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Electric World  作者: 静野月
学校
18/31

第三話

学校に行っても、格段いつもと変わらない教室だった。

関口礼二が休んでいるせいで、むしろ和やかな空気である。


昭成と誠は来ていたが、礼二がいないと空気のようなものだ。

彼ら二人が直接虐めてくる事はなかったので、裕平は久しぶりに平和な午前中を過ごせた。

クラスのみんなも、どこか砕けた表情になっている。

休み時間は、笑い声さえ上がり、いつものしんとした感じは礼二のせいだったのかと思い知らされた。


一人いないだけで、ずい分と変わるものだ。


裕平は、昼休み、屋上に上がって、のんびりとパンをかじった。


あれは……一体、何だったのだろうか。と考える。

龍樹は突然現れ、そして消えた。


ゲームの中に戻ったわけでもなく、忽然とどこの世界からもいなくなってしまったのだ。

自分が想像できるような状況じゃない。

でも、できるならゲームの世界で、もう一度龍樹になりたかった。


この世界に現れたEWの住人は全て消えたのだろうか?


それとも龍樹だけ?


絵の具で書いたかのような見事なスカイブルーの空には、綿飴のようなフワフワの雲が浮かんでいた。

もうすっかり冷たくなった秋風が、びゅーっと頬を掠める。


「ん?」


祐平の足元に、くしゃっと縛ったクセの付いている花柄のハンカチが引っかかった。

お弁当を包んでいたものが、どこからか飛んできたようだ。


「す、すいません」


拾いにきたのは、ボブヘアーの女生徒だ。

祐平も何度か見かけた事のある、隣のクラスの同級生で、はしゃぐタイプじゃない大人しそうな地味な女の子である。

名前は根岸 美寿々(ネギシ ミスズ)


美寿々も一人でお弁当を食べていたのだろうかと、見上げる。

手には小さなお弁当箱と、文庫本が握られていて、立ち上がった裕平よりも頭一つ背が低い。


「はい」


裕平は、ハンカチを取って手渡した。

美寿々が、手を伸ばして受け取ろうとする。


コツン。という小さな衝撃と共に、床に置いておいたペットボトルが転がった。

ほとんど減っていなかった琥珀色の液体が、ドクドクと流れ出す。


「あ……」


美寿々が、慌ててペットボトルを拾い上げた。上履きの爪先で蹴ってしまったのだ。


「ご、ごめんなさい!」


カフェオレは、もう半分くらい減っていた。

学校に来る時に、自動販売機で買ったものだった。



「気にしなくていいよ。こんな所に置いておいた僕も悪いから」


イジメのような悪質なものではなく、どう見てもただの不注意だ。

それに、自分でも何度も倒したことがある。


祐平はペットボトルを受け取り、キャップをした。

美寿々は「どうしよう」と戸惑いながら、俯いてしまう。



「あ、そうだ。私、新しいの買ってくるから、そこで待ってて下さい」


裕平は、体を反転させた美寿々を引き止めた。


「いや、本当にいいから。僕に話しかけてるの、他の人に見られない方がいいし」


昭成や誠に見られたら礼二に報告される。

そうしたら、美寿々にも被害が及ぶかもしれない。


だが、美寿々は不思議そうな顔をしている。

裕平が礼二たちに虐められているのを知らないのだろう。


「僕に関わらないで」


できるだけ簡潔に、分かりやすく説明をしたつもりだった。

でも、理解できていない様子で、哀しそうな顔をされる。



「本当に、ごめんなさい。私、ほんとにドジで」


「いいから」


「でも、それじゃ気が済まないっていうか」


普段、もっと悪質なイジメに会っている裕平に取っては、コーヒーをこぼされたなんで些細な出来事だった。

できれば自分と関わって欲しくないのに、美寿々は一歩も引かない。


「やっぱり買ってきます」


裕平は諦めて、美寿々の背中を見送り教室に戻ろうとする。

屋上にいなければ諦めてくれるだろうし、まさか自分の教室まではこないだろう。

そして、パンが入っていた空の袋と残り半分のペットボトルを持って立ち上がった時だった。



細身でひょろりと背の高い体つきと小柄で太った二つの影が裕平の目の前に落ちた。


「よう。こんな場所で、一人優雅にお食事か?」


昭成と誠が、裕平の目の前に立ちはだかる。

礼二がいないのに二人で絡んでくるのは珍しい。

だが、二人とも機嫌が悪いようで、態度や仕草からイライラしているのが分かった。

やはり大将がいないと、本調子が出ないようだ。



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