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Electric World  作者: 静野月
僕らの世界
28/31

第五話

その小さな少年は、自分の身の丈ほどありそうな長身の銃を構え、スコープで遠くに見える巨大な蟹を見ていた。


≪……あいつら邪魔≫


【ジリオン】に開通してもらった、パーティトークという特化音声チャンネルで、龍樹に話しかける。

おかげで、遠く離れていても音声が通じるようになった。

これはEWのパーティチャットに値する機能だ。


≪まあ、仕方ねぇよ。信じろって方が無理だろ≫

≪そりゃそうだけどさ。最大スキル撃っても障害物があると火力が落ちちゃうんだ≫

≪俺は、お前の腕を信じてるぜ≫


ランチョムと美寿々の重なった心臓がトクンと鳴った。

絶対に、龍樹には見られたくない顔をしているのが自分でも分かる。

頬が、かーっと熱くなり鼓動が早く打ち出したのを感じた。


だめだ。


落ち着け!


頭をふって邪念を払う。


スナイパーに必要とされるのは冷静沈着な判断とニヒルな姿勢だ。


≪俺たちは、ビッグ・クラブの体力が残り十%を切るタイミングで同時攻撃をすればいい≫


その合図は、口から溢れ出す黄色い泡だ。

EWの中では、もう何度も倒している。

だが、いくら英雄だと言っても、たった二名の討伐は始めてだった。


≪……あいつらが邪魔しなければいいけどね≫

≪やる前から失敗する事を考えるな。大丈夫。俺たちならやれる≫

≪……≫


ランチョムがカチャリと流星銃を構える。

待機しているのは、少し離れたマンションの屋上だ。


ビッグ・クラブを囲んでいる自衛隊の位置と、龍樹が立っている位置を考えて少し場所を移動する。

通常のライフル銃では、ありえない射程距離だが、流星銃なら弾が届く範囲だ。


いや、正確に言うと撃つのは銃弾ではない。

英雄だけが使える、スナイパー最強の必殺攻撃を撃ち込む予定である。


≪ボクは、あなたの指示に従うだけです。リーダー≫


EWの世界では、まともに会話をした事もパーティを組んだ事もなかったのに。

まさかこの世界で――、この現実の世界でパーティを組むなんて思ってもみなかった。


ランチョムにとっても龍樹は憧れの存在だ。

その龍樹とのミッションを失敗させるワケにはいかない。



ビッグ・クラブが元の姿に戻った。

相変わらず自衛隊の砲撃は止まない。

HPが、削られていく。



五分……十分……十五分……。



僅かずつだが、ダメージが蓄積されていった。

ビッグ・クラブが黄色い泡を吐き出した。


≪よし、行くぞ!ランチョム!!≫


龍樹がスキルの詠唱を始める。


「なっ、何だ?!」


大東は空を見上げた。

雨雲など見当たらないのに、雷鳴が鳴り始める。



「【ビッグ・サンダー・アタック】です! 隊長、攻撃をストップさせて下さい!!」


「は、はあ?!」


隊員が、放心状態の大東から拡声器を奪った。

喉が張り裂けそうなくらい大声で叫ぶ。


「攻撃止めーーーーーーーーーーっ!!」


上空から地上へと稲妻が走った。


「あ、あああああっ」


大東が口をパクパクとさせた。

稲妻が、龍樹の体に降りていく。


≪ビッグ・サンダー・アタック!!≫


青年が、装甲車の屋根を蹴り上げ、蟹に向かって一直線に飛んだ。


≪フェニックス・ボンバー≫


同時に、流星銃から巨大な火の玉が放射される。



ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!



大きな蟹の化け物が爆炎を上げた。

真っ黒な煙を上げて、ピタリと動きを止める。


「……」


大東は、金縛りにあったかのように動かない。

プスプスと動かない蟹の化け物の前に、あの茶髪の青年が立っていた。


普通なら、まともなら、あの爆発に巻き込まれているはずだ。

だが、青年はダメージを微塵も感じさせない爽やかな笑顔を浮かべている。


「ミッション、クリア」


呆気に取られている自衛隊の中を、龍樹は悠然と歩いていた。

ビッグ・クラブの死体が、点滅を繰り返した後、消えていく。



「あ……ありえんだろ」


と、大東が頬をつねる。


こんな事を認めるわけにはいかなかった。

非現実過ぎる。

説明がつかない。

ありえない。



――――冗談じゃない。



「隊長……大丈夫ですか?」


「……俺は疲れているのか?」


「いいえ。これは現実です。俺も説明なんかできないけど。でも……」


若い隊員が龍樹の背中をじっと見詰めた。



「彼は英雄なんです。恐らく、この世界でも――――」



青年の後姿が見えなくなるまで見送る。







英雄――――それが、何を指し示すものなのか。




今の大東には、理解する事が出来なかった。


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