表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Electric World  作者: 静野月
学校
22/31

第七話

「あの、その傷、手当てしましょうか?」


頬を押さえた手に触れられ、びくっと体を強張らせた。

現実で、こんなに近くで女の子を見たのは久しぶりだった。


「あ、ごめんなさい。痛かった?」


美寿々が、慌てて手を引っ込める。


「う、ううん、平気。それに、これくらい慣れてるし」


「ボク、クラスが違うから知らなかったけど、あいつらいつもああなの?」


「いつもは、もう一人。ボスみたいな人がいる。今日は学校休んでるからいないけど」


「あー……もしかして、関口君?」


そう言ったのは美寿々だ。


「うん」


「彼、小学校までは普通の男の子だったのに。なんで不良になっちゃったのかな」


美寿々の呟きに、そんなのこっちが知りたいよと言いたかった。

関口礼二のせいで、祐平の高校生活は最悪だ。



「あれ?」


ランチョムが、空を見上げる。

祐平と美寿々もつられて上を見上げた。



「なっ……」


祐平が絶句する。

まるで、天井が壊れたかのように巨大な黒い渦ができていた。


轟々と音を立てて大地が震える。

太陽は厚い雲に隠れ、突風が吹き荒れた。


「うわっ」

「きゃああっ」


小さな美寿々の体が、ふわりと浮く。


「根岸さん!!」


祐平は思わず吹き飛ばされそうになった美寿々の手を握り、給水塔の裏まで何とか避難した。


「まさか……」


ランチョムが、琥珀色の目を見開く。

黒い渦から、巨大な月が現れた。

真ん中には大きな瞳が一つ、地上を見下ろすかのように輝いている。


「イーヴィルアイだ」


祐平が、呟く。

美寿々も、ぽかんと空を見上げていた。


真っ青な空が紫色に変化していく。

明るかった地上が、薄暗くなっていった。


「これじゃ、まるで……」


『ElectricWorld』の世界、そのものだ。

イーヴィルアイの登場と共に太陽が消える。


風は止んだが、空気まで震えている気がした。

庇うように抱えていた美寿々が、ガクガクと震えだす。


遠くで、モンスターの鳴き声が響いた。

狩場でよく見かける、鳥タイプの機械化モンスターの声だ。


「入野君、これ夢だよね? こんなのおかしいよ! 現実とゲームの世界がごっちゃになるなんて。こんなの!」


龍樹が現れた時点から、とっくにこの世界はおかしい。

美寿々にとってもそうだ。

ランチョムが現れた時から、既におかしかったのだ。

それでも、美寿々の動揺は止まらなかった。

ぎゅっと抱きつかれ、祐平も背中に腕を回す。


「このままじゃ、私たち、死んじゃう」


「死ぬ?」


「だって、そうでしょう? 作ったキャラクターなら生き延びられるかもしれないけど、私たちは普通の人間なんだよ? 武器も装備も無いし、スキルだって使えない。雑魚モンスターにだって、襲われれば殺される」


美寿々の言う通りだ。

世界がEWになっても、自分達は普通の人間だ。

特殊な能力もなく、無力な人間だ。


「どうすればいいの?どうすれば……」


裕平は、美寿々のように考える事もできなかった。

ただ、呆然と紫色に染まった不可解な空を見上げている。



「美寿々、いつまでも泣いていられないよ。メカ・バードがきた。武器を装着するよ」


ランチョムが流星銃を装着する。

美寿々の体が、すーっと着え、ランチョムと同化した。


「そうだね。泣いてなんかいられない。入野君は、そこにいてね」


すっかり美寿々の口調になったランチョムが、空からやってくる鳥型のモンスターに狙いを定めた。


「コールドブリット!」


長い銃口から弾丸が発射され、機械化されたモンスターの体を打ち抜く。

撃たれたメカ・バードは凍りつき、屋上にドカンと落ちた。


「ひっ……」


祐平が小さな悲鳴を上げる。

あまりのリアリティに、体が震え上がった。


「ダブルブリット! レーザーバレット!」


スキル一発でメカ・バードが壊れていく。

だが、このモンスターはグループ型といって集団で行動をするモンスターだ。

いくらランチョムが高レベルでも、遠距離型のスナイパーでは群がれると死ぬ危険性があった。


でも、回避策はあった。

メカ・バードは高い所にいる敵は襲うが、地面に立っている時は襲わない。

ランチョムなら、屋上から地上に飛び降りても生き延びれるだろう。


「逃げて!」


と、祐平が叫ぶ。

でもランチョムは、下降してくる敵を一匹づつ倒している。


逃げられないんじゃない。

僕がいるから、逃げれないんだ……。


「大丈夫。第二集団がきたらヤバいけど、こいつらはEPエネルギーが持ちそうだ」


その第二集団が、イーヴィルアイの後方から飛んでくるのが見えた。



「くそ!」


と、祐平が地面を叩く。


こんな時に龍樹がいれば。



龍樹がいれば、こんな雑魚、いとも簡単に倒せるのに!



「龍樹! 龍樹いるんだろ! 力を貸せ! 貸してくれ!!」


大空に向かって、喉が裂けそうなくらい叫んだ。


「もう、帰れなんて言わない! 説教もきく! だから、お願いだ! 助けてくれ!!」


「……龍樹?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ