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Electric World  作者: 静野月
現実―リアル―
14/31

第三話

「……そんな事、十分知ってるでしょ。僕は、あの人、苦手なんだ」



恐らく、一弥も裕平が苦手だ。

本物の兄弟なのに、どうやって扱っていいのか分からない。

お互いが、そんな感じだった。



「まあ、これで俺の存在も兄貴にバレないし、しばらくは安泰だな」

「そうだね。やっぱり兄貴に上手く説明なんてできないしね」


きっと本当の事を言えば、バカにされる。

二人揃って、冗談を言っているとしか思えないだろう。


いや、兄貴の事だ。

冗談として受け取ってもくれないかもしれない。

からかって、何が面白いんだ?と軽蔑されて終わりかもしれない。



「なあ、まだ信じてねーの?」


「い、いや……そう言うんじゃないけど……」


と、二人で視線を向かい合わせる。



「どうしていいのか、分からないんだ」


「俺だって、なんで、こっちの世界に出てきたのか、ワケわかんねーし。どうしていいのかもわかんねーよ」


「だよね……」



龍樹が、ゴロンと絨毯に寝そべる。

もう充電が終わったらしい。



「まー、郷に入れば郷に従えって言うし。逃げる場所もねぇ、隠れる場所もねぇ。お前も、そろそろ腹決めようぜ」


「そ、そんな事を言われても……」



頭の中でグルグル悩んでいると、急に外が騒々しくなった。



「キャーーーーーーーーーーッ!」



という黄色い悲鳴に、龍樹が飛び起きベランダに出る。



「なっ、なに?!」


この辺は、夜遅いと人通りが少なくなるので、時々痴漢や引ったくりが出る。

当然、この悲鳴もその類の被害にあったのだろうと想像していた。



龍樹が、じっとマンションのベランダから下の道を見下ろす。


「あれは……」



祐平も後に続く。

この部屋はマンションの二階なので、下の道路がよく見えた。


「え?」


そして、その光景を見て、祐平の体が固まる。



「グルルルルルッルルルルルル」


低い唸り声が、風に乗って運ばれてきた。



「……犬?!」


半疑問系になってしまったのは、その姿が異様だったからだ。


まず、犬にしては体がメタリックに光っている。

それは、電柱についている外灯でも見て取れた。


そして、その瞳は真っ赤だった。

充血しているなんて、生易しいものじゃない。

赤い、ライトのような輝きだ。



「いやああああっ!!」



悲鳴を上げているのは、スーツを着ているOL風の女性だ。

会社の帰りなのか、高級そうなバッグを胸元に抱えて、道の中央にへたり込んでいる。



「グワッ!」



黒い犬のようなものが、女性に向かって飛び掛る。



「あぶねぇ!!」


止めるよりも先に、龍樹が飛び降りた。




「ちょ! ここ、二階なんだけど!!」



「そんなもの関係ねーし!!」



そう言えば、龍樹の手に武器が装着されていない。


夕べは、【ドラゴンナックル】を付けたままログアウトしたはずだ。



「まさか……武器がないのか?!」


祐平の心配をよそに、龍樹は犬に蹴りかかっている。



「ギャン!」


黒い犬が悲鳴を上げて、後ろに下がった。


動きを止めて充電を開始する。


それは、EWに出てくるモンスターが、スキルを使う前触れだった。


当然、祐平は、これが何なのか知っている。



龍樹が女性を庇うように目の前に立ちはだかった。


「ここは危ないから、逃げろ」


そう言われても、女性は腰を抜かしたようで動けない。



「龍樹! 武器は?! 無いのか?!」


祐平がベランダから張り叫ぶ。


龍樹が、ベランダを見上げ、ふふっと笑みを零した。



「当然、あるぜ。おし。こい、雑魚キャラ! 【ドラゴンナックル】で叩きのめしてやらぁ」


龍樹の両拳に、ごついナックルが装着された。

エレクトリックパワーを武器に充電させる。




「へ?」


祐平は、自分の体の変化に気づいた。



まるで、実態を失うかのようにフッと意識が途絶える。



龍樹の頭上に稲妻が下りた。

ドッカーン! という雷鳴と共に体が黄金色の輝きに包まれる。



「う……嘘だろ……」



祐平が意識を取り戻した時、目の前に見えるのは自分に襲い掛かってくる黒い犬だった。



「くっ」


頭で考えるよりも、手が先に出る。



「スクリュー・アタック!!」


高レベルで取得する、ファイターのスキルだ。



黒い犬もスキルを使っていて、二つの力が衝突する。



ドーーーーーーーーーーーーン! という衝撃音と共に、二つの火花が爆ぜた。



黒い犬が地面に転がり、ぐったりとする。



「キュン、キュキューン」



最後の断末魔と共に、動かなくなった。



龍樹が一撃で倒したのだ。



「な……なにコレ……」



龍樹が、自分の両手をじっと見下ろす。




正確に言うと、龍樹の体だが中身は祐平だ。


武器を装着した途端、彼の中に取り込まれてしまったのだ。



【なるほどねぇ。こういう仕組みなのか】


頭の中で、声がする。


まるで、耳打ちチャットをしているかのようだ。


「こういう仕組みって?……」



祐平は、まだ呆然としていた。


時間の経過と共に、黒い犬が点滅を始め消えていく。



【つまり、武器を装着すると祐平と合体しちまうってことさ】



「が……合体って……」



傍から見れば、龍樹が独り言をブツブツ言っているかのような光景だ。


後方から視線を感じ、はっと振り向く。



「う、うわ……、あの……」


祐平と同じく、女性もパニックを起こしているらしい。


綺麗にセットされていたと思われる髪は乱れ、口をポカンと開けている。



「……夢だと思って、早く家に帰るんだな」


龍樹が良いそうな台詞を吐くと、女性はポーッと頬を染めた。


「ゆ……夢って、あ、あの……」



立てないみたいだったので、手を差し伸べた。



「どうだ? 立てそうか?」


「は……はい……」



いくら見かけが龍樹でも、こんな口調を女性にしたのは初めてだ。


差し出した手を握り返され、道路に立たせる。



「怪我はないか?」


と思わず聞いてしまうと、女性はコクリと頷いた。



「な……無いです。大丈夫です」


思いっきり、意識されているのが分かる。



祐平は、困りながら頭をガリガリかいた。


「これ、どうやって戻すの?」


【恐らく、武器を解除すると戻るとは思うが、この人の目の前でやれねぇだろ。さっさと逃げろよ】


そう言われても、未だに手を握られたまま離してもらえない。



「あ、あの!助けていただいて、どうもありがとうございました!!」


ゲームの中なら何百回と聞いた台詞だ。


「じゃあ、俺はこれで」


「あ、あの! お願いします! 助けて頂いたお礼をさせて下さい!」


そんなのいいから手を離してくれよと言いたい。


でも女性の目は、すっかりハートの形になっていて、さっきまでの恐怖なんかすっかり忘れてしまったようだ。



黒い犬、あれはEWの世界にいる【メカ・ドッグ】だ。


龍樹が言った通り雑魚キャラの部類で、スキル一発で倒せるレベルのモンスターである。


その、わけのわからない機械化犬に襲われたというのに、危ない目にあったとか、倒した死体が消えたとか、そういう事実はどうでもいいみたいだった。



「わっ、私、高沢沙希って言います。23歳、独身、会社の受付をしていて、せめてお名前、良かったらメアド交換してもいいですか?!」



「……」



めんどくさいなと、強引に手を離した。



「悪い。急いでるから」



マンションに戻るわけにもいかないので、駅とは反対方向に突っ走る。

その先には大きな公園があり、調度いいと中に入った。


公衆便所の裏に回り、辺りに人がいないのを確認してナックルを外す。

龍樹の予想通り、祐平の体が龍樹の体から離れた。



「……龍樹と合体している時は、走っても疲れないんだ」



変な所に関心をしてしまった。

普通なら、こんな距離を走ればハァハァと息が乱れているはずだ。



「体力は満タンだしなー。ゲージが減ったら、ハァハァゼイゼイだろ」


「なるほど……」





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