第56話「設計図」
水曜日の朝、榎本から連絡が来た。
桐島経由だった。「設計図の断片を手に入れた。今日の午後に渡せる。場所はいつもの公園ではない。学園から南に十分の川沿いだ。」という内容だった。
桐島が17に伝えた。朝のホームルームが始まる前だった。
「設計図が手に入るか」と17は言った。
「断片だと言っていた」と桐島は言った。「全部ではないかもしれない。でも何もないよりはいい。」
「午後に行く」と17は言った。
「俺も行く」と桐島は言った。「榎本とは俺の方が付き合いが長い。俺がいた方が話が早い。」
「わかった」と17は言った。
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午前中の授業を半分の頭で聞いた。
残り半分は施設の構造を考えていた。地下三層。一層が出入口と管理区画。二層が居住区画。三層が実験区画。収容されている人間がどこにいるか。二層か三層かもしれないと白瀬は言っていた。
入口は一か所。緊急用の搬出口がある可能性がある。設計図があれば場所がわかるかもしれない。
授業の合間に、17は柊を横目で見た。
柊はノートを取っていた。いつも通りだった。昨日の夢の話をしてから、柊の様子は変わっていなかった。ただ、時々考えているような顔をしていた。
目が合った。
柊が少し笑った。17が視線を前に戻した。
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昼休み、咲が屋上に来た。
17がいた。いつも通りだった。
「師匠!」と咲は言った。「今日、放課後修行できる?」
「午後に用がある」と17は言った。「夕方には戻る。夕方以降なら。」
「やった!!夕方以降で!!」と咲は言った。「最近忙しそうだったから修行できるか心配してた。」
「心配するな」と17は言った。
「心配するよ!!師匠のことだもん!!」と咲は言った。
17は少し間を置いた。「そうか」と17は言った。
「そうだよ!!」と咲は言った。それから少し真剣な顔になった。「師匠、最近何か大事なことが進んでる気がする。あたしには言えないことが。」
「そうだ」と17は言った。
「いつか話してくれる?」と咲は言った。
「ああ」と17は言った。「近いうちに。」
「約束?」と咲は言った。小指を立てた。
「約束だ」と17は言った。今度は自分から小指を出した。
咲が少し目を丸くした。「師匠から指切りしてきた!!」と咲は言った。
「昨日もしただろう」と17は言った。
「でも師匠から来たのは初めて!!」と咲は言った。「感動した!!」
「うるさい」と17は言った。
「でも嬉しい!!!」と咲は言った。
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午後、17と桐島が川沿いに向かった。
学園から南に歩いた。十分ほどで川が見えた。静かな川だった。幅は広くなかった。水が透き通っていた。川沿いに遊歩道があった。
榎本がベンチに座っていた。今日は煙草を持っていなかった。手元に封筒があった。
「来たか」と榎本は言った。
「待たせた」と桐島は言った。
「待っていない」と榎本は言った。「今来たところだ。」
桐島がベンチの隣に座った。17は立ったままだった。
「設計図の断片を手に入れた」と榎本は言った。封筒を桐島に渡した。「十六年前に施設を作ったときの建設会社の記録だ。管理局は設計図を消したが、建設会社の方に断片が残っていた。」
「どこまでわかる」と17は言った。
「地下一層と二層の概略はわかる」と榎本は言った。「三層は断片が足りなかった。ただ、緊急搬出口の位置はわかった。」
「どこだ」と17は言った。
「南東の方向に五十メートルほど離れた場所に出る」と榎本は言った。「地上の出入口とは別の場所だ。ただし」榎本は続けた。「その搬出口が今も使える状態かどうかはわからない。十六年前の設計図だ。今は塞がれているかもしれない。」
「確認する必要がある」と桐島は言った。
「そうだ」と榎本は言った。
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「一つ聞く」と17は言った。
「聞け」と榎本は言った。
「施設の警備について何か把握しているか」と17は言った。
「少しだけ」と榎本は言った。「管理局の上層部が直接管理している施設だ。通常の局員は立ち入れない。警備は外部委託している部分がある。能力者ではない人間も警備に入っている。」
「能力者と非能力者が混在している」と17は言った。
「そうだ」と榎本は言った。「能力者の数は多くない。上層部が直接管理しているから、信頼できる人間だけを使っている。数を絞っている分、一人一人の能力が高い。」
「何人くらいだ」と17は言った。
「正確にはわからない」と榎本は言った。「俺の情報では、能力者が三人から五人。非能力者の警備が数人。それと、管理局の上層部が定期的に訪問するときだけ人数が増える。」
「訪問の頻度は」と17は言った。
「月に一度か二度だ」と榎本は言った。「ただ、最近その頻度が上がっているという情報がある。何かが動いているのかもしれない。」
「二週間以内に何かが起きるという話と一致する」と桐島は言った。
「そうだ」と榎本は言った。「急いだ方がいい。」
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「もう一つ聞く」と17は言った。
「何だ」と榎本は言った。
「収容されている人間の情報はあるか」と17は言った。「どこの層にいるか。状態はどうか。」
榎本はしばらく川を見た。水が流れていた。静かな音だった。
「二層にいる可能性が高い」と榎本は言った。「居住区画だからな。ただ、移動させられているかもしれない。三層で実験が行われているなら、三層にいることもある。」
「実験が行われているのか」と17は言った。
「管理局の上層部が定期的に訪問している理由の一つだと思っている」と榎本は言った。「何の実験かはわからない。でも十三年前の実験が完全に終わっているとは思えない。続きがある。」
桐島が少し顔を固くした。
「続きがある」と17は言った。
「そうだ」と榎本は言った。「十三年前に始まったことが、今も続いているかもしれない。」
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封筒を受け取った。
桐島が中を確認した。薄い紙が数枚入っていた。手書きの図面だった。線が古かった。でも構造がわかった。
「地下一層の出入口の位置が書いてある」と桐島は言った。「こっちが管理区画。二層への階段はここだ。」
「緊急搬出口は」と17は言った。
「ここだ」と桐島は言った。図面の端を指した。「南東方向に延びている。地上への出口は、さっき榎本が言っていた通り五十メートルほど離れた場所だ。」
「入口と搬出口が離れている」と17は言った。「同時に両方を監視するのは難しい。」
「それが侵入経路になるかもしれない」と桐島は言った。
「搬出口が今も使えるかどうかが問題だ」と17は言った。
「確認する方法が一つある」と榎本は言った。二人の会話を聞いていた。「奥津の能力で搬出口の方向から近づいて、内側に反応があるかどうかを確認する。内側に通路が続いているなら、能力が届くはずだ。」
「奥津に話す」と17は言った。
「ただし」と榎本は言った。「管理局の上層部が頻度を上げて訪問している。今週中にも来るかもしれない。訪問のタイミングに重なると最悪だ。」
「タイミングを把握できるか」と17は言った。
「俺が調べる」と榎本は言った。「二日くれ。」
「わかった」と17は言った。
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川沿いを離れた。
桐島と17が学園に戻る道を歩いた。
「急いでいるな」と桐島は言った。
「そうだ」と17は言った。
「二週間以内という話、信用しているか」と桐島は言った。
「信用している」と17は言った。「鵺の情報は今のところ正確だ。」
「管理局の上層部が何かをする前に動く必要がある」と桐島は言った。
「ああ」と17は言った。
桐島はしばらく歩いた。「17」と桐島は言った。
「何だ」と17は言った。
「この件が片付いたら、少し休め」と桐島は言った。唐突だった。
「休む」と17は言った。意味がわからなかった。
「ゆっくりするということだ」と桐島は言った。「旅行みたいな。お前があの三日間で少し変わったのは、俺にも見えていた。ああいう時間がたまに必要だ。」
17は少し間を置いた。「そうかもしれない」と17は言った。
「そうかもしれない、じゃなくてそうだ」と桐島は言った。「悪くなかったと言っていただろう、旅行のことを。」
「言った」と17は言った。
「それだけで十分だ」と桐島は言った。少し笑った。「片付いたら、また悪くない時間を作れ。」
17は答えなかった。でも否定もしなかった。
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夕方、学園に戻った。
咲が校庭で待っていた。修行の時間だった。
「来た!!」と咲は言った。
「待たせたか」と17は言った。
「少しだけ!!でも来てくれたからいい!!」と咲は言った。
二人で校庭の隅に向かった。
修行を始めた。今日は昨日の続きだった。攻撃と防御を組み合わせる動き。咲が根を這わせた。一段階目から二段階目への流れを確認した。
三回目に咲が綺麗に繋げた。
「繋がった!!」と咲は言った。
「今のが一番よかった」と17は言った。
「師匠に言ってもらえた!!」と咲は言った。
「続けろ」と17は言った。
咲が続けた。四回、五回。速度が上がってきた。
六回目に咲が少し止まった。「師匠」と咲は言った。
「何だ」と17は言った。
「今日、師匠の顔が少し違う気がする」と咲は言った。「何か決まった感じ。」
「そう見えるか」と17は言った。
「うん」と咲は言った。「いい意味で。なんか前に進んでる感じ。」
17は少し間を置いた。「そうかもしれない」と17は言った。
「師匠が前に進んでるなら、あたしも前に進まないと」と咲は言った。「もう一回やる!!」
「やれ」と17は言った。
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夜、白瀬と朝霧に設計図の情報を伝えた。
桐島の小会議室に四人が集まった。
設計図の断片を広げた。地下一層と二層の概略。緊急搬出口の位置。
「搬出口が今も使えるかどうかを確認する必要がある」と17は言った。「奥津に頼む。」
「連絡できるか」と白瀬は言った。
「遠野に連絡する」と17は言った。「明日にでも動けるかどうかを確認する。」
「タイミングについては」と朝霧は言った。
「榎本が調べている」と17は言った。「二日で管理局の上層部の訪問スケジュールを把握する。それを踏まえて動く。」
「つまり早ければ今週末に動くかもしれない」と白瀬は言った。
「そうだ」と17は言った。
白瀬が設計図を見た。「地下三層の構造がわかれば、侵入後の動きを考えられる」と白瀬は言った。「一層で管理区画を抜けて、二層か三層に向かう。」
「警備の能力者が三人から五人いる」と17は言った。「全員と戦えば気づかれる。できるだけ戦わずに動く必要がある。」
「式系・笪を使えば能力を封じながら進める」と朝霧は言った。
「そうだ」と17は言った。「でも笪は一度使うと痕跡が残る。管理局の記録型機器が施設内にあれば拾われる。」
「難しいな」と白瀬は言った。
「ただ」と17は言った。「一つ使えるものがある。」
「何だ」と朝霧は言った。
「式系・籲だ」と17は言った。
白瀬と朝霧が少し動いた。
「籲は存在の霧化だ」と朝霧は言った。「まだ使っていない技だ。」
「使えるのか」と白瀬は言った。
「わからない」と17は言った。「試したことがない。でも施設の中で使えれば、気配を消しながら動ける。」
「試すのか」と白瀬は言った。
「試す必要がある」と17は言った。「本番の前に。」
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話し合いが終わった。
全員が出ていった後、17は設計図を一人で見た。
地下一層。出入口。管理区画。二層への階段。
緊急搬出口。南東方向。
その搬出口の先に、誰かがいる。
地下から何かを届けようとしている人間が。俺の記憶を持っているかもしれない人間が。
17は設計図を折りたたんだ。封筒に戻した。
窓の外を見た。夜だった。
追跡の能力で学園全体を確認した。全員がいた。咲が自分の部屋にいた。柊の部屋の明かりが点いていた。
全員がいた。
今夜はその確認が、いつもより少し早く終わった。
設計図がある。搬出口の位置がわかった。榎本が訪問スケジュールを調べている。奥津に搬出口の確認を頼む。
全部が揃えば、動ける。
17は窓から離れた。
式系・籲。まだ使ったことのない技だった。
今夜、試してみることにした。




