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51話「三箇所の候補」

 放課後、咲との修行があった。


 校庭の隅で、17が咲の動きを見た。今日は攻撃と防御を組み合わせる練習だった。咲が根を這わせて相手の動きを止める。その間に別の根で追撃する。二段階の動きを一連の流れでやる練習だった。


「難しい!!」と咲は言った。三回目に失敗してから言った。


「どこが難しい」と17は言った。


「一段階目が終わる前に二段階目の準備をしないといけないんだけど、一段階目に集中すると二段階目が遅れる!!」と咲は言った。


「昨日の練習と同じだ」と17は言った。「左への意識と同じ問題だ。」


 咲が止まった。「あ」と咲は言った。「一段階目だからって意識しすぎると遅れる。流れで動けばいい。」


「そうだ」と17は言った。


「やってみる!!」と咲は言った。


 四回目、咲が流れで動いた。一段階目が終わる前に二段階目の根が動き始めた。完全ではなかった。でも繋がった。


「繋がった!!」と咲は言った。


「まだ粗い」と17は言った。「でも方向は合っている。」


「師匠に方向は合ってるって言われた!!褒めてる!!」と咲は言った。


「褒めていない」と17は言った。


「褒めてる!!!」と咲は言った。


---


 修行が終わって、咲が水を飲んでいた。


 17は空を見ていた。夕方だった。今夜九時に公園で三人と会う。それまで時間があった。


「師匠」と咲は言った。水筒を持ったまま。


「何だ」と17は言った。


「最近、なんか忙しそう」と咲は言った。「いろいろ動いてる感じがする。あたしには言えないこと?」


「今はまだ言えない」と17は言った。


「そっか」と咲は言った。あっさりしていた。


「怒らないのか」と17は言った。


「怒らない」と咲は言った。「師匠がいつか話してくれると思ってるから。言えないのには理由があるんでしょ。」


 17は咲を見た。「そうだ」と17は言った。


「じゃあいい」と咲は言った。「あたしにできることがあったら言って。根ならそこそこ使えるようになってきたから。」


「わかった」と17は言った。


「約束だよ!!」と咲は言った。小指を立てた。


 17はしばらく咲の小指を見た。それから自分の小指を出した。咲の小指と絡めた。


「約束だ」と17は言った。


 咲が少し固まった。「師匠が指切りした!!」と咲は言った。


「したな」と17は言った。


「感動した!!!」と咲は言った。


「うるさい」と17は言った。


 でも17は少し間を置いてから、もう一度咲を見た。「頼りにしている」と17は言った。小さい声だった。


 咲がまた固まった。今度は長かった。「師匠、今すごくいいこと言った」と咲はゆっくり言った。


「行くぞ」と17は言った。


「待って待って!!もう一回言って!!」と咲は言った。


「言わない」と17は言った。廊下を歩き始めた。


「言ってくれた!!でも言わないって言った!!どっちなの!!」と咲は後ろから言った。


---


 夜九時、17は公園に向かった。


 白瀬と朝霧に今夜の件を伝えた。二人は学園の外で待機することになった。何かあればすぐ動ける場所にいた。


 公園に着くと、三人がいた。


 遠野が腕を組んで立っていた。霧谷が手帳を持っていた。奥津がベンチに座っていた。


「来たか」と遠野は言った。


「ああ」と17は言った。


「昼間、奥津と話したと聞いた」と遠野は言った。


「話した」と17は言った。


「それで、協力するか」と遠野は言った。単刀直入だった。


「条件を確認したい」と17は言った。「管理局を変えること。同じことが二度と起きないようにすること。その条件で協力する。ただ、俺一人で決められることではない。」


「白瀬と朝霧の話か」と遠野は言った。


「桐島と水無瀬も含む」と17は言った。「全員で決める。今夜は施設Bの場所を絞り込む話だけにしたい。」


「わかった」と遠野は言った。


---


 霧谷が手帳を開いた。


「施設Bの候補が三か所あります」と霧谷は言った。丁寧な話し方だった。「北の候補は山間部にある古い研究施設です。管理局が十五年前に取得した場所で、現在も電力が供給されています。東の候補は港の近くにある倉庫施設です。表向きは物流会社の管理下ですが、管理局の別働隊が出入りしている記録があります。南の候補は地下施設です。地上には何もありません。入口が一か所だけあります。」


「奥津が出たのは北か」と17は言った。


「そうだ」と奥津は言った。「五年前の時点では北だった。でも今も北が稼働しているかどうかはわからない。私が出た後に移転した可能性がある。」


「奥津の能力で三か所を確認できると言っていた」と17は言った。


「できる」と奥津は言った。「計測不能の能力者がいる場所に近づくと、私の能力が反応する。直接触れなくてもわかる。」


「三か所を順番に回る」と17は言った。「車で移動しながら確認する。」


「そのつもりだ」と遠野は言った。「車は俺たちが用意する。ただ、お前にも同行してほしい。」


「なぜ」と17は言った。


「奥津の能力は、17との距離が近い方が精度が上がる」と遠野は言った。少し間を置いて言った。


 17は奥津を見た。奥津が小さく頷いた。


「理由を聞いていいか」と17は言った。


「同じ施設にいたからだと思う」と奥津は言った。「詳しい理由は私にもわからない。でも事実だ。」


---


「いつ動く」と17は言った。


「明後日の夜だ」と遠野は言った。「準備が必要だ。車のルートを確認する。管理局の動きを確認する。それに二日かかる。」


「わかった」と17は言った。「明後日の夜に動く。同行する。」


「もう一つ条件がある」と遠野は言った。


「何だ」と17は言った。


「白瀬と朝霧も連れてくるな」と遠野は言った。「管理局の人間が動くと、管理局に気づかれるリスクが上がる。」


「それは飲めない」と17は言った。即答だった。


 遠野が少し眉を上げた。「なぜだ」と遠野は言った。


「俺が一人で動くのはリスクが高い」と17は言った。「白瀬と朝霧は今は管理局の人間だが、俺の側にいる人間だ。連れていく。」


「管理局に情報が漏れるリスクがある」と遠野は言った。


「漏れない」と17は言った。「俺が保証する。」


 遠野がしばらく17を見た。霧谷を見た。奥津を見た。


「わかった」と遠野は言った。「ただし、二人に限る。それ以上は連れてくるな。」


「ああ」と17は言った。


---


 話が終わって、霧谷が手帳を閉じた。


「一つだけ聞いていいですか」と霧谷は言った。17に向かって言った。


「聞け」と17は言った。


「被験体17として施設にいたとき、何か覚えていることはありますか」と霧谷は言った。「記録のために聞いています。無理に答えなくていいです。」


「記憶がない」と17は言った。「消されている。」


「そうですか」と霧谷は言った。手帳に何かを書いた。「ありがとうございます。」


「記録して何をする」と17は言った。


「いつか全部を公にするためです」と霧谷は言った。「被験体たちが何をされたか。管理局が何を隠しているか。記録しておかないと、なかったことになる。なかったことにさせたくない。」


 17はその言葉をしばらく聞いた。


 なかったことにさせたくない。


「わかった」と17は言った。「覚えていることが出てきたら話す。」


「ありがとうございます」と霧谷はもう一度言った。


---


 三人が公園を離れた後、白瀬と朝霧が来た。


 17が今夜の話を全部伝えた。明後日の夜に三か所を確認しに行くこと。白瀬と朝霧も同行すること。


「明後日か」と白瀬は言った。


「ああ」と17は言った。


「施設Bに誰かがいる」と朝霧は言った。「映像の中の人間が。」


「そうだ」と17は言った。


「その人間が誰か、心当たりはあるか」と白瀬は言った。


「ない」と17は言った。「でも見覚えがある気がした。消された記憶の中にいる人間かもしれない。」


 白瀬はしばらく空を見た。夜の空だった。星が少し見えた。


「奥津という人間は信用できるか」と白瀬は言った。


「嘘はついていない」と17は言った。「看破の能力で確認した。ただ、全部を話しているかどうかはわからない。」


「それは俺たちも同じだな」と白瀬は言った。少し苦い声で笑った。「鵺に全部話しているわけじゃない。」


「そうだ」と17は言った。


「お互い様か」と白瀬は言った。


「今はそれでいい」と17は言った。「全部信用するには早い。でも動く理由は一致している。」


「わかった」と白瀬は言った。「明後日に備える。」


---


 学園に戻る道を歩きながら、朝霧が17の隣を歩いた。


 白瀬が少し前を歩いていた。三人の間に言葉がなかった。


 しばらくして朝霧が口を開いた。


「奥津は何か言っていたか」と朝霧は言った。小さい声だった。


「施設で一緒だったと言っていた」と17は言った。


「そうか」と朝霧は言った。


「俺が施設にいたとき、一度笑ったことがあると言っていた」と17は言った。「廊下の窓から雪が見えたとき。」


 朝霧はしばらく17を見た。「覚えていないのか」と朝霧は言った。


「覚えていない」と17は言った。「でも聞いたとき、何かが動いた気がした。」


「記憶が戻りかけているのかもしれない」と朝霧は言った。


「そうかもしれない」と17は言った。


 学園の門が見えてきた。


「明後日」と朝霧は言った。


「ああ」と17は言った。


 三人が門をくぐった。夜の学園が静かだった。


---


 自分の部屋に戻ってから、17は窓の外を見た。


 雪は降っていなかった。夜の空だった。星が少し見えた。


 廊下の窓から雪が見えた。それを見て笑った。


 記憶はなかった。でもその情景が、今夜は少し近かった。奥津が言ったからかもしれなかった。でも完全に他人事ではなかった。


 あの情景の中に、17がいた。


 小さかったかもしれなかった。でもいた。雪を見て笑った。


 17は窓の外をしばらく見た。


 追跡の能力で学園全体を確認した。全員がいた。咲が今夜は自分の部屋にいた。柊の部屋の明かりが点いていた。


 全員がいた。


 その確認が終わってから、17は初めて今日の疲れを感じた。疲れ、という言葉が正確かどうかはわからなかった。でも何かが重かった。


 横になった。


 窓から夜の空が見えた。


 雪ではなかった。でも空だった。


 いつか、記憶が戻る日が来るかもしれなかった。


 そのとき初めて、あの情景が本当のものになるかもしれなかった。


 17はそれをぼんやりと考えながら、目を閉じた。

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