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第48話「影、学園に至る」

 木曜日の朝、桐島から緊急の連絡が来た。


 内容は短かった。「学園の周辺に見慣れない人間が三人いる。管理局でもNullでもない。昨夜から動きを追っている。今朝、学園の正門近くまで来た。」


 17は連絡を受けてすぐに屋上に出た。


 追跡の能力を使った。学園全体を確認した。


 いた。


 正門の外に三人。全員が能力者だった。解析の能力が三人の輪郭を読んだ。一人は攻撃系。一人は知覚系。一人は、読めなかった。


 読めない輪郭が、また一人いた。


 朧のときと似ていた。でも朧とは違った。朧の輪郭は薄かった。この人間の輪郭は、意図的に隠されている感じがした。


 17は屋上から動かなかった。三人の動きを見続けた。


 三人は正門の外で止まっていた。中に入ってこなかった。ただ、見ていた。学園を見ていた。


---


 一時間目が始まる前に、17は桐島と水無瀬に会った。


「三人確認した」と17は言った。「一人の輪郭が読めない。意図的に隠している。」


「厄介だな」と桐島は言った。「管理局の上層部が送り込んだ可能性があるか。」


「あるかもしれない」と17は言った。「ただ、管理局の気配ではなかった。別の何かだ。」


「Nullでもない?」と水無瀬は言った。


「Nullでもない」と17は言った。「Nullにはある程度共通した気配がある。この三人は違う。」


「朧と燦みたいな、素性不明の能力者か」と桐島は言った。


「そうかもしれない」と17は言った。「ただ、(おぼろ)(さん)は敵意がはっきりしていた。この三人は違う。敵意があるのかないのかもわからない。」


「様子を見るか」と水無瀬は言った。


「今日一日は動かない」と17は言った。「相手が動いたときに判断する。」


「わかった」と桐島は言った。「俺たちも注視する。」


---


 午前中の授業は頭の半分で聞いた。


 残り半分は三人のことを考えていた。追跡の能力で定期的に確認した。三人は正門の外から動かなかった。昼になっても動かなかった。


 昼休み、白瀬が17に声をかけてきた。


「三人のことは桐島から聞いた」と白瀬は言った。「朝霧さんも知っている。」


「ああ」と17は言った。


「一人の輪郭が読めないというのが気になる」と白瀬は言った。「意図的に隠しているとしたら、かなりの使い手だ。」


「そうだ」と17は言った。


「お前の解析を遮断できる人間は、そう多くない」と白瀬は言った。少し低い声だった。「管理局の上層部でも、全員がそれをできるわけじゃない。」


「つまり」と17は言った。


「その人間は、かなり特別な能力者か」と白瀬は言った。「あるいは、お前の能力の特性を事前に知っていて、それに合わせた対策を取っている。」


 17は少し考えた。「後者だとしたら、俺の能力の情報を持っている何者かから情報を得ている。」


「灰島か」と白瀬は言った。


「可能性がある」と17は言った。


---


 午後の授業が終わった放課後、三人が動いた。


 正門を通って、学園の中に入ってきた。


 17はすぐに追跡の能力で確認した。三人が学園の敷地内を歩いていた。ゆっくりとした歩き方だった。急いでいなかった。探しているような動き方だった。


 17は動いた。


 白瀬と朝霧に連絡を入れてから、三人の方向に向かった。桐島と水無瀬にも伝えた。咲には何も言わなかった。


---


 三人は東棟の裏にいた。


 17が角を曲がったとき、三人と目が合った。


 一人は背の高い女だった。二十代後半くらい。髪が短く、目が鋭かった。腕を組んでいた。


 一人は小柄な男だった。三十代くらい。眼鏡をかけていた。手帳を持っていた。何かを書いていた。


 一人は、輪郭が読めない人間だった。フードを被っていた。顔が見えなかった。17と目が合ったとき、フードの中から少し動いた気がした。


「計測不能か」と背の高い女が言った。声が低かった。「直接会うのは初めてだ。」


「誰だ」と17は言った。


「名前を言う必要はない」と女は言った。「ただ、敵ではない。それだけ言っておく。」


「信用できない」と17は言った。


「当然だ」と女は言った。少し笑った。「初対面の人間をすぐ信用するなら、お前は今頃生きていない。」


 17は三人を見た。解析の能力が女の輪郭を読んだ。攻撃系だった。でも構えていなかった。水無瀬と同じ速度系に近い何かだった。


 眼鏡の男を読んだ。知覚系だった。手帳に何か書き続けていた。17を見ていた。いや、観察していた。


 フードの人間は、やはり読めなかった。


「お前たちの目的は何だ」と17は言った。


「情報を持ってきた」と女は言った。「お前に渡したい情報がある。」


「どんな情報だ」と17は言った。


「被験体18の情報だ」と女は言った。


---


 17は動かなかった。


 被験体18。昨夜、端末の断片記録で見つけた番号だった。十三年前に転送された、という一文だけが残っていた番号だった。


「その名前をどこで知った」と17は言った。


「俺たちは十三年前の実験に関わっていた人間を追っている」と女は言った。「追っている中で、被験体18の存在を知った。お前が被験体17だということも知っている。」


「管理局か」と17は言った。


「違う」と女は言った。「管理局には消えた組織だ。十三年前に管理局に潰された。俺たちはその残党だ。」


 17はしばらく女を見た。看破の能力を使った。嘘ではなかった。


「残党が何を目的にしている」と17は言った。


「管理局の上層部が隠していることを、全部明るみに出すことだ」と女は言った。「十三年前に何があったか。実験で何をやっていたか。被験体たちに何をしたか。全部だ。」


「そのために俺に情報を渡す理由は」と17は言った。


「お前が一番、管理局の上層部に近い場所にいる」と女は言った。「そしてお前が一番、管理局を動かせる立場にいる。俺たちだけでは限界がある。」


---


 そのとき、背後から足音がした。


 白瀬と朝霧が来た。二人が三人を見て、距離を取りながら17の隣に来た。


「状況は?」と白瀬は言った。小声で。


「情報を持ってきたと言っている」と17は言った。「管理局に潰された組織の残党だそうだ。」


 白瀬が三人を見た。朝霧が三人を見た。朝霧の目が、フードの人間で少し止まった。


「フードの人間の輪郭が読めない」と朝霧は小声で言った。「私の知覚系でも。」


「俺の解析でも同じだ」と17は言った。


 女が白瀬と朝霧を見た。「管理局の監視者か」と女は言った。「俺たちを捕まえるつもりか。」


「今はそのつもりはない」と白瀬は言った。愛想のいい声だった。でも目は笑っていなかった。「ただ、話の内容によってはそうなるかもしれない。」


「正直な人間だ」と女は言った。


「お互い様でしょ」と白瀬は言った。


---


 女が一歩前に出た。


「被験体18の現在地を知っている」と女は言った。「十三年前に転送された後、どこに行ったかを知っている。」


「どこだ」と17は言った。


「この学園から、車で二時間の場所だ」と女は言った。「ただ、今は動けない状態にある。」


「動けない、とは」と17は言った。


「管理局の上層部が拘束している」と女は言った。「五年前から拘束されている。灰島が引き渡したんだ。」


 17は少し止まった。


 灰島が引き渡した。


 五年前。榎本のメモにあった。五年前に灰島が接触した能力者が一人消えていた。その能力者が計測不能だった。


 それが被験体18だった可能性があった。


「被験体18は何者だ」と17は言った。


 女がしばらく17を見た。それからフードの人間を見た。フードの人間が小さく頷いた。


「俺たちにもわからない部分がある」と女は言った。「ただ、一つだけはっきりしていることがある。」


「何だ」と17は言った。


「被験体18は」と女は言った。「お前と同じ計測不能の能力者だ。そしておそらく、お前が知っている人間だ。」


---


 東棟の裏が静かになった。


 白瀬が女を見た。朝霧がフードの人間を見た。眼鏡の男が手帳に何かを書き続けていた。


 17は動かなかった。


 俺が知っている人間。


 記憶がなかった。でもそれは意図的に消されたものかもしれなかった。昨夜、端末を読みながらそう思っていた。


「証拠はあるか」と17は言った。


「ある」と女は言った。手の中に小さな記録媒体があった。「これに入っている。ただし」女は続けた。「これを渡す代わりに、お前にも動いてほしい。」


「条件があるのか」と17は言った。


「条件ではなく、協力の要請だ」と女は言った。「俺たちは管理局の上層部が隠していることを明るみに出したい。お前は被験体18を助けたいはずだ。目的が一致している部分がある。」


「一致していない部分もある」と17は言った。


「そうだ」と女は言った。「だからまず情報を渡す。信用してもらうために。それからの話はそれからだ。」


 17はしばらく女を見た。看破の能力が女の言葉を読んだ。嘘ではなかった。


「名前を教えろ」と17は言った。「組織の名前でいい。」


 女は少し間を置いた。「ぬえだ」と女は言った。「十三年前に管理局に潰された組織の名前だ。」


---


 記録媒体を受け取った。


 三人はそれだけ言って、来たときと同じようにゆっくりと歩いて去っていった。フードの人間が最後に振り返った。フードの中の顔が、少しだけ見えた。


 17はその顔を見た。


 解析の能力が動いた。でも読めなかった。輪郭が掴めないままだった。


 フードの人間が去った。


---


 三人が見えなくなってから、白瀬が息を吐いた。


「鵺、か」と白瀬は言った。「聞いたことがある。管理局の古い記録に名前が出てくる組織だ。十三年前に壊滅したと記録されていた。」


「生き残りがいた」と朝霧は言った。


「ああ」と白瀬は言った。「厄介なことになってきた。管理局、Null、鵺の残党。それから灰島。全部が同時に動いている。」


「全部が繋がっているのかもしれない」と17は言った。


「中心にお前がいる」と白瀬は言った。


「そうかもしれない」と17は言った。


 三人が記録媒体を見た。小さかった。でも重かった。


「今夜、桐島と水無瀬も含めて話し合いたい」と17は言った。


「そうしよう」と白瀬は言った。


 朝霧が空を見た。夕日が傾いていた。「本格的に時が動き始めた」と朝霧は言った。独り言のような声だった。


 17は答えなかった。でも朝霧の言葉が正しいと思った。


 静かに、でも確かに。


 何かが動き始めていた。

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