第52話「明後日の前夜」
土曜日だった。
明後日の夜に三か所を確認しに行く。その前日が日曜日で、その前が今日だった。つまり今日と明日で準備をする必要があった。
17は朝から動いていた。
まず榎本に連絡を入れた。施設Bの三か所の候補について、管理局の内部記録に何か残っていないか確認を頼んだ。榎本からの返答は午後に来ると言っていた。
次に桐島と水無瀬に今夜の計画を伝えた。二人は学園に残ることになった。遠野の条件で同行できるのは白瀬と朝霧だけだった。桐島が「何かあったらすぐ連絡しろ」と言った。水無瀬が「無事に帰ってきてください」と言った。
白瀬と朝霧には昨夜すでに伝えていた。二人は各自で準備をしていた。
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午前中、咲が17を見つけた。
廊下だった。土曜日は授業が半日だった。午前中だけで終わる。
「師匠! 今日の午後、修行できる?」と咲は言った。
「午後は別の用がある」と17は言った。
「そっか」と咲は言った。あっさりしていた。昨日の指切りのあとだからか、引き下がるのが早かった。「じゃあ朝霧さんに頼む。」
「朝霧も今日は別の用がある」と17は言った。
「え、二人とも?」と咲は言った。
「ああ」と17は言った。
咲は少し考えた。「白瀬さんも?」と咲は言った。
「そうだ」と17は言った。
「三人とも!?」と咲は言った。声が大きくなった。「何かあったの?」
「今は言えない」と17は言った。
「昨日約束したのに」と咲は言った。頼りにしていると言ってくれた。だから咲は何かあったら言ってくれると思っていた。
「頼りにしていると言った」と17は言った。「言えないことと、頼りにしていることは別の話だ。今は言えない段階にある。でも段階が進んだら話す。」
咲はしばらく17を見た。「わかった」と咲は言った。「でも危ないことだったら、あたしも連れてって。」
「今回は無理だ」と17は言った。
「今回は、ね」と咲は言った。「じゃあ次は?」
「考える」と17は言った。
「それって前向きな考える?」と咲は言った。
「さあ」と17は言った。
「師匠のさあは前向きだと思うことにした!!」と咲は言った。
「勝手な解釈だ」と17は言った。
「でも合ってるでしょ!!」と咲は言った。
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午後、榎本から返答が来た。
桐島の小会議室で、17と桐島と水無瀬の三人で確認した。
「施設Bの三か所について、榎本が調べた」と桐島は言った。手元に榎本のメモがあった。「北の施設は五年前に機能を停止している。奥津が出た後に閉鎖されたらしい。今は無人だ。」
「東の港の施設は」と17は言った。
「東は今も稼働している」と桐島は言った。「ただ、能力者の収容施設ではなく、管理局の物資保管場所として使われているらしい。被験体がいる可能性は低い。」
「南の地下施設か」と水無瀬は言った。
「南が一番情報が少ない」と桐島は言った。「榎本も詳細を掴めていない。管理局の上層部が直接管理していて、一般の局員にはアクセス権限がないらしい。ただ、一つだけわかったことがある。」
「何だ」と17は言った。
「南の施設に、管理局の上層部が定期的に訪問している記録がある」と桐島は言った。「他の二か所にはそういう記録がない。南だけだ。」
三人が少し黙った。
「南だ」と17は言った。
「ほぼ確実だな」と桐島は言った。「ただ、奥津の能力で確認する価値はある。三か所全部を回って、南に反応があれば確定だ。」
「そうだ」と17は言った。
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夕方、17は一人で屋上にいた。
明後日の夜のことを整理していた。
三か所を車で回る。奥津の能力が反応した場所が目的の施設だ。榎本の情報では南の可能性が高い。南の地下施設。管理局の上層部が定期的に訪問している。
そこに誰かがいる。
映像の中の顔が頭に浮かんだ。見覚えがある気がした。消された記憶の中にいる人間かもしれなかった。
扉が開いた。
柊だった。
「一人だった」と柊は言った。いつも通りの確認だった。
「ああ」と17は言った。
柊が隣に来た。夕日が二人に当たっていた。
「何か考えてた?」と柊は言った。
「ああ」と17は言った。
「話せる?」と柊は言った。
17は少し間を置いた。「まだ話せない」と17は言った。「でも、近いうちに話す。今回は本当に近い。」
「わかった」と柊は言った。
二人がしばらく黙って夕日を見た。
「ねえ」と柊は言った。
「何だ」と17は言った。
「無事に帰ってきてね」と柊は言った。静かな声だった。
17は柊を見た。柊は前を向いていた。夕日を見ていた。
「なぜそう思う」と17は言った。
「何かに向かおうとしてる気がするから」と柊は言った。「棘が少し反応した。弱点じゃなくて、決意みたいなもの。」
17は少し間を置いた。「決意、か」と17は言った。
「そう見えた」と柊は言った。
「無事に帰る」と17は言った。
「約束して」と柊は言った。
「約束だ」と17は言った。
柊が少し息を吐いた。緊張が少し解けたような音だった。
「ありがとう」と柊は言った。
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夜、白瀬が17の部屋に来た。
珍しかった。白瀬が17の部屋に来ることは今までなかった。
「少し話せるか」と白瀬は言った。
「ああ」と17は言った。
白瀬が部屋に入った。窓の外を見た。それから17を見た。
「明後日、俺と朝霧さんが同行する」と白瀬は言った。「それは決まっている。ただ、一つだけ確認しておきたい。」
「何だ」と17は言った。
「施設の場所が特定できたとして、お前はどうするつもりだ」と白瀬は言った。「場所を確認して終わりか、それとも中に入るつもりか。」
「今回は場所の確認だけだ」と17は言った。「中に入るのは別の話だ。準備が必要だ。」
「そうか」と白瀬は言った。少し安心したような声だった。「それを聞きたかった。お前が一人で突っ込もうとしていたら止めるつもりだった。」
「一人では動かない」と17は言った。
「最近はそう言えるようになったな」と白瀬は言った。少し笑った。「旅行前のお前だったら言えなかった気がする。」
「そうかもしれない」と17は言った。
「変わったな」と白瀬は言った。
「そうかもしれない」と17は繰り返した。
白瀬がドアの方に向かった。出る前に振り返った。「明後日、よろしく頼む」と白瀬は言った。今度は敬語ではなかった。対等な言い方だった。
「ああ」と17は言った。
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白瀬が出た後、17は窓の外を見た。
明後日の夜。三か所を回る。南の地下施設に誰かがいる。
映像の中の顔。見覚えがある気がした。
雪を見て笑ったと奥津は言った。施設の廊下で。
記憶がなかった。でもその情景が近かった。
追跡の能力で学園全体を確認した。全員がいた。咲が今夜は自分の部屋にいた。柊の部屋の明かりがまだ点いていた。
全員がいた。
17は目を閉じた。
雪。廊下の窓。笑った。
記憶ではなかった。でも何かだった。
その何かが、明後日の夜に少し近づく気がした。




