第55話「構造」
翌朝、桐島の小会議室に全員が集まった。
白瀬、朝霧、桐島、水無瀬、そして17だった。咲には声をかけなかった。今回も同じ理由だった。
昨夜のことを全員に伝えた。北と東に反応がなかったこと。南の地下施設に反応があったこと。地下の人間が北東に向かって何かを出し続けていること。伏兵の三人のこと。
桐島が腕を組んで聞いていた。水無瀬がメモを取っていた。
「地下施設の場所が確定した」と桐島は言った。「次は構造の把握だ。入口が一か所だけでは侵入できない。別の経路があるかどうかを確認する必要がある。」
「白瀬が管理局の内部記録にアクセスしようとしていた」と17は言った。
「慎重にやる必要がある」と白瀬は言った。「施設Bへのアクセスは制限されている。直接検索すれば気づかれる。別の方法で迂回しながら探る。」
「時間がかかるか」と17は言った。
「二日は見てほしい」と白瀬は言った。「急いで気づかれたら終わりだ。」
「わかった」と17は言った。
「俺は榎本に当たる」と桐島は言った。「施設の建設記録が残っているかもしれない。古い施設なら設計図の断片くらいは掴めるかもしれない。」
「頼む」と17は言った。
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話し合いが終わって、全員が出ていった。
水無瀬が最後に「無事でよかったです、昨夜」と言った。桐島が「全くだ」と言った。二人が出た。
17と白瀬が残った。
「一つ確認させてくれ」と白瀬は言った。
「何だ」と17は言った。
「地下の人間が北東に向かって何かを出し続けている」と白瀬は言った。「それが俺たちの学園の方向だ。お前に向けているかもしれないと言っていた。」
「ああ」と17は言った。
「今まで、それが届いていたと思うか」と白瀬は言った。
「わからない」と17は言った。「ただ、昨夜から少し考えている。」
「何を」と白瀬は言った。
「夢を見ることがある」と17は言った。「廊下の夢だ。白い廊下。誰かがいる。顔が見えない。でもいる。それが繰り返し来る。」
白瀬は少し止まった。「それがその人間かもしれない」と白瀬は言った。
「可能性がある」と17は言った。「能力で届けようとしているものが、夢という形で来ているかもしれない。」
「奥津に話した方がいいかもしれないな」と白瀬は言った。
「そうかもしれない」と17は言った。
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午前中の授業が終わった昼休み、柊が屋上に来た。
17はそこにいた。いつも通りだった。
「昨夜、帰ってきたね」と柊は言った。
「ああ」と17は言った。
「約束、守ってくれた」と柊は言った。
「そうだ」と17は言った。
柊が隣に座った。弁当を持っていた。今日は少し大きかった。おかずが多かった。
「少し食べる?」と柊は言った。
「いい」と17は言った。
「遠慮しなくていいのに」と柊は言った。
「遠慮ではない」と17は言った。「食欲がない。」
「昨夜何かあったから?」と柊は言った。
「そうかもしれない」と17は言った。
柊はそれ以上聞かなかった。弁当を開けて食べ始めた。二人が並んで昼の空を見た。
しばらくして柊が口を開いた。
「ねえ、17」と柊は言った。
「何だ」と17は言った。
「繰り返し見る夢って、ある?」と柊は言った。
17は少し動いた。「なぜそれを聞く」と17は言った。
「あたしが繰り返し見る夢があるから」と柊は言った。「暗い部屋で、誰かが何かを言っている夢。顔が見えない。言葉が聞こえない。でも繰り返し来る。」
17は柊を見た。「いつから」と17は言った。
「最近」と柊は言った。「一か月くらい前から。」
「どんな人間だ」と17は言った。「顔が見えないとして、背格好は。」
「細い人だと思う」と柊は言った。「背はあまり高くない。それだけしかわからない。」
17はその情報を頭に入れた。
一か月前。細い。背が高くない。
「その夢を見た後、どんな感じがするか」と17は言った。
「なんか、伝えたいことがある人だなって感じ」と柊は言った。「でも届かない感じ。もどかしいような。」
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17はしばらく黙っていた。
柊も同じ夢を見ていた。地下の人間が北東に向かって何かを出し続けている。学園の方向に。俺だけではなく、柊にも届いていた可能性があった。
なぜ柊にも届いているのか。
柊の能力は知覚系だった。棘と凪。見ることで世界を読む能力だった。もしかしたら知覚系の能力が、地下から来るものを受け取りやすい状態にしているのかもしれなかった。
あるいは、柊に何か別の理由があるのかもしれなかった。
「その夢のことを、今まで誰かに話したか」と17は言った。
「話していない」と柊は言った。「なんとなく言いにくくて。」
「わかった」と17は言った。「今日の午後、白瀬に話してほしい。」
「白瀬さんに?」と柊は言った。驚いた顔だった。
「ああ」と17は言った。「俺からも話す。でもお前自身の言葉で話してほしい。」
「どういうこと?」と柊は言った。
「説明が必要な話だ」と17は言った。「ただ、今ここでは全部話せない。でも近いうちに話す。今回は本当に近い。」
「また同じ言葉」と柊は言った。少し苦笑いした。
「今回は本当に近い」と17は言った。今度は少し違う声だった。
柊が17を見た。「わかった」と柊は言った。「白瀬さんに話す。」
「頼む」と17は言った。
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午後、白瀬が管理局の内部記録へのアクセスを始めた。
職員室の端の席だった。桐島が近くで別の作業をしているふりをしながら、白瀬の動きを確認していた。水無瀬が廊下で見張りをしていた。
白瀬が画面を開いた。管理局のシステムだった。
直接施設Bを検索しなかった。迂回した。関連する古い記録を手繰り寄せた。十五年前の建設記録。土地の取得記録。電力の供給記録。それらを一つずつ確認した。
一時間かかった。
白瀬が桐島に小声で言った。「南の地下施設の建設記録の断片を見つけた。十六年前に作られた施設だ。地下三層構造になっている。」
「三層か」と桐島は言った。
「一層が出入口と管理区画。二層が居住区画。三層が実験区画だ」と白瀬は言った。「収容されている人間がどこにいるかはわからない。でも二層か三層だと思う。」
「入口は一か所だけか」と桐島は言った。
「記録では一か所だ」と白瀬は言った。「でも緊急用の搬出口がある可能性がある。古い施設にはたいていある。記録には出ていないが、設計上あるはずだ。」
「その搬出口を特定できるか」と桐島は言った。
「難しい」と白瀬は言った。「でも榎本が施設の設計図の断片を持っていれば、わかるかもしれない。」
「榎本に当たる」と桐島は言った。
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放課後、柊が白瀬を探した。
白瀬は廊下にいた。柊を見て少し驚いた顔をした。
「柊ちゃん」と白瀬は言った。「どうした?」
「話したいことがある」と柊は言った。「17に言われた。白瀬さんに話してほしいって。」
白瀬が少し真剣な顔になった。「場所を変えよう」と白瀬は言った。
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空き教室に入った。
柊が夢の話をした。繰り返し見る夢。暗い部屋で、誰かが何かを言っている。顔が見えない。言葉が聞こえない。一か月前から来ている。伝えたいことがある人だという感じがする。でも届かない感じがする。
白瀬が聞いていた。途中で何度か頷いた。
「いつから一か月か」と白瀬は言った。「具体的に覚えているか。」
「九月の始めくらい」と柊は言った。「夏休みが明けてすぐだった。」
白瀬が少し考えた。九月の始め。旅行から帰ってきた頃だった。朧と燦との戦闘があった頃だった。管理局の記録型機器が設置された頃だった。
「その夢、能力が反応しているか」と白瀬は言った。
「していると思う」と柊は言った。「夢を見ている間、棘が少し動いている気がする。でも夢の中では弱点も綻びも見えない。ただ何かが光っている。」
「どんな光だ」と白瀬は言った。
「静かな光」と柊は言った。「17に棘が反応したときと、似ている気がする。」
白瀬がしばらく柊を見た。「ありがとう、話してくれて」と白瀬は言った。「17と話してみる。大事な情報かもしれない。」
「そうなの?」と柊は言った。
「そうかもしれない」と白瀬は言った。「柊ちゃんがその夢を見ているのは、柊ちゃんの能力が何かを受け取っているからかもしれない。」
「受け取っている」と柊は繰り返した。「誰かから?」
「おそらく」と白瀬は言った。「詳しいことがわかったら話す。それまで、その夢を見たら内容をできるだけ覚えておいてほしい。」
「わかった」と柊は言った。
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夕方、白瀬が17に柊の話を伝えた。
「九月の始めから夢を見ている」と白瀬は言った。「棘が反応している。静かな光だという。」
「棘が反応している」と17は言った。
「お前に棘が反応したときと似た光だと言っていた」と白瀬は言った。
17はその言葉をしばらく考えた。
棘は弱点や綻びが見える能力だ。でも柊の棘は、それだけではないかもしれなかった。白瀬が言っていた。伸びしろかもしれない。変わろうとしている部分かもしれない。
地下の人間が出し続けているものが、棘を通じて柊に届いている。17にも届いているかもしれない。夢という形で。
「地下の人間は知覚系に近い能力を持っているのかもしれない」と17は言った。
「なぜそう思う」と白瀬は言った。
「柊の棘が反応している」と17は言った。「棘は知覚系の能力だ。同じ系統の何かが来ているから、棘が反応している可能性がある。」
「奥津が言っていた」と白瀬は言った。「地下の人間の能力の匂いが、お前に似ていると。」
「俺の目の能力は知覚系に近い」と17は言った。「解析、追跡、看破。全部、見ることに関係している。」
「つまり」と白瀬は言った。
「地下の人間は、俺と同じ知覚系に近い能力を持っている可能性がある」と17は言った。「そしてその能力で、外に何かを届けようとしている。」
白瀬はしばらく17を見た。「その何かが届いたとき、何が起きると思う」と白瀬は言った。
「わからない」と17は言った。「でも届けようとしているものが、記憶かもしれないと思っている。」
「記憶」と白瀬は言った。
「消された記憶だ」と17は言った。「俺の記憶を、地下の人間が持っているかもしれない。それを届けようとしているかもしれない。」
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白瀬が少し間を置いた。
「それが本当なら」と白瀬は言った。「地下の人間はお前のことを知っている。お前の記憶を持っている。」
「そうだ」と17は言った。
「灰島が消した記憶を、その人間が持っている可能性がある」と白瀬は言った。
「ああ」と17は言った。「灰島が消したとき、どこかに移したかもしれない。あるいはその人間が最初から持っていたか。」
「どちらにしても」と白瀬は言った。「その人間を助け出せれば、お前の記憶が戻るかもしれない。」
17はその言葉を聞いた。
記憶が戻る。
雪を見て笑ったこと。廊下で誰かがいたこと。施設にいたこと。全部が戻るかもしれなかった。
「急ぐ必要がある」と白瀬は言った。「二週間以内に管理局の上層部が何かをするという話だった。それまでに動く必要がある。」
「ああ」と17は言った。
「桐島と榎本の情報を待つ」と白瀬は言った。「設計図の断片が手に入れば、侵入経路を考えられる。」
「わかった」と17は言った。
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夜、17は部屋にいた。
窓の外を見た。夜の学園が静かだった。
追跡の能力で学園全体を確認した。全員がいた。咲が自分の部屋にいた。柊の部屋の明かりが点いていた。
17は柊の部屋の明かりをしばらく見た。
柊も同じ夢を見ていた。地下から来る何かを、柊の棘が受け取っていた。柊には関係のない話のはずだった。でも柊の能力が反応していた。
棘が光を拾う。弱点でも綻びでもない光。静かな光。
17は自分の手を見た。
施設にいたとき、俺は何を見ていたのか。何を知っていたのか。何を消されたのか。
答えはまだなかった。
でも地下の人間がずっと届けようとしていた。一か月前から柊にも届いていた。
もう少しで、何かが形になる気がした。
形になったとき、それが何なのかを17はまだ知らなかった。
でも今夜は、それが怖くなかった。




