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第3-1話 『めぐり合い、悪し』

「ねえ、旦那。無視は酷いッスよー」

 先ほどからフィーナはハラハラしっぱなしだった。廃坑を後にした三人にしつこく付きまとう青年。そして、先ほどから黙して語らずのルーク。いや、彼のイラついた表情が雄弁に語っていたかもしれない。

 フィーナの心配事と言うのはつまりルークがいつキレるか、の一点だ。先ほどは何とか彼を止める事ができたようだ。しかし、この有様では彼がキレるのは時間の問題であった。あのいつも無表情なアイナでさえ、少しイラッとした表情をしていて、彼の冷たい命令を待っている節さえあった。

 確かに青年もしつっこかった。だが、フィーナにはこの何処か愛嬌のある青年が悪人には思えない。そんな彼が理不尽に斬られるのは忍びなかった。だから、フィーナはハラハラしっぱなしだったのだ。

「旦那ってばぁ」

「ね、ねえ」

「何スか、お嬢さん?」

 尚も食いさがる青年に、『そろそろ限界では?』と、感じたフィーナが助け船を出した。自分に向けられた妙に愛嬌のある笑顔が実に憎々しかった。

(テンション低いのに……。おしゃべりするような気分じゃないのに……)

 フィーナは心の中で毒づいた。しかし、人命には代えられない。こう決意すると無理やり明るい表情を作った。

「わたし、フィーナ。キミのお名前は?」

「オレッチすか? オレッチは自由騎士ライドっス。以後お見知りおきを」

「ところで自由騎士って何?」

「フンッ、傭兵風情が騎士を名乗るな」

「ハハハ、こりゃ、手厳しいッスね。簡単に言うと騎士志望の傭兵って所ッスね」

「へー、騎士になりたいんだ?」

「そうッスよ。傭兵も気楽でいいんですがね、ホラ、最近は戦争も滅多にないでしょ? そうすると収入が安定しないんスよ。だから、今日みたいにどこぞで山賊退治でもしてその報奨金でおマンマにありついてるって訳ッスよ。……ハァ、どこかで騎士にしてもらって故郷のかあちゃんと兄弟たちに楽をさせてやりたいもんス」

 ライドと名乗った青年は目を輝かせてそう力説する。

「へー、キミも苦労してるんだねー。騎士になりたいんだったらしてもらえば?」

「誰にッスか?」

「アイツに」

 そう言ってフィーナが指さした方向を見てライドは「へ?」と素っ頓狂な声を上げた。

「おい、貴様。コイツは俺様の獲物を横取りした出歯亀野郎だぞ。誰がそんな不愉快な男の剣を取ってやらねばならんのだ? 冗談は顔だけにしておけ」

 いつも通りとは言えルークの暴言にムッとしたフィーナは喰って掛かろうとするがそれは遮られた。何故ならフィーナの言葉にライドのテンションがマキシマムを迎えてしまったからだ。

「ちょ、ちょ、ちょっ、旦那! 経ち振る舞いや容姿から身分の高いお人とは思ってましたがどこのどちら様なんスか!」

「俺様はグリーンヒルドの王子様だ」

「はぅっ! 王子様! 王子様! って、ことはルーディラック殿下でいらっしゃいますか!」

 しまった。と、珍しくルークは後悔をした。自らの言葉にこの男は更にテンションをあげてしまったのだ。尚も「殿下! 殿下! ルーディラック殿下!」と悶絶しつつはしゃぐ彼をやはり斬っておくべきだったと後悔をしたのだった。

「王子様、どうかオレッチを騎士にしてくださいッス!」

「何よりも先に言いたい事がある二度と俺をその呼称で呼ぶな」

「ハイッス、殿下!」

「……貴様、わざとやっているだろ?」

 ルークは米神をひくつかせながら剣に手を掛ける。ルーク達は言わばお忍びの旅の途中だ。なので身分を明かす呼称で呼ばれるのは問題があった。まあ、そんな事を知らないライドの反応は実の所真っ当なものなのだが……。

「い、いや、そんな事無いッスよ、旦那。だけど、オレッチの腕前は見てくれたッスよね? 悪い買い物じゃないッスよ」

 ルークの怒りに反応して、すぐさま土下座をしながらも自分をアピールする。そんな彼を見てフィーナは『こなれてるな』と思った。

「よし、解った。貴様を騎士にしてやろう」

 ライドの土下座を見て、しばらくの間、腕を組みながら黙していたルークが折れた。

「ありがたいッス!」

「よし、そんな貴様に任務を与えてやる。謹聴せよ。まず、貴様の足元に人がすっぽり入れるぐらいの深さの穴を掘れ」

「ハイッス!」

「そして穴が掘れたら貴様が中に入り穴を埋めよ」

「それじゃ、死ぬッス!」

 少しの間、本気で穴掘りをしていたライドがツッコむ。

「フィーナ!」

 そんな彼の様子を見て、「うむ」と満足そうに頷いたルークがターゲットを変えた。

「貴様も俺様に仕え続けたいのなら、この程度のノリツッコミはできるようになれ」

「何でよ!」

 憤慨しつつもフィーナは悪い気分ではなかった。あんなに酷い事を言った彼がまだ自分をお供にする気があるという事。それに彼が自分を初めて名前で呼んだ事。何となくそれが嬉しかったのだ。

「まあ、戯れはこんな所で終わりとするか」

「ちょっ、戯れってどこからが戯れなんスか?」

「貴様を騎士にしてやる、からだ」

「そんな……酷いッスよ……」

「黙れ、下郎! 今後、場合によっては……いや、万に一つぐらいは貴様を騎士にしてやる気になるかもしれない。しかしだ。その前に貴様にはやる事があるだろ?」

 そう言ってビシリとライドを指さすルーク。ライドは唾を飲むばかりだ。

「貴様は俺の楽しみを奪った。そして、貴様はそれの報酬を得る。ならば、貴様のすべき事は唯一つだ」

「そ、そりゃ、豪華なメシの一つぐらいは奢らせてもらうッスけど……」

「ほう、随分と安い命だな」

「ぜ、全部寄こせって言いたいんスか? そりゃ、あんまりッスよ!」

 ルークの言葉を察して情けない声を上げるライド。

「ガハハハハ。さて、その報奨金とやらを頂きに城に参ろうではないか!」

 そんな彼を無視して高笑いと共にルークはがに股で歩き出した。



「ねえ、旦那。王子様だってのは嘘だったんッスか?」

「フンッ、そうかもな」

 ライドが困り顔でこう尋ねると、ルークは短くそう答えた。

 彼らはなんともある一方高だけやたらと見晴らしが良く、堅牢無比な小部屋。つまり牢屋にいた。

 慇懃無礼に入城しようとしたルーク達を見咎めた門番によって捕えられてしまったのだ。

 そんな状況にあるにも係わらずルークはどこか楽しげな表情でいたし、アイナはこれと言った表情は見せずに自らの膝に彼の頭を乗っけていた。そんな落ち着いた有様の二人を余所にライドはここに連行されてからと言うもの落ち着きなくオロオロとしっぱなしだった。フィーナはと言うとそんな三人をボーっと眺めているだけだった。

「しまったッス。失敗したッス。旦那が王子だって言ったから、こりゃ美味い汁が吸えると思ってご一緒させてもらったってのに!」

 ライドがこう言って頭を抱える。そんな彼をルークは楽しそうにただ見つめるだけだ。そして時折、アイナの太ももに頬擦りをし、彼女が少しだけモジモジするのをこれまた楽しむ。

「かぁー、何余裕ぶっこいちゃってるんスか。よりによって王族を騙ったとなると……」

「死刑なんでしょ?」

 ライドが言い終わる前にフィーナが割って入った。そんなやり取りをルークはクックックと笑いながら「その通りだ」と答える。

「アンタら、何でそんなに落ち着き払ってんスか!」

 フィーナとしても不思議ではあった。本来であれば自分も彼の様に狼狽していたはずだ。それなのに身の危険などこれっぽちも感じずにいるのだ。

その根拠はルークの表情だった。彼のあの表情には覚えがある。フィーナをねちねちと扱き下ろす時に見せるのがそれであった。それを見てしまうと彼女としては、その対象に憐れみの念を抱けど、動揺するはずもなかった。

「迎えが来たようだ」

 石畳を忙しく鳴らす、複数の足音が聞こえてくるとルークはゆっくりと体を起こした。


登場人物紹介


ルーク(ルーディラック・グリーンヒルド)……『グリーンヒルドの狂王子』の二つ名を持ちフィーナを罵倒するのが趣味のドS。設定上は国民に酷い事をしているようだが本作はコメディーなので残酷描写はありません。


アイナ・スタンフィード……ルークの身の回りから下の世話までなんでもこなす美人従騎士。登場人物が増えて影の薄さが加速する。


フィーナ……自業自得でルークに捕えられてしまった少女。途中で変わるかもしれないが少なくとも前半では主人公。本作は作者が美少女を言葉攻めにしたい、と言うとても高尚な考えから始まっているのでヒドイ目に合う役である。


トリスタン……童貞王。


リーナ……出ちゃった。


ライド……廃坑にてルーク達と出会う。ルークに取り入って立身出世をしたいようだ。

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