第二話
「龍樹、お疲れ様」
後方で支援してくれていたナスカが、近づいてくる。
彼は【シトロン】のメンバーで、ギルドマスターである俺の良きサポーター役だった。
今日のようなイベントがあると、指示系統を補佐してくれる。
俺だけでは、気の回らないことも多いので、彼の存在は大助かりだ。
そして同時に、ナスカは腕の良いトルーパーでもあった。
後方支援は、反射神経と瞬時の判断能力が要求される。
彼はその両方に秀でていて、ナスカの属するパーティは死亡率ゼロ%という伝説まである。
「ナスカも、お疲れ。今日は疲れただろう?」
「ううん、それほどまでは」
討伐をしたベヒモスからは大量のお金とアイテムがドロップし、今は、その分配が終わった直後だ。
「いやー、しっかし、アレはすごかったなー」
ギルドメンバーの声に、ナスカが頷く。
「ミスティックガードでしょう? いいよね。あれ、カッコいいなー」
「英雄なら全員使えるスキルなんだから、来月はナスカも頑張れよ」
「んー、愛燐がいる限り僕は無理だよ」
愛燐とは、トルーパーの英雄キャラクターだ。
確かに彼も上手いが、名前に愛って入っているクセに、どこか冷たい感じのするキャラクターだった。
もっとも、シトロンを立ち上げてから俺は他のギルドメンバーと狩りに行ったりする機会がほとんどなく、他職はよく分からないので下手なことはいえないが。
「俺は、ナスカの方が強いと思うんだけどな」
そう言うと、少し声を詰まらせる。
「ありがとう、龍樹。でも僕はいいんだ。君っていう英雄が僕のマスターなんだから」
そう、俺はElectric Worldの英雄だ。
二ヶ月に一度開催される英雄バトルの覇者である。
そして英雄は職ごとに一名選出され、英雄だけが持てる武器と技術を与えられる。
ファイターの英雄にして、ギルド【シトロン】のカリスママスター。
それが俺、霧谷龍樹だった――――。