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第50話「もう一つの線」

 金曜日の朝、17は全員に声をかけた。


 桐島、水無瀬、白瀬、朝霧。五人で朝のホームルームが始まる前に集まった。場所は桐島が使っている小会議室だった。


 朝霧が昨夜の話を全員に伝えた。遠野、霧谷、奥津の三人と話したこと。(ぬえ)の目的。施設Bの場所が三か所に絞られていること。二週間以内に何かが動くこと。


 そして最後に、奥津の輪郭が朝霧の知覚系でも読めなかったことを話した。


 部屋が静かになった。


「奥津が被験体18の可能性がある」と桐島は言った。


「可能性だ」と朝霧は言った。「確認が必要だ。」


「確認するには直接接触するしかないか」と水無瀬は言った。


「そうだ」と朝霧は言った。


 全員が17を見た。


 17は少し間を置いた。「今日、奥津に会いに行く」と17は言った。


「一人でか」と白瀬は言った。


「一人で」と17は言った。


「危険じゃないか」と水無瀬は言った。


「危険かどうかは会ってみなければわからない」と17は言った。「ただ、複数で行くと相手が構える可能性がある。一人の方が話しやすい場合がある。」


「わかった」と白瀬は言った。「連絡手段だけ確保しておけ。何かあればすぐ言え。」


「ああ」と17は言った。


---


 昼休み、17は公園に向かった。


 昨夜、朝霧と白瀬が鵺の三人と話した公園だった。三人がまだ近くにいるとしたら、同じ場所にいる可能性があった。


 追跡の能力を使った。


 いた。


 公園の端に一人の気配があった。三人ではなかった。一人だった。輪郭が読めなかった。奥津だった。


 遠野と霧谷はいなかった。奥津だけがいた。


---


 公園に入った。


 奥津はベンチに座っていた。フードを被っていた。17が来ることに気づいていたのか、顔を上げた。驚いた様子はなかった。


「来ると思っていた」と奥津は言った。


「なぜ」と17は言った。


「昨夜、朝霧という人間が私の輪郭を読もうとしていた」と奥津は言った。「読めなかったはずだ。それを17に伝えれば、17が動く。そう思った。」


「正確だ」と17は言った。


「座れ」と奥津は言った。


 17はベンチの端に座った。奥津との距離は一メートルほどあった。


 二人が並んで公園の中を見た。昼の公園だった。人が少なかった。子供が遠くで遊んでいた。


---


「一つ聞く」と17は言った。


「聞け」と奥津は言った。


「被験体18か」と17は言った。


 奥津は少し間を置いた。長い間ではなかった。でも確かに間があった。


「そうだ」と奥津は言った。


 17は動かなかった。


 奥津が続けた。「驚かないのか」と奥津は言った。


「昨夜の時点で可能性があると思っていた」と17は言った。「驚かない。」


「そうか」と奥津は言った。


 公園が静かだった。遠くで子供が笑っていた。


「施設Bから出たのか」と17は言った。


「五年前に出た」と奥津は言った。「鵺の残党が助け出した。遠野と霧谷が動いてくれた。それ以来、三人で動いている。」


「管理局は追っているか」と17は言った。


「追っている」と奥津は言った。「だから常に動いている。一か所に長くいない。奥津というのも本名ではない。」


「本名は」と17は言った。


「まだ言えない」と奥津は言った。


「わかった」と17は言った。


---


 しばらく二人は黙っていた。


 最初に口を開いたのは奥津だった。


「お前のことを知っている」と奥津は言った。静かな声だった。「被験体17。施設で一緒だった。」


 17は少し動いた。「記憶がない」と17は言った。


「知っている」と奥津は言った。「灰島が消したから。」


「お前は覚えているのか」と17は言った。


「覚えている」と奥津は言った。「私の能力は記憶に関係している。消しにくい。灰島が消そうとしたが、完全には消えなかった。」


「施設でのことを覚えているか」と17は言った。


「覚えている」と奥津は言った。「お前と同じ廊下にいた。会話はほとんどなかった。でもいた。それだけは覚えている。」


 17はその言葉を聞いた。


 同じ廊下にいた。会話はほとんどなかった。それだけは覚えている。


 映像の中で膝を抱えて座っていた子供が頭に浮かんだ。あの子供が奥津だったかもしれなかった。でも記憶がないから確認できなかった。


「お前が施設から出た後、どこへ転送された」と17は言った。


「施設Bに送られた」と奥津は言った。「管理局の上層部が直接管理する施設だった。五年前まで十三年間、そこにいた。」


「十三年間」と17は言った。


「そうだ」と奥津は言った。感情がなかった。事実を言っているだけだった。


---


「一つ聞いていいか」と奥津は言った。


「聞け」と17は言った。


「お前は今、何を目指している」と奥津は言った。「管理局の上層部を倒すことか。灰島を見つけることか。自分の過去を取り戻すことか。」


 17はしばらく考えた。「全部だ」と17は言った。「どれか一つではない。」


「全部を同時にやろうとするのか」と奥津は言った。


「そうなる」と17は言った。


「無茶だ」と奥津は言った。


「そうかもしれない」と17は言った。


 奥津が少し動いた。フードの中の目が17を見た。「私はお前を助けたい」と奥津は言った。「施設にいたとき、お前が私を助けようとしたことがあった。記憶がないから知らないだろうが、あった。だから私もお前を助けたい。それが鵺に協力している理由の一つだ。」


 17は奥津を見た。「俺がお前を助けようとした」と17は言った。


「そうだ」と奥津は言った。「子供の頃の話だ。大したことではなかった。でも私は覚えている。」


 17は記憶を探した。なかった。でも奥津が嘘をついているとは思えなかった。看破の能力が奥津の言葉を読んでいた。嘘ではなかった。


「覚えていなくて申し訳ない」と17は言った。


「謝らなくていい」と奥津は言った。「灰島が消したんだから。」


---


「施設Bの場所を教えてくれ」と17は言った。


「それが目的か」と奥津は言った。


「目的の一つだ」と17は言った。「被験体18が拘束されていると鵺の記録にあった。でもお前がここにいる。つまり別の誰かが今も拘束されている可能性がある。」


 奥津が少し止まった。


「気づいていたか」と奥津は言った。


「可能性を考えた」と17は言った。


「正しい」と奥津は言った。静かな声だった。「施設Bに、まだ誰かがいる。私が出た後も、施設Bは稼働し続けている。誰かが今も収容されている。」


「誰だ」と17は言った。


「わからない」と奥津は言った。「でも最近の映像を見たか。記録媒体に入っていた映像だ。」


「見た」と17は言った。


「あの映像の人間は私ではない」と奥津は言った。「三か月前の映像だ。私は五年前に施設を出ている。あの映像の人間は、今も施設にいる別の誰かだ。」


---


 17は少し動いた。


 映像の中の人間が奥津ではなかった。つまり施設Bには、被験体18が出た後も別の誰かが収容されていた。そしてその誰かの顔を、17は見覚えがある気がしていた。


「その人間が誰か、心当たりはあるか」と17は言った。


「ない」と奥津は言った。「でも能力計測不能の可能性がある。管理局の上層部が直接管理している施設だから、普通の能力者ではないはずだ。」


「施設Bの場所を」と17は言った。


「三か所の候補がある」と奥津は言った。「私が出たのは北の施設だった。でも今も稼働しているのは別の場所かもしれない。」


「絞り込む方法は」と17は言った。


「一つある」と奥津は言った。「私の能力を使えば、能力者の気配を遠距離で感知できる。範囲は限られているが、車で移動しながら使えば三か所を確認できる。計測不能の能力者がいる場所がわかれば、そこが目的の施設だ。」


「いつできる」と17は言った。


「今日にでもできる」と奥津は言った。「ただ、一人では動きたくない。遠野と霧谷に連絡する必要がある。」


「わかった」と17は言った。「今夜、もう一度会えるか。遠野と霧谷も含めて。」


「会える」と奥津は言った。「ここでいい。夜の九時に来い。」


「ああ」と17は言った。


---


 17が立ち上がった。


 奥津がフードを少し下げた。顔が見えた。昨日より少しだけはっきり見えた。


「一つだけ言っておく」と奥津は言った。


「何だ」と17は言った。


「お前が施設にいたとき」と奥津は言った。「一度だけ笑ったことがある。私は覚えている。」


 17は奥津を見た。「何があったとき」と17は言った。


「廊下の窓から、外が見えた」と奥津は言った。「雪が降っていた。お前がそれを見て、少しだけ笑った。」


 17は答えなかった。


 雪。廊下の窓。


 記憶はなかった。でもその情景を聞いたとき、何かが胸の中で微かに動いた。記憶ではなかった。でも何かだった。


「覚えていなくても」と奥津は言った。「それはあった。」


「ああ」と17は言った。それだけ言った。


 17が公園を出た。


 奥津が後ろ姿を見ていた。フードの中の目が静かだった。


---


 学園に戻る道を歩きながら、17は雪のことを考えた。


 廊下の窓から雪が見えた。それを見て笑った。記憶がないのに、その情景が少しだけ鮮明だった。奥津が言ったからかもしれなかった。でも完全に他人事とも思えなかった。


 施設にいた。


 同じ廊下にいた。


 そして今、奥津はここにいる。


 17は空を見た。昼の空だった。雲が少しあった。


 今夜、三人と会う。施設Bの場所を絞り込む。その中に誰かがいる。映像の中の顔が誰なのかが、少しずつ近づいてきていた。


 学園の門が見えた。


 咲が門のところに立っていた。どこかに行こうとしていたのか、17を見て止まった。


「師匠! どこ行ってたの!?」と咲は言った。


「少し用があった」と17は言った。


「お昼一緒に食べようと思ってたのに!!」と咲は言った。


「悪かった」と17は言った。


 咲が17を見た。何かを感じたのか、少し顔が変わった。「師匠、大丈夫?」と咲は言った。


「大丈夫だ」と17は言った。


「本当に?」と咲は言った。


「本当に」と17は言った。


 咲はしばらく17を見た。それから「わかった」と言った。それ以上は聞かなかった。ただ「今日の放課後、修行できる?」と言った。


「できる」と17は言った。


「やった!!」と咲は言った。笑った。


 その笑顔を見て、17は少しだけ息を吐いた。気づかれなかったかもしれなかった。でも確かに吐いた。

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