第二話
「俺はElectric World、つまり自分がいた世界がネットワークゲームだという事を理解しているし、操作しているのが裕平だと分かっている。おかしいのもね。でも、だからといってなぜこんなことになったのか理由は分からない。でもさ、こうなった以上、この現実は受け止めないといけないし、祐平だって俺なんだ。少し冷静になってくれよ」
龍樹が、幼い子供を諭すようになだめる。
龍樹は現実の世界を見たことはないが、祐平の記憶があるので混乱はしていない。
なるほどとは思うが、そんなの納得はできなかった。
しかも、目の前に突き出されて見ると、益々、これが自分で作ったものなのかと疑いたくなる。
基本的に祐平と性格は同じはずだ。
しかし、それはゲームの中での性格。
作られた人格である。
「さ、着替えようか。俺も、これからのことを考えなくちゃいけねーし」
祐平の背中に大きな手が触れる。
それはまるで、本物の人間のように温かかった。
「大体さ、スキルの発動とかどうなんだよ。EWの世界は、空気に電気が帯電していて、それを貯めてるんだぞ」
ここには、パワーを充電してくれるトルーパーもいない。
当然だが、回復アイテムを売っている道具屋もない。
「それが……さ、感じんだよね」
龍樹が、胡坐をかいて座る。
エレクトリックパワーとは、よくあるファンタジー系ゲームの|MP{マジックポイント}に値するものだ。
スキルを使用する時は、このエレクトリックパワーが必要で、失われた|EP{エレクトリックパワー}は座って休憩することでも充電可能であった。
もちろん、龍樹くらいのレベルになってしまうと、フル充電するのに一時間は必要だ。
暇な時は、そうやって貯めるのもいいが、大抵の場合は間に合わないので、トルーパーに充電してもらったりアイテムで回復しながら狩りをする。
「感じるって、まさか充電してるの?!」
「ああ、そうみたいだ。夕べ、EPがほとんど空のままログアウトしただろ? こっちに着てから座ってなかったから、そんなに感じなかったけど、今は結構溜まってる」
EWの世界の設定は、戦争で荒廃した惑星だ。
核兵器に変わる光化学兵器の影響で、世界には高濃度の電気が帯電し、その空気中に帯電している電気を使いナックルや銃などの武器を使用するということになっている。
「んじゃ、装備やアイテムはどうなってるの?」
汚れた制服からトレーナーとジーンズに着替えながら、龍樹の装備をじっと見た。
我ながらカッコいい改造学ランで、着ているだけで素早さや力、体力などのステータスがアップする。
「EWの世界と同じだな。倉庫に入れてあるやつは持ってねぇが、普段、インベントリに入っている持ち物はそのまま残っている。でも、この前のイベントで回復アイテムも結構使っちまったし、ほとんど空だな」
それは、祐平にも容易く想像ができた。
大体、接続した時に足りないものを補充してから出かけているからだ。
「仕組みは分かってきたけど、兄貴になんて説明しよう……」
まさか、遊んでいるゲームのキャラクターが現実の世界に出てきてしまったなんて正直に言うわけにはいかない。
頭を抱えていると、龍樹にポンと肩を叩かれる。
「学校の友達でいいんじゃねーの? 無理に、嘘つくと後々大変だぞ?」
「うん、そうだね……」
それでも十分に不振がられるとは思うが、この際だから仕方が無い。
このまま龍樹を外に放り出すわけにもいかないし、離れるのはもっと不安だ。
「まあ、ジタバタしても始まらねぇから、俺は、こっちの世界を堪能しながら戻る方法を探してみる」
「堪能って……外をウロウロしたらまずいんじゃないの?」
「そういうわけにもいかねーだろ。それに、こっちに現れてるのは俺だけじゃないかもしれないしな」
「そ、それって……他にも現実の世界に出てきたキャラクターがいるってこと?!」
「いや、わかんねーけど、可能性はあるだろ」
龍樹の言うことはもっともだ。
もしかしたら、自分以外にも困り果てている人たちがいるかもしれない。
「そういやぁさ、俺、あまり祐平から離れられないみたいだ」
「え?!」
祐平が目を丸くする。
「さっき、家に帰ってくる時に感じたんだが、お前と離れられる距離はせいぜい十メートルだな。それ以上離れると体が勝手についていっちまうんだ」
つまりだ、と龍樹が祐平の目の前に人差し指をつき立てた。
「俺の可能な行動範囲は、祐平を中心に半径十メートルってことだな」
「うげっ、そ、それは困るよ!」
自分が学校にいる時はどうするんだと、顔を歪めた。
まさか一緒に授業を受けるわけにもいかない。
本当に、龍樹に関しての問題は山積だ。
どう見てもコスプレの変人にしか見えないし、おかしいくらいに綺麗な顔である。
元はCGなんだから当たり前だが、これはやり過ぎたと今更ながら反省をする。
しかも、本物の人間のように見えていて動いている。
質感もあるし、触れる。
そもそも、ゲームの中から出てきたということが異常なのだ。
【未来から来ました】と言われたほうが、よほど現実味がある。
Pipipipi・・・。
突然、机の上の充電器に立てかけてあった携帯電話の着信音が鳴り響いた。
電話など、滅多にかかってこないので、びくっとする。
裕平は、表示されている名前を見て更に驚いた。
『入野一弥』
兄貴からだった。
よほどの用事があるに違いない。
滅多に、兄から電話がかかってくることなどなかった。
「も、もしもし?」
不振感一杯に、オドオドと電話に出る。
『裕平、俺、ちょっと新しいバイト初めて家に戻れないんだ』
「そ、そうなんだ」
『しばらく一人にさせてしまうけど、何かあったら連絡しなさい』
「う、うん。分かった」
一体、何のバイトを始めたのか、どうして帰れないのか、どこにいるのか、いつ戻ってくるのか?
詳しい事は一切話さないし、裕平も聞かなかった。
でも、とりあえず、これで慌てて龍樹という存在を隠さなくても済む。
あまりのタイミングの良さだったが、兄の事がクリアされ安堵した。
『じゃあ、切るから』
「うん」
そっけない会話が終了し、再び充電器に立てかける。
「相変わらず、兄貴と上手くやってないんだな」
と、龍樹に皮肉を言われた。