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第3-2話 『めぐり合い、悪し』

「さて、この落とし前どう着けてくれるんだ?」

 謁見の間にて、ルークは玉座にふんぞり返って座ると、とびっきり邪悪な笑顔でそう告げた。

 足跡の主は小太りの中年とその連れの衛兵であった。四人はその中年の指示により、直ちに牢屋から解放されると、ここに通されたのだ。

「そ、それはですね……殿下……」

 ルークから、中年の表情は見えなかった。何故なら彼はルークの長い脚が届きそうな距離で額を床に擦りつける様に土下座をしているからだ。彼こそが現ヴィンド伯ベルマンである。

「どうした、ベルマン? 良く聞こえんぞ? ハッキリと物申せ」

 解っている癖にルークはこんな意地悪を言う。立ち上がると彼はベルマンの頭に足を乗せる。そして、彼はベルマンの後ろでこれまた震えながら同じ姿勢をしている衛兵に視線を向けた。ルークの悪評はこの地にまで及んでいるのだから彼らの反応と言うものは至極真っ当なものだろう。

「殿下……わたくしめの監督不届きとは言え、この者が確かめもせず勝手にやった事でして……」

「名は?」

「早く、殿下に! ……ふぎゅっ」

「お前には聞いていない」

 ルークは一瞬イラッとした表情を見せるとベルマンの頭に乗せた足に力を込めた。そんな様子を見せつけられて、怯えてしまった可哀想な衛兵は「……ヘイルと申します、殿下……」と、蚊の鳴くような声で何とか答えると涙目で頭を上げた。

「ヘイルとやら……」

「全ての責任はこの者……ひぎゃっ」

「黙れと言った」

 今度は無表情で踏みつける。ルークの余りの迫力に「ひぃ……、お許しを……お許しを」と、ヘイルと名乗った衛兵は尻もちを着いた格好で後ずさろうとするも、体が震えきってしまって動く事すら敵わないようだった。

 そんな様子を見てフィーナは『これは無理だ』なんて無責任な感想を抱く。ライドの時は自らの感情に任せて、あんな行動に出てしまったが、いや、あの時はルークは怒ってなどいなかった。だから、自分でも止める事ができたのだ。

 ヘイルを哀れとは思えど、彼女は言葉を発しようとはしなかった。正しくは発せなかった。それ位、今のルークには迫力があったのだ。

「ヘイルとやら、お前は勘違いしているぞ? 俺はお前に謝りたいのだ」

 そう言うとルークは途端に穏やかな表情になり玉座に座り直す。

「あれは俺が悪かった、許せ。俺とした事がうっかりしていたのだ。王城より出でて四カ月近くが経つ。言い訳で悪いが、そうだな、ここはヴィンド城であった。つまり、門番が俺の顔を知らぬ、と言う事を忘れていたのだ。それを無理に押し通ろうとした俺が愚かであった」

 ここでルークは一旦言葉を切ると、立ち上がりヘイルの手を取り立たせてやる。状況が理解できずにポカンとした表情のヘイルが実に間抜けであった。

「お前は自らの職務を忠実にこなしただけなのだ。俺はそれに感動さえ覚えているのだ。怯える必要などない、むしろ、その実直さを誇れ」

 そう言ってルークは彼の肩をポンと一回叩くと、また玉座にふんぞり返った。そして、しばらく思案に耽ると、この城に仕える皆を謁見の間に呼ぶように指示を出した。

「貴様ら、一度しか言わんから良く聞け。以後の人生、一秒たりとも将来の主であるルーディラック・グリーンヒルドの顔とこの声を忘れる事を禁ずる。」

 一同が集まると彼は立ち上がりやや芝居がかった仕草で演説を始めた。

「俺がヴィンド公となった暁には貴様らの出自、身分を例外なく俺様の元に平等と見なそう。つまり、貴様らは俺と国家の為に働くのだ、と言う事を――候ではなく公に仕えると言う事を知らねばならん。」

 要するに彼はベルマンではなく自分の配下なのだと言った訳だ。本人がいるまえで全くひどい話である。

 しかし、彼の仕草と口調は実に堂々としていて、フィーナはまるでおとぎ話の様だと思った。同時に一段低い場所で揉み手をしながら愛想笑いしているベルマンが滑稽であった。

「ふむ、察せぬ、と言う感じだな。……よかろう。平等に見なす、と言う意味を体現してやろう。――ヘイル、前に出ろ!」

 ルークはここで一回言葉を切ると周囲を見回した。殆どの者が事情を理解していないで招集されたのでポカンとした表情をしていたが彼は構わなかった。

「はい」と、今の状況を理解している数少ない人物であるヘイルは気恥ずかしそうに頭を掻きながらルークの前に出ると膝を着いた。

「この男、王子を騙る者どもを怯む事無く投獄した。実に職務に忠実で実直な男である。よって、この見事な門番を衛兵長に取り立てる事をグリーンヒルドの名において約束する」

 辺りからどよめきが起こった。当の本人であるヘイル自身、予想以上の言葉に驚きを隠せないでいる。ルークはそんな彼らを咎めもせずに続けた。

「平等とは、貴族だ、平民だ、なんぞは関係ない。貴様らが正しく立派な仕事をすれば、それに相応しい褒美を与える。つまり――そう言う事だ。」

 そう言って彼はニヤリとした。どよめきが沈黙に変わった。沈黙と言っても彼らの顔は明るいものであった。実の所、彼の言葉を全て理解した者は少なかったのだが『どうやら、この王子は太っ腹だ』と言う事はその場の皆に伝わったようだ。

「さて、ベルマン。今日は()の民に出会えた良き日である。宴の準備をせよ。無礼講だ。貴様らも参加せよ」


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