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Electric World  作者: 静野月
僕らの世界
27/31

第四話

「今だ!一斉掃射始め!!」


ダダダダダダダダダダッ!!

ドッカーーーーーーン!!


掛け声と共に、いくつもの弾丸が飛び交った。

機関銃、バズーカー砲、小型ミサイル。

戦争並の特殊火器が使用されているのは、拳銃やライフル銃では、かすり傷も負わせる事が出来ないからだ。


材質不明、目的不明、正体不明、何もかも不明の未確認物体は、口と思われる穴から火炎放射をして応戦している。


「うわああっ!!」


ドッカーーーーーーーーン!!


五対十本生えている足の一つが、装甲車を踏み潰した。

巨大な火の柱が爆煙と共に上がる。


まるでリアル怪獣映画。

特撮と呼ばれているスクリーンから、抜け出してきたかのような間抜けな光景だ。

その物体は『蟹』の形をしていた。


まるで、カニ料理で有名な店の看板を真似して、ふざけて造ったかのような姿をしている。

体は黒く光ったメタリック。

見るからにロボットだ。


だが、それは人工知能で動かしているのか、それとも誰かが操作をしているのかの判断もつかない。

身長は五メートルくらいある。

横幅は甲羅と巨大なハサミで、その倍はあるだろう。


とても正気の沙汰とは思えない光景だが、自衛隊は『蟹』を相手に苦戦を強いられていた。


「隊長! また、球体に戻りました……」


若い隊員が、涙声で通信してくる。

なぜか……巨大な蟹は、ある一定のダメージが加わると巨大なボーリングのような球状に変化するという行為を繰り返していた。


こんな不可解な出来事が起こったのは、昨日の夕刻からだ。

突然、犬や鳥が人を襲いだし、なんとか倒すと、それはロボットのようなものでできていて、しかも倒すと跡形もなく消えてしまう。


大東幸義(ダイトウユキヨシ)は、このふざけた惨状がまったく笑えなかった。


自衛隊に所属してもう十五年が経つが、こんな珍事は初めてだ。

しかも、なぜか外部とまったく連絡が取れない。

電話もネットもつながらない現状で出動したのは自己判断だった。


始めは、自分の頭がイカれたのだと思った。

頭の上には、目を持った奇妙な月が浮かんでいる。

おかしいのは、それだけではない。


何もかもが、おかしかった。


まず、S区から出られない。

道路は遮断され、壁のようなもので塞がれている。

まるで空間が切り取られたかのように、S区から逃げ出すこともできないのだ。


大東の隊は夕べ出動命令が下され、そのまま居残る形となった。

他の隊も出動しているはずだが、連絡が取れないので合流することもできない。


既に怪我を負った隊員は三十名近く。

そのうち五名は重傷だ。


死亡者こそまだ出ていないが、時間の経過と共に被害は拡大していく一方だった。


「一体、何なんだあいつは!!」


と、イライラ混じりに思わず怒鳴ってしまう。

いくら攻撃をしても倒せない。

それどころか、口から火を吐いたり手からビーム光線のようなものを発射したり大暴れだ。


球状に戻ると一切の攻撃を止める。

だが、それも小休止程度で、五分も経たないうちに蟹の姿に戻ってしまうのだ。


隊員達の疲労もたまってきている。

これと言って対応策もない現状、彼らは、いつ壊れるかわからない――いや、倒せるのかも分からないもの相手に、延々と攻撃を続けていた。


「撃てー!撃て!撃て!撃てー!」


大東には、もうそれしか言う事がない。

その攻撃の合間を抜けるように、ヒラリと人影が舞い降りた。


「あー、ダメダメ!今、攻撃しても弾の無駄だ」


隊員達が、一斉に見上げる。

その少年は、銃機器を積んだ特殊装甲車の上に立っていた。


「はあ?!何やってんだ、あのガキは!!」


と、大東は口をあんぐりと開けた。

背は高いが、横顔は、どうみても子供。

まだ高校生くらいの青年だ。

しかも茶髪に遊んで作ったかのようなふざけたガクラン姿で、両手にはトゲの付いたナックルをはめている。


どう見ても、アニメに影響されたコスプレにしか見えなかった。

もしくは気が狂ったアホだ。


「君!今すぐ、そこから降りなさい!!」


大東は、すぐさま拡声器を手に持ち張り叫んだ。

こっちは遊びでやってるんだじゃないんだ。

命がかかってるんだ! と、ゴツイ顔で睨みをきかす。

青年――霧谷龍樹は、振り返るとニコリと笑顔で答えた。


「あなたが隊長?」


「とにかく、そこから降りなさい!ここは危険だ。直ぐに避難を!」


できるだけ諭すように声の質を変える。

だが龍樹は、聞く耳を持たない。


「あいつは、今【回復】をしている。体力が一定の数値まで下がると、ああやって戻すんだよ」


「な、なにぃ?!」


あの青年は、この化け物を知っているのか?

大東が太い眉を眉間に寄せる。

例えそうでも、こんな子供を戦場に置いておくわけにはいかない。


「今度、体力が下がったら【俺たち】が最大のスキルで止めを刺す。そっちは、攻撃を止めてくれ」


もはや、何を言っているのかも理解不能だ。

いや、何を言っているのかは分かっている。

かなりふざけた指示だ。


この状況で自衛隊が突然現れた青年の指示に従うなど、馬鹿げている。

それに、これじゃ、まるでゲームだ。


何が体力だ。

何がスキルだ。


大東が、怒りで体を震わせる。

こんな子供のたわ言に付き合っている暇は無い。


「隊長、どういたしますか?!」


年若い隊員が大東に近寄ってくる。


「子供は無視しろ。今はかまっている暇が無い」


「いや……ですが……」


なぜか、隊員の口調が歯切れ悪い。


「俺も……同じ事を思っていたんです」


「はあ?!」


大東が間抜けな視線を返した。

まだ若いが彼も立派な自衛隊の隊員だ。

その青年が、大真面目で口答えしてきた。


「お言葉ですが隊長、俺も、あの青年と同じ意見です。あいつは、今回復をしているんじゃないかって思うんです」


「お前……何を言ってるのか……」


「分かっています。俺は十分に正気です。でも、あまりにも自分が知っているものに似ているんです」


「一体、何に似ているというんだ?」


「最近、非番の日に遊んでいるネットワークゲームのモンスターです。同じ仕様かどうかまでは分かりませんが、姿と攻撃スタイルはそっくりです」


大東は開いた口が塞がらない。


「それに……彼も似てるんです」


と、隊員が茶髪の青年を見上げた。





「マイマスター、霧谷龍樹に……」


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