48話「記録の中の18」
夜、桐島の部屋に全員が集まった。
白瀬、朝霧、桐島、水無瀬、そして17だった。咲には声をかけなかった。咲に関係ない話ではなかったが、今夜の話は咲には早かった。そう17は判断した。
桐島の部屋は狭かった。全員が座ると少し窮屈だった。桐島が「狭くて悪い」と言った。水無瀬が「いつものことです」と言った。
17が記録媒体を机の上に置いた。
「鵺の残党から受け取った」と17は言った。「被験体18に関する情報が入っているらしい。」
「再生できるか」と桐島は言った。
「できる」と17は言った。桐島のパソコンに接続した。
画面が開いた。
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記録は映像と文章が混在していた。
最初に文章が出た。管理局の内部文書だった。十三年前の日付だった。フォントが古かった。
桐島が読み上げた。
「被験体18、女性、推定年齢八歳から十歳。能力計測不能。被験体17との関連性について調査中。十三年前十一月、施設Bへの転送を完了。以後の追跡記録は別ファイルに移管。」
部屋が静かになった。
「女性」と白瀬は言った。「被験体18は女の子だったのか。」
「当時で八歳から十歳」と水無瀬は言った。「今は二十歳前後か。」
17は画面を見ていた。動かなかった。
施設B。転送完了。
その言葉を17はしばらく見た。施設Bがどこなのか、この文書には書かれていなかった。
「次のファイルを開け」と桐島は言った。
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次のファイルは映像だった。
古い映像だった。画質が粗かった。場所は廊下のようだった。白い壁。蛍光灯の光。廊下の端に、小さな人影が座っていた。
子供だった。
膝を抱えて座っていた。顔が見えなかった。うつむいていた。髪が長かった。
映像が数秒で終わった。
部屋が静かなままだった。
「それだけか」と朝霧は言った。
「次がある」と桐島は言った。ファイルを切り替えた。
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次は文章だった。鵺の内部記録だった。管理局の文書ではなかった。書き方が違った。
水無瀬が読んだ。
「被験体18、確認。施設Bに収容中。管理局上層部の直接管理下。外部からのアクセス不可。能力の詳細は不明。ただし被験体17との接触を管理局が極端に恐れている様子あり。理由不明。二人が接触した場合に何が起きるかを、管理局上層部は知っているか、あるいは予測している可能性がある。」
水無瀬が読み終えた。
「二人が接触した場合に何が起きるか」と白瀬は言った。「管理局の上層部がそれを恐れている。」
「どういう意味だ」と桐島は言った。
「わからない」と17は言った。でも頭の中で何かが動いた。
二人の計測不能の能力者が接触した場合。それを管理局の上層部が恐れている。Formula系のコードが管理局に存在していた。Formula系の反応を示した能力者を特別な対象として分類していた。
被験体18もFormula系を持っているのかもしれなかった。
あるいは、17と18が接触することで、何かが起動するのかもしれなかった。
「続きがある」と桐島は言った。
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次のファイルが開いた。
また映像だった。今度は鮮明だった。最近の映像のようだった。
場所は部屋だった。白い壁。窓がなかった。ベッドが一つ。机が一つ。人がいた。
17はその人を見た。
女性だった。二十代前後に見えた。椅子に座っていた。机の上に何かを書いていた。顔が半分しか見えなかった。でも髪が長かった。
映像の端に日付があった。三ヶ月前の日付だった。
「生きている」と朝霧は言った。静かな声だった。
「ああ」と17は言った。
映像の中の女性が顔を上げた。何かに気づいたような動きだった。カメラの方を見た。
顔が見えた。
17は動かなかった。
解析の能力が動いた。映像の中の顔を読んだ。読めなかった。映像越しでは輪郭が掴みにくかった。
でも17には、その顔に見覚えがある気がした。
気がした、だけだった。記憶がなかった。でも見覚えがある気がした。その矛盾が頭の中で動いた。
映像が終わった。
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部屋が静かになった。
しばらく誰も何も言わなかった。
最初に口を開いたのは桐島だった。「施設Bの場所を特定する必要がある」と桐島は言った。「鵺の残党は車で二時間の場所だと言っていた。それだけでは絞れない。」
「榎本に聞く」と17は言った。
「管理局の内部文書に施設Bという名前が出ているなら、記録が残っているかもしれない」と白瀬は言った。「俺が調べられる範囲で調べる。」
「気をつけろ」と17は言った。「管理局の上層部が直接管理している施設だ。アクセスすれば気づかれる可能性がある。」
「わかっている」と白瀬は言った。「慎重にやる。」
「朝霧さんは」と水無瀬は言った。
「鵺の残党の三人を追う」と朝霧は言った。「今夜はまだ学園の近くにいるはずだ。接触できるかもしれない。フードの人間が誰なのか確認したい。」
「俺も行く」と白瀬は言った。
「二人でいい」と朝霧は言った。「目立たない方がいい。」
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話し合いが終わって、全員が桐島の部屋を出た。
17は廊下に一人で残った。
桐島が「大丈夫か」と言った。
「ああ」と17は言った。
「映像の中の人間に見覚えがあったか」と桐島は言った。
17は少し間を置いた。「わからない」と17は言った。「記憶がない。でも見覚えがある気がした。」
「消された記憶か」と桐島は言った。
「そうかもしれない」と17は言った。
桐島はしばらく17を見た。「一人で抱えるな」と桐島は言った。榎本と同じ言葉だった。
「わかっている」と17は言った。
「本当にわかっているか確かめる方法がないのが困るな」と桐島は言った。少し苦笑いをした。「でも俺たちがいる。それだけは確かだ。」
「ああ」と17は言った。今夜は否定しなかった。
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夜、17は屋上にいた。
映像の中の顔を思い出していた。
見覚えがある気がした。でも記憶がなかった。その感覚が気持ち悪かった。気持ち悪い、という言葉が正確かどうかはわからなかったが、他に言葉が見つからなかった。
被験体18。
17という番号の隣にある番号だった。施設で一緒にいたのかもしれなかった。それが記憶から消されていた。
灰島が消した。
なぜ消す必要があったのか。守るためか。隠すためか。あるいは。
17はその先を考えた。
あるいは、17が動かないようにするためか。
被験体18のことを知っていれば、17は動いた。助けようとした。でも記憶がなければ動かない。動く理由がなかった。
灰島は17が動くことを望んでいなかった。だから記憶を消した。
でも今、17は動き始めている。
それは灰島の想定外か、それとも想定の内か。
答えが出なかった。
追跡の能力で学園全体を確認した。全員がいた。柊の部屋の明かりが点いていた。咲が今夜も自分の部屋にいた。朝霧と白瀬の気配が学園の外にあった。鵺の残党を追っているらしかった。
全員がいた。
17は空を見た。
被験体18が、車で二時間の場所にいる。生きている。三ヶ月前の映像がそれを証明していた。
生きている。
その事実が、今夜の17には何よりも重かった。




