エピローグ
「これは、これは殿下、いかがしましたかな?」
あの後、ルーク達はすぐにヴィンド城に急いだ。そして、謁見の間にてベルマンと対峙したのだ。
「ベルマン、もう芝居はよいのだ。ライドが全てを語ったぞ」
ルマンは絶句した。そして、青ざめ脂汗を浮かべた顔で「何の話ですかな?」と、白々しくも尋ねた。しかし、ルークの冷たい視線を感じると彼は観念したのか「あの若造め……裏切り追って……」と、言葉を絞り出した。
「やはりな」
ルークの言葉は虚しかった。つまり彼はカマを掛けたのだ。しかし、彼の言葉は青くなったベルマンの顔を憤怒の形相に変えるには十分だった様だ。
「安心しろ。あの見事な男は口を割らずに逝ったぞ。天晴な最後であった」
「……貴様ぁ! 貴様が悪いのだ……。貴様がワシを侮辱しなければ……」
ベルマンの憤怒の形相はやがて悪鬼のそれに変わっていく。
「者ども、コイツは賊だ。捕えよ!」
二つの声が同時に響いた。ルークとベルマン、両者が同じ言葉を放ったのだ。
その言葉に控えていた衛兵が動く。捕えられたのはベルマンであった。つまり、彼は部下に見限られたのだ。それもそのはずだった。滞在時におけるルークのロビー活動ももっともだったが、どちらが支配者であるか誰の目から見ても明らかであったからだ。
「ワ、ワシではない。奴を捕えよ!」
「愚かな男だ。貴様は俺による権力の浸食を黙認したのだ。この結果は明白なのだ。俺を敵に回した時点で貴様の負けは決まっていたのだよ」
「ぐっ……」
「しかし、貴様は幸運でもある。本来なら今すぐ斬り殺してやる所だが、幸いな事に貴様は貴族だ。あらゆる罪において裁判を受ける権利を有している。間もなく、王の使いが来る事だろう。おって沙汰を待て」
こう言い残すとルークはアイナを伴ない部屋を後にした。いや、一度だけ振り返り。
「安心しろ、ベルマン。あらゆる手段を使って有罪を真逃れようとしても、王はそれを上回る手段を使って貴様を有罪とするだろう。そして、貴様が殺してくれと懇願するような罰を与えてくれよう」
そう言ったルークの目は冷たく、また、声も冷たかった。
「……これは参りましたね」
流石にこれをリーナに聞かれる訳にはいかなかった。
「彼にはまだ旅を続けて貰わないといけないようです……」
一月後、ベルマンの自白により三名の貴族が急死した。つまり、若き王子たちの復讐劇が終わりを告げた訳だが。それでもトリスタンの顔は冴えなかった。
「ねー、次はどこに行くの?」
「何だ? 貴様はまだ着いて来る気なのか?」
「え?」
フィーナにとってそれは実に心外な言葉であった。自分は確か彼に連れ回されているはずだ。それなのにこの言われようは何なのだ!
「だってさ、わたしってルークの奴隷とか設定じゃなかったの?」
「あっ? ああ、その話か。貴様にとって幸いな事に今の俺は機嫌がいい。恩赦だ、恩赦。特別に奴隷解放令を出してやろう。ありがたく思え」
「ムッキー! 何よ、その言い草は! もう、許せないわ。絶対に寄生しつづけてやるんだから!」
「フンッ、それが貴様の選択だと言うのであれば好きにしろ。このサナダ虫が!」
「だから、アンタのそういう所がムカつくのよね!」
「ルーク、私は騒がしいのが好みではありません」
「なら、この姦しい口を縫って黙らせるか?」
「アンタ、アタマおかしいんじゃないの?」
「フン、俺の二つ名を忘れたか?」
そう言ってルークはニヤリと笑った。
狂王子物語 END
えーと、言い訳がましいようですが打ち切りしたわけじゃないですよ!本当に最初からこんな感じの終わりを予定していたのです。
作品のテーマはずばり『水戸黄門』です。それに加えてボクの考える最強のパターンの一つである心の強さと言葉攻めを入れてみたつもりです。
内容的には明らかにルークが主役なのですが、ってか、本来はルークの葛藤なんかを描くつもりだったんですが、『心の強い人間が葛藤するとか何だよ』って事で準主役に降格となりました。
作者本人の感想としてはもっと人物を魅力的に書けたら良かったな、って言う後悔はありますし、活動報告の方に書いた様にセリフをかなりカットしているのでライドのキャラが意味不明って言う自分の筆力の無さに反省したりしています。
それでは拙作を気に行ってくださった方がいらっしゃったら次回作でまたお会いしましょう。