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Electric World  作者: 静野月
学校
21/31

第六話

ランチョムが、給水タンクから飛び降りた。

三メートルはある高低差をものともせず、ひらりと見事な着地だ。


見蕩れていると、バッチリ目が合う。

祐平は、急に恥ずかしくなり俯いた。


「ボクのことを知ってるってことは、君も【Electric World】をやってるんだね」


ランチョムに問われ、祐平が深く頷く。


「しかも、ボクが現れてもさほど驚いてないってことは、自分のキャラクターも現実の世界に現れた。そうだよね?」


見かけは子供だが、口調は大人びていた。

ゲーム内では話したこともなかったので、意外だった。

もともと、スナイパーは五つの職の中でも、もっとも操作が難しいと言われている。


そして、ランチョムはそのスナイパーの頂点、冷静な判断と正確な射撃の腕を持っている英雄だ。


「昨日……突然、目の前に現れたんだ。でも、今朝、いきなり消えちゃって」


「消えた?」


ランチョムが、細い眉を吊り上げる。


「ボクのキャラクター、どうなったんだろう? 君なら何か分かるんじゃない?」


「ふむ」


ランチョムが、小さな手で顎を摩った。



「どうなんだろうね。ボクは、ずっとこっちの世界にいるし、何分、こうなった原因も分からないし」


「やっぱり、そうなんだ」


祐平が、がっくりと肩を落とす。



「消える前に、何かきっかけみたいのは無かったの? HPが空っぽになったとか、死亡フラグが出たとか」



「ううん」


と祐平が首を横に振る。



「喧嘩したくらい」


「喧嘩? 自分と喧嘩したの?」


「だって……、あいつ、凄い偉そうなこと言うんだ。説教みたいのされたから、ゲームの世界に戻れっていいながら背中を押して……そうしたら、すーっと消えた」


消え入りそうな声で呟く。

他に、思い当たることはなかった。

でも、喧嘩が原因で消えるなんていうのも変な話である。


「なるほどね」


ランチョムが小さな溜息を吐く。

呆れたように祐平を見上げ、さっと銃の装着を外した。


小さな子供の体と、少女の体が重なったように見える。

そして、それはあっという間に分離していく。


「う……そ……」


現れたのは根岸美寿々だ。

祐平が、口をあんぐりさせながら硬直する。


「もしかしたら、自分で自分を否定したから消えたのかも」


美寿々の意見にランチョムが頷いた。


「相当ショックだろうね。ボクだって、美寿々に否定されたらやってらんないよ」


「あ……あうあ……ああ……」


ランチョムがガリガリと頭をかいた。


「あれ? そんなにショックだった?」


祐平は、てっきり大人の男の人が操作しているのだとばかり思っていた。

まさか、美寿々だなんて、龍樹が現れた時よりも驚きだ。


「まあ、自分と違う性別でキャラを作るなんて、よくあることでしょ。もしかして、入野君もやっちゃった感じ?」


「い……いや、僕は男……だけど……」


「そっか。うちのギルドに、すごい巨乳の色っぽいお姉さんのキャラクターがいるんだけど、その人中身は30過ぎのおじさんなんだよね」



「あ、あの……さ、根岸さんが学校にいる間、ランチョムはずっと屋上にいたの?」


「いやいや、スナイパーは【光学迷彩】ってスキルがあるから、それを使ってずっと一緒に行動してる」


なるほど、と思い出す。

光学迷彩というのは、カメレオンのように周囲の色や模様に応じて体表の色彩を変化されるというスキルだ。

レベルが低いと動いただけでスキルが解除されてしまうし短時間で元に戻ってしまうが、ランチョムならかなりの長時間【潜伏】することができる。


「それにしても、大変なことになりましたね」


美寿々が、不安そうにボブヘアーを揺らす。

祐平も、同じ心境だ。


「ランチョム以外にもEWの住人が現れているとすると、私、一人での妄想でも幻影でもなさそうだし」


「僕だって、自分の頭がおかしくなったんだと思ってた」


「だよねぇ、ボクだって未だに信じられないよ。まさか現実の世界で、人間を撃つことになるとは思わなかった」


「あ……」


何かを思い出したように、祐平がランチョムに顔を向ける。



「そうだ。助けてもらって、言うのもなんだけど、人間に向けて撃ったらダメだよ」


「あれは、ちょっと脅しただけ。ボクは弱いものイジメが嫌いなんだ」


「そりゃー、イジメはきついし、僕だって反撃したいけど。でも……」


美寿々がポンと祐平の肩を叩いた。


「入野君の言いたいことは分かります。ランチョムと同化した時、私の意志で止めることもできたのに、なんだか変なスイッチ入っちゃって。ごめんなさい」


「いや、根岸さんは悪くないんだけど……」


女の子に助けられたというだけでもバツが悪いのに、こんなの言えた義理じゃないかと頬を押さえた。

口の中に血の味が広がっている。

昨日と同じところを殴られたので、また同じ所を切ったみたいだ。



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