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Electric World  作者: 静野月
現実―リアル―
12/31

第一話

祐平は、自宅に戻り自分の部屋に篭った。

龍樹と名乗る青年も一緒だ。


兄の一弥は外出中で家にはいない。

パソコンを起動させ、椅子に腰掛ける。


頭にヘッドセットを装着し、ディスプレイの壁紙に置いてあるアイコンをダブルクリックした。



認証画面が表示され、画面が暗転する。


モニターいっぱいに現れたのは


{Electric Worldにようこそ!}


だ。



「まさか……」


祐平はマウスを握ったまま体が凍りついた。

職別の五人のサンプルキャラクターが現れる。



{それでは、まず始めにキャラクターの名前と職業を決めて下さい}


ゲームデータが空っぽだ。

何のキャラクターも作られていないことになっている。


キャラクターの新規作成画面から、目を離すことができない。

【霧谷龍樹】のゲームデータが、全部消えてしまっているのだ。



「う……嘘だ……嘘だ……」


ぶつぶつと呟く。

その祐平の横で、龍樹もモニターを覗き込んでいた。



「そりゃー、データだって消えてるっしょ。俺は、こっちにいるんだから」



「うわあああああああっ!!」


奇声を上げながら、頭を掻き毟る。

祐平は、先ほど殴られた頬がどす黒くなっており、汚れた制服のままだった。


「すげーショックなのは分かるけどよぉ。ちょい落ち着けや。つか、まず着替えろ。制服汚ねーし、傷の手当てもしろよ」



同じ人物とは思えないほど龍樹は冷静だ。

だが祐平は頭が混乱して、気が狂いそうだった。




「なんて事だ!マジ、最悪だ!!お前、今すぐ、ゲームの中に戻れ!!」


自分よりも十センチ以上も背の高い龍樹に掴みかかる。

龍樹が子供を相手にするかのように、優しくポンポンと裕平の背中を叩いた。


「帰りたいのは山々だ。だが、戻る方法がわからねぇ。気がついたら、突然、こっちの世界に来てたんだ。どうやって、こっちの世界に来たのかも分からないんだ」


「なんでだよ……そんな無茶苦茶。おかしいよ……」


祐平は涙声だ。


礼二に殴られても涙一つ流さなかったのに、後から後から大粒の涙が頬を濡らしていく。




唯一の自分。

唯一の心の拠り所であった世界が消失した。



それは祐平に取って、現実の世界で死ぬよりも辛いことだった。



「とにかくだ、俺たちは元は一つの人間だ。俺も、お前も記憶を共有している事になる」


「記憶の共有?!」


「ああ。お前が【Electric World】の世界で知っている事は俺も知ってるし、知らない事は俺も知らない。同じく、この世界で記憶している事は知ってるし、お前が知らない事は知らない。見かけのキャラクターは違えど、中身は同じ人間だという事さ」


確かにそれは筋が通っている。

それでも、実感などまったく沸かない。


「恐らく、俺が、こっちの世界に出てきてからの記憶は共有されないと思うが、俺もこの世界の常識を知っているという事になる」


「だから、それがどうしたっていうんだ!」


祐平が苛立ち紛れに叫ぶ。


龍樹が、ヤレヤレと頭を撫でた。


祐平は、まるで大きな子供のようだ。




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