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プロローグ

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プロローグ


「国王陛下よ、何の用だ!」

 そう言って乱暴に扉を開けて入って来たのは美しい女騎士を従えた実に慇懃無礼な若者であった。彼は催促されたわけでもないのに乱暴に椅子を引くとやはり乱暴にそこに座り実に不機嫌そうな表情で足組みをした。

「ルークよ、私を国の王と認めるのなら少しは態度に出しなさい」

 国王と呼ばれた青年はこの実に無礼な振る舞いの若者に苦虫を噛み潰すような顔をして彼を宥める様にそう言うのである。

 この二人の男たちは髪型こそ違えど実によく似ていた。共に金髪碧眼、そして実に整った容姿をしているのだ。しかし、自信の持つ雰囲気は全く異なっていた。ルークと呼ばれた若者はどこか詰まらなそうな、そして不機嫌そうな覚めた目をしているのに対して、国王と呼ばれた青年は実に穏やかで優しげな表情をしているのである。

「で? 何の用なのだ?」

 ルークがふんぞり返ったまま、再び国王に問う。

「……ルークよ。いや、ルーディラック・グリーンヒルドよ。これより一年の間、神聖なるグリーンヒルドの姓を名乗る事を禁じます」

 その問いに対し国王――トリスタン一世――は優しげな視線を彼に向けたまま答えたのだ。

「何だ? 俺を処刑でもするのか?」

「ルークよ、よく聞くのです。お前も後一年と半年で二十歳となります。その成人の儀の時、お前はヴィンド公を名乗る事となるのです。その事をちゃんと理解しているのですか?」

「フンッ、御大層な言い分だが要するに厄介払いだろうが」そう答えた彼の声は冷たい。

「公国とは言え、お前は一国の主となるのです。先王たる父君が亡くなられて十年、私はお前の育て方を間違えたと実に後悔しているのです。早くに両親を失ったお前とリーナに不憫な思いをさせてはいけないと甘やかしすぎた事を反省しているのです」

 そう、似ているのも当然の話だ。二人は十も年が離れてるとはいえ、血を分けた実の兄弟なのである。

「聞けばルークよ、お前は政務も放棄し町へと繰り出しては暴れ、町娘たちに強引に伽をさせていると言うではありませんか」

 賢兄愚弟とはよく言ったものだ。宮内では実に聡明な名君であるトリスタンに対して、慇懃無礼で粗暴なルークの事をグリーンヒルドの狂王子と陰で呼ぶものも少なくはない。

「フンッ、陛下よ――いや、兄上よ。強引と言うのは嘘だな。俺の子を身籠れば一気に王族の仲間入りだぞ? 女の方から股を開くってもんだ」

「そういう問題ではありません! お前は私の弟――つまりは第一位の王位継承者なのです。慎みを持ちなさいと言っているのです!」

「……だから兄貴は二十八にもなって童貞なのだ……」

 だるそうに片目をつぶり小指で耳をほじりながらルークがボソッとそう呟くと流石の兄王も怒りに肩を震わすのであった。

「わ、私が女性と縁がないのは単に政務が忙しいからであって……」

「どこぞの国から早く妃を娶って国民を安心させてやればよかろう。……兄上、もしやホモなのか?」

 そう言って耳くそを指でピンッと弾くのである。

「お前に国民の事を語られたくはありません!」

 激昂したトリスタンがルークに掴みかかろうとするのを止める影があった。彼の後ろに控えていた女騎士である。年の頃はルークと同じぐらいだろう。長い髪を後ろでまとめ前に垂らしていて卵型の輪郭の美しい顔、そして出る所は出て引っこむと所はきちんと引っこんでいる素晴らしい体形の持ち主でもあった。

「アイナ! 放すのです!」

「それは陛下のご命令であっても従うわけにはいきません」

「フハハハハ! そうだろう、そうだろう。アイナは俺の唯一の軍隊であり、唯一の領土であり、唯一の国民であるのだからな。兄上の命令は聞かんよ」

 ルークの言葉を聞くと怒りが治まったのかトリスタンは額に手を当てるとハァとため息を一つ吐くと彼に告げるのであった。

「私が言いたいのはお前には支配者としての自覚が足りないという事なのです。私が甘やかして育てたせいでお前は他人を敬うという事を知らないのです。それでは臣下や国民はお前を主とは認めないでしょう」

「ハッ! 俺が他人を敬わない? 安心しろ、俺はちゃんと兄上を尊敬しているぞ。だから内乱も起こさずに敢えて王位を狙わないのではないか!」

「ハァ……。お前は私に向けるその感情を他の者にも向けられないのですか?」

「愚問だな。その他人とやらに尊敬ができる何かがあれば自然とそうなるに決まっておろう。ただ、現状俺にはそれに値する者が兄上だけだと言う話だ。それに民が俺を認めないと言うのであれば認めさせればいいだけではないか」

「どうやって認めさせるつもりですか?」

「なぁに、俺に従わないのであれば、ほんの数%を虐殺でもしてやれば奴らは喜んで従うだろうて」

「ハァ……」

「安心しろ、兄上。奴らは根こそぎにしなければ勝手に増えるさ」

 そう言ってルークは落ち込み気味の兄の肩を優しく叩いてやるのだ。どうやら彼には兄の落胆の原因が解らないらしい。そして、彼は身を翻し退室しようとするのだった。

「……だからなのです。お前は公の位を得る前に臣民は――彼らもまた、お前と同じ人間なのだと言う事を学ばなくてはならないのです」

 その言葉にルークは歩みを止めただけで振り返らなかった。

「お前は今日から一年の間、王族より外れ旅に出なさい。自らの肌で感じるのです。お前がこれから納める国や民を。そして、民の生きた生活を知り、良き支配者となるのです」

 ルークの視線は冷たかった。その視線はとても自ら尊敬していると言った兄を見る目ではなかった。そして彼は兄を鼻で笑った。

 彼は常日頃から思っているのだ。支配者である王族は臣民――家臣に至るまで――の心を知る必要などはない、と。それを知ってしまえば情に流される。情に従った治世と言うのは脆く崩れやすいものだ。今は彼が生まれてより一度も大きな戦争がないとはいえ、停戦中とはいえ、統一戦争の真っただ中である事自体は間違いないのだ。それに支配される事に甘んじる輩などは素直に支配者の弁に従っていればよい。

「ルークよ、よくお聞きなさい。お前が実に優秀な人間である事は認めましょう。お前にその気があるのであれば私は王位を譲ってもよいとさえ思っているのです。しかし、今のままではそれは叶いません。お前は支配者にとって最も大切な徳が欠けているのです」

 トリスタンの言葉に嘘はなかった。結局は却下される事となったが十年前、先王たる父が急死した際に家臣団に自分が宰相の地位に着き弟を王位に着けると宣言したほどなのだ。

 彼の説教――もはや元の話はどうでもいいようである――は以後数十分に渡わり続けられるのであった。それに辟易した表情のルーク。

「フンッ、今回だけだ。……今回だけは兄上に従ってやる」

 そう言ってアイナを従え部屋を後にするのである。

思わず苦笑い。

 兄が自分に甘いように、また自分も兄に甘いのだ。

 そして、元の仏頂面に戻ると思いを馳せるのである。

 兄が語らなかった旅の本当の目的に……。


 こうして狂王子と呼ばれたルークの旅が始まったのだ。


登場人物紹介


ルーク(ルーディラック・グリーンヒルド)……『グリーンヒルドの狂王子』の二つ名を持ちフィーナを罵倒するのが趣味のドS。設定上は国民に酷い事をしているようだが本作はコメディーなので残酷描写はありません。


アイナ・スタンフィード……ルークの身の回りから下の世話までなんでもこなす美人従騎士。彼女には古代魔法文明のアンドロイド説、ドラゴンの化身説、ただの人間説等などがあるが作者はまだどれにするか決めていない。


フィーナ……自業自得でルークに捕えられてしまった少女。途中で変わるかもしれないが少なくとも前半では主人公。本作は作者が美少女を言葉攻めにしたい、と言うとても高尚な考えから始まっているのでヒドイ目に合う役である。


トリスタン……童貞王


リーナ……ルークの妹。設定があるだけで恐らく本編には出てこない。



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