第15話「あなたはまだ何も教えてくれない」
昇降口の前に白瀬と朝霧が待っていた。
「三階の窓から全部見てた」と白瀬は言った。
朝霧は柊を見た。
「怪我は」
「ない」と柊は言った。
朝霧が小さく息を吐いた。ほとんどわからないくらいの、小さな息だった。
「中に入ろう」と白瀬は言った。
空き教室に四人が集まった。白瀬が扉を閉めた。朝霧が窓の外を確認した。
「あの集団は何者だ」と白瀬は言った。
「十三年前に管理局が記録を消した人間たちの残党だ」と17は言った。「死んではいない。ただ公式には存在しない人間にされた」
「なぜ消された」
「それは言えない」
「知らないのか言えないのか」
「言えない」
白瀬は少し考えた。朝霧が口を開いた。
「Formula:1と聞こえた」と朝霧は言った。静かな声だった。「0とは違う何かがあると、相手が動揺した。でも何が起きたか見えなかった」
17は窓の外を見た。
「今は話せない」
「わかった」と朝霧は言った。それ以上は聞かなかった。
「今日のことを上に報告するか」と白瀬は朝霧に言った。
「しない」と朝霧は即答した。
「俺もしない」
二人は17を見た。
「俺もない」と17は言った。
「じゃあ四人だけの話だ」と白瀬は言った。
「ありがとう」と柊は言った。三人に向かって。
朝霧は小さく頷いた。白瀬は少し笑った。17は窓の外を見たままだった。
解散した後、17は一人で屋上に上がった。
夜の学園を見渡した。追跡の能力が、学園の中の気配を捉えた。白瀬が寮にいる。朝霧も同じく。桐島と水無瀬はまだ職員室にいる。柊は寮の自室にいた。窓の明かりが点いていた。
17はその光をしばらく見た。
柊が拘束されたとき、何かが動いた。怒りなのかどうかわからなかった。でも何かが動いたのは確かだった。柊の顔が歪んだ瞬間に、確かに。
その何かに名前をつける必要はなかった。でも確かに、あった。
細身の人物の言葉を繰り返した。
お前は昔からそうだった。
知っている人間だった。昔から。それだけはわかった。でも今は、それ以上掘り返す気になれなかった。
夜風が吹いた。屋上の縁に腰を下ろした。
Formula:1の名前を聞いて、細身の人物が止まった。あの一瞬が全てだった。0だけではないという事実が、あれほど相手の動きを止めるとは思わなかった。
上限が見えないことへの恐怖は、強い人間ほど深い。
17はそれを知っていた。
翌朝、ホームルームで神崎が話した。
「昨日の放課後、校内で不審者の目撃情報があった。しばらくの間、単独での下校は控えるように」
クラスがざわめいた。白瀬は前を向いていた。朝霧は窓の外を見ていた。柊は手元を見ていた。17は窓の外を見ていた。
誰も17を見なかった。
桐島が教室の後ろで腕を組んで立っていた。神崎の話を聞きながら、一度だけ17を見た。17は気づいていた。気づいていないふりをした。
昼休み、柊は屋上に上がった。17がいた。
「来た」と17は言った。「来た」と柊は言った。並んで立った。
「昨日」と柊は言った。「Formula:1って言った。あれ聞いて相手が止まった」
「ああ」
「何をしたの」
「今は無理だ」
「わかった」柊は少し間を置いた。「でも一つだけ」
「何だ」
「昨日、私が圧力かけられたとき。17の目が変わった」
17は答えなかった。
「怒ってた?」
風が吹いた。柊の髪が揺れた。
「さあ」と17は言った。
「私はわかったよ」と柊は言った。静かな声だった。「怒ってたんじゃなくて、嫌だったんだと思う。私が痛そうにしてるのが」
沈黙が落ちた。
「違う?」
「さあ」と17は言った。
でも今度の「さあ」は昨日と少し違った。柊にはわかった。否定ではなかった。
「私ね」と柊は続けた。「Formula:1も0も、まだ全然わかってない。あなたのことも全然わかってない。でも」
「でも?」
「嫌だって思ってくれる人が隣にいるのは、悪くないと思う」
17は柊を見た。柊は正面を見たままだった。17も正面を向いた。
「そうかもしれない」と17は言った。
チャイムが鳴った。二人は屋上を後にした。並んで歩いた。足音が二つ、廊下に響いた。




