誇れるものがいくつもある。



「僕は……入野祐平には何もありません。ただの頭の悪い高校生です」





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