第四話
「これで、あいつらが僕を許すと思うの?マジで迷惑なんだよ。これで明日から……僕はもっとイジメられる……」
裕平は、青年の顔をみようともしない。
壁に身を預けたままぐったりとしている。
「お前は、それでいいのか?」
青年に問われて、裕平の中で何かが音を立てて切れた。
子犬のような瞳を見開き、髪の毛をかきむしる。
「いいわけねーだろ!! 僕だって嫌だよ!! でも、仕方ねーじゃん!! 僕は、あんたみたいに強くねーんだ!!!」
本当は嫌だ。
こんな世界、住みたくない。
イジメられたくない。
他の生徒みたいに、学校が楽しいと言ってみたい。
もう、止めたい。
止めたい。
止めたい。
本当は、誰かに助けて欲しい。
でも、誰も助けてなんかくれないんだ。
助けて欲しい。
助けて!
助けて!!
「助けて……、助けて……、助けて……、助けて……、助けてよ……」
呪いのように呟いた。
青年が、すっと壊れた眼鏡を裕平に手渡した。
「強さってのは腕力や権力じゃねぇ。強くありたいって【心】なんじゃねーの?」
「【心】? そんなもの……何の役にも立たないよ」
「俺は、そうは思わないね。弱さは自分の心の中にある。それが克服できなきゃ、ずっと弱いままだ」
「それって……」
やっと裕平が顔を上げた。
夕日に照らされた青年の顔を見上げる。
前髪の長い茶髪に、細身だが均整の取れたスタイル。
一見、制服にも見える服装。
「まさか……」
目から眼球が零れ落ちそうなほど見開く。
派手な金糸で縁取られた詰襟、ジャラジャラと飾りの付いたジャケットにパンツスタイル。
まるでコスプレ。
そして、その服装を裕平は良く知っている。
それは――――、最近、ネットゲームの中で獲得した【装備】にそっくりだった。
「まさか、まだ、分かんねーの?」
と、青年がニイっと両方の口角を吊り上げる。
裕平は、ふるふると首を振るだけだ。
「俺は霧江龍樹だよ」
「そ……そんなはず、あるものか! ぼ、僕をからかってるんだな?!」
「からかってねーよ。なぜか【こっちの世界】に出てきちまったんだ」
それでも、まだ裕平は必死に首を振っていた。
「なら、これは夢だ! どう考えても、こんな事、現実にあるわけないじゃないか!」
「だよなぁ」
と、龍樹が苦笑いを浮かべる。
「でも、まあ、これは現実なんだから仕方ねーだろ」
「……いや、きっと僕はさっき殴られて気を失っているんだ。それから、後は全部夢で……もしくは、もう全部……夢なんだ……」
祐平が地面に額を付けて倒れこむ。
「ヤレヤレ。重症だな」
と、龍樹は呆れ顔で裕平の体を起こした。
「とにかくさー。出てきちまったもんは、仕方ねーだろ。っつー事で、よろしくな【俺】」
と、爽やかな笑顔を浮かべる。
一体……どういう事なんだ?
何が起こったんだ?
と、裕平が頭の中でパニックを起こす。
こうして、裕平と龍樹は十一月の夕暮れ。
【現実の世界】で出会った――――。