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第34話「静かな怒り」

人影の名前は、鷹津たかつと言った。それだけを歩きながら17に告げて、あとは何も言わなかった。17も何も聞かなかった。二人は学園から離れた方向に無言で歩いた。街灯のない路地を抜けると川沿いの道に出て、水音だけが二人の間を満たした。鷹津の足音は静かで、17の足音も静かで、二人分の気配が川の音に溶けるように消えていった。


 しばらく歩いたところで、鷹津が川沿いに建つ古い倉庫の前で足を止めた。重い扉を引くと、中には明かりがあった。17は一瞬だけ扉の外に立ち止まり、中を見た。それから何も言わずに入った。


---


 中には五人いた。


 解析の能力が瞬時にそれを読んだ。全員が能力者で、全員が訓練を受けていた。壁際に三人、奥に二人、全員の視線が17に向いていた。倉庫の中央には椅子が一脚置かれていて、それが普通の椅子ではないことは見ればすぐにわかった。金属製で、両腕と両足を固定するための器具が取り付けられていた。


 いやな予感がした。それでも17は足を止めなかった。


 奥にいた一人が前に出た。三十代くらいの背の高い男で、首元に古い傷跡があり、表情というものがほとんどなかった。


「来てくれた」と男は言った。


「Nullの幹部か」と17は言った。


「そうだ」と男は言った。名前は言わなかった。「座れ。」


 17は椅子を見て、それから男を見た。「断る。」


 その瞬間、背後から複数の気配が同時に動いた。


---


 鷹津が17の両腕を後ろに回した。それと同時に壁際の三人が素早く動いて17の体を押さえ込んだ。17は振り解こうとしたが、五人がかりで体の自由を奪われ、椅子に座らされた。両腕に金属の器具が嵌められ、続いて両足にも嵌められた。器具が椅子ごと床に固定された。


 17は動こうとした。動けなかった。器具から何かが流れてきた。能力の発動を阻害する何かだった。式系を使おうとしたが、糸が出なかった。目の能力は生きていたが、それ以外が完全に遮断されていた。


 男が17の正面に立った。「この器具は能力抑制型の拘束具だ。管理局が開発したものを、うちで改造して使っている。生半可な力では外せない。」


「何が目的だ」と17は言った。声のトーンは変わらなかった。


「お前が何者かを聞きたい」と男は言った。「管理局でも、俺たちの仲間でもない。学園に潜伏している計測不能の能力者。そういう存在が、誰の指示で動いているのか、誰の意思の下にいるのかを聞きたい。答えてくれれば解放する。答えてくれないなら、別の方法で聞く。」


 別の方法、という言葉が何を意味するか、17にはわかった。


「誰の手の中にもいない」と17は言った。「それだけだ。」


「そうは思えない」と男は言った。「もう少し詳しく話してくれ。」


「話すことはない」と17は言った。


 男は少し間を置いた。それから短く息を吐いて、「そうか」とだけ言った。


---


 最初の一発が来たのは、それから数秒後だった。


 腹部への打撃で、重かった。椅子ごと少し後退した。17は声を上げなかった。男が17を見た。「答えてくれれば終わる。」


「さあ」と17は言った。


 二発目が来た。三発目が来た。同じ場所を繰り返し打った。それでも17は声を上げなかった。表情も動かなかった。ただ正面を見ていた。


 男が方法を変えた。


 壁際にいた一人が前に出て、熱を帯びた掌を17の腕に当てた。熱系の能力だった。皮膚が焼ける感覚があった。それでも17は何も言わなかった。息を詰めることもなかった。ただ、熱を当てている能力者の手元を静かに見ていた。


 男が止まらせた。別の一人が前に出た。今度は電撃系の能力だった。電流が17の体を走った。筋肉が強制的に収縮した。それでも17は歯を食いしばることもなく、ただ前を向いていた。


 男が眉を寄せた。「痛くないのか。」


「痛い」と17は言った。淡々とした声で。「ただ、それがどうした。」


 男が少し動揺した顔をした。それは予想していた反応ではなかった。壁際の三人が顔を見合わせた。鷹津だけは表情が変わらなかった。


---


 それからさらに長い時間が続いた。


 男は何度も方法を変えた。腕に来た。肩に来た。電撃を強くした。熱を上げた。顔にも来た。17の口の中が切れて血の味がした。左の頬が腫れ始めた。それでも17は何も言わなかった。何かを語ることも、助けを求めることも、叫ぶことも、一切しなかった。ただ椅子に座って、男を見ていた。その目が変わらなかった。解析し続ける目が、ずっと静かに前を向いていた。


 男が再び17の正面に立った。額に汗が滲んでいた。「なぜ話さない。話してしまえば楽になる。」


「楽になりたいとは思っていない」と17は言った。口の中に血が滲んでいたが、声は変わらなかった。「それに、俺はずっと別のことを考えていた。」


「何をだ」と男は言った。


「この器具の仕組みだ」と17は言った。


 男が止まった。


---


 17は両手の器具を見た。目の解析能力は拘束されてからずっと生きていた。打撃を受けながら、熱を受けながら、電撃を受けながら、その間ずっと器具の構造を読み続けていた。能力抑制の機構がどこにあるか。どの部分の負荷耐性が最も低いか。どこに力を集中させれば内側から歪ませられるか。時間をかけて、全部読んだ。


「解析が終わった」と17は言った。


---


 次の瞬間、17の両腕が動いた。器具が軋んだ。金属が内側から悲鳴を上げるような音がして、能力抑制の機構が歪み、一瞬だけ遮断が途切れた。その隙間に式系・くびきを通した。糸が器具の内部構造に走り込んで、支点を内側から砕いた。器具が弾けるように砕けて、両手が自由になった。続けて両足の器具も同じように糸で内側から破った。椅子から立ち上がった。


 倉庫の中が静止した。


 男が動いた。空気を圧縮して飛ばす能力だった。圧縮された空気の塊が17に向かって飛んできたが、17は避けなかった。一歩前に踏み出した。圧縮空気が17の脇を掠めて後ろの壁を砕いた。17はそのまま歩き続けた。男との距離が一気に縮まった。男が次の攻撃を放とうとした。


 間に合わなかった。


 17の右拳が男の顔に入った。重く、鈍い音がした。男が後退して、よろけて、膝をついた。倉庫がまた静止した。17は右拳を下ろしたまま、膝をついた男を静かに見下ろしていた。その顔に感情はなかった。怒っているとも冷静とも見えなかった。ただ静かだった。その静けさが、怒りよりも恐ろしかった。


 鷹津が動いた。壁際の三人も動いた。


 17がゆっくりと顔をあげた。

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