切り札と決着
ダークデーモンと対峙する環は意識を集中し、全身に魔力を行き渡らせた。
「さて、本格的に始めようじゃないか」
「すぐに終わる」
言葉と共に、ダークデーモンは戦斧を薙ぎ払った。
「バースト!」
環は爆発で跳びあがりそれをかわすと同時に、ダークデーモンの顔面を蹴り飛ばした。さらにその顔面めがけて手をかざした。
「おまけだ、ファイアボール!」
火の玉がその顔面を襲った。ダークデーモンは少しよろめいたが、すぐに体勢を立て直し落下中の環を鎖で打とうとした。
「アイスバイト!」
複数の氷の牙が鎖の軌道を変え、空振りになった。環は着地と同時にすぐにダークデーモンの足元に走りこんだ。
「でかい奴は足元からってな、バァァァァァスト!」
膝の裏あたりに1発バーストを放ち、追撃をかけようとした。だが、そこに尻尾が降ってきてそれをなんとかかわすだけになった。そこに戦斧が振り下ろされ、それを両手をクロスして地面にめりこみながらもなんとか受け止めた。
「ほう、この斧で断ちきれんか」
「ああ、ちょっと心配だったけどな、ぐっ」
さらに戦斧に力がこめられ、環は膝をついた。なんとかもちこたえるのが精一杯だったが、それでもまだ、その表情には余裕があった。
「バーストォ!」
爆発の勢いで横に跳んでなんとか戦斧の圧力から逃れた環は、ダークデーモンから距離をとった。
「どうした? もう終わりか」
「そう焦るな、これから奥の手を見せてやるよ」
環はダークデーモンに向かって手をかざした。
「アイスバイト!」だが氷の牙は出現せずに、ただ魔力だけが環の手に集中した。「アイスバイト! アイスバイト!」
今度は魔力が可視化されるほど凝縮された。環は少し苦しそうな表情を浮かべた。そこにダークデーモンの鎖が襲いかかった。それをなんとかかわし、もう一度手をかざした。
「アイスバイト!」さらに凝縮された魔力をおさえるのに苦労している様子だったが、環はにやりと笑った。「くらえ! 5倍チャージアイスバイト!」
今までにない巨大な氷の牙が出現した。ダークデーモンはそれを戦斧で受け止めた。
「ぐぅおおおお」
しかし、弾き返せずそのまま押し込まれはじめた。すぐに環はその足元に走りこんだ。
「バァァァスト!」
そして押される方向とは逆方向にバーストを炸裂させた。上体を押され足元を逆方向にすくわれた格好になった。ダークデーモンは勢いよく頭から倒れた。
「バースト! 2倍チャージバースト」
環は今までにないほど高く跳びあがり、その顔面めがけて急降下した。
「うまくいくかわからんが」環は全身に魔力をめぐらせ、さっきのチャージと同じ要領でそれを何倍にも増幅した。「さすがにきついが、いくぞぉぉぉぉぉ!」
落下の勢いと増幅された魔力による強烈な拳がダークデーモンの顔面に直撃した。凄まじい轟音と土煙が舞い上がり、何も見えなくなった。すぐにその中から環が弾き飛ばされたが、なんとか着地して踏みとどまった。
土煙が晴れてくると、そこには立ち上がったダークデーモンがいた。その顔には環の拳による傷がしっかりと刻まれていた。
「今のは少しは効いたみたいだな」
環は肩で息をしながら再び拳を握り締めた。ダークデーモンは大きく口を開けると、そこから炎を吐き出した。
「プロテクション!」
半円状の魔法の盾が環を中心に出現し、炎を遮った。
「精霊の力よ! 命の水よ!」
突然のエバンスの声と共に大量の水がその炎に襲いかかり、環に襲いかかる炎を遮った。
「タマキ、下がれ!」
その声に応じて環は後ろに跳んだ。声のしたほうを見ると、城壁にエバンスが剣をかまえて立っていた。その横のカレンが一枚のスペルカードを取り出して、タマキに向かって投げた。
「タマキ様、そのスペルカードを使ってください」
環は足元に落ちたスペルカードを拾った。カードには雷の絵が描かれていた。
「それは雷そのものを操る、ライトニングのカードです。強力すぎるので気をつけて使ってください」
「わかった、ありがたく使わせてもらうよカレン。契約、ライトニング!」
ライトニングのカードが光になり消えるのと同時に、環の体内に今までの魔法とは全く違う魔力の流れが生じた。今までのものが体内の魔力をそのまま魔法に変換するものだとするなら、それは魔力を放出して環境に影響を与え、操るものだと感じられた。
「水よ!」
動き出そうとしたダークデーモンにエバンスが再び水を放ったが、それは簡単に戦斧で退けられた。さらに鎖がエバンスを狙って振り下ろされようとした。
「そうはいくか! ライトニングボルト!」
環の放った雷の矢によって鎖の軌道はずらされ、鎖はエバンス達から離れた城壁を直撃した。
「2人は下がっててくれ、他の人も城内に!」
「わかった、頼んだぞタマキ!」
エバンス達が城内に入るのを確認してから、環はダークデーモンに向かって笑顔を向けた。
「さて、そろそろ決着をつけようと思うんだけど」
「ずいぶんと自信があるようだな、人間」
「自信ね、それほどあるわけでもないんだけど、まあとりあえずやってみるか」
環は手を空にかかげた。
「ライトニーング!」
轟音とともにダークデーモン雷がダークデーモンの持つ戦斧を直撃した。戦斧は手から弾かれ、その足元に落下した。
「加減してこれなら、いける」
環はそうつぶやき、落ちた戦斧に向かって走った。ダークデーモンは戦斧を拾おうと手を伸ばしていた。
「バースト!」
爆発で一気に加速した環はその手に体当たりをして弾いた。そして体をひねりダークデーモンの背中を正面に捉えた。
「ファイアァボール!」
火の玉が炸裂しダークデーモンは一歩よろめいた。環は地面を削りながら着地した。
「まだまだぁ! バァァァスト!」
今度はダークデーモンの後頭部めがけて跳んだ。しかしそこに鎖が振り向きざまに打ちつけられようとした。
「バースト!」
バーストで跳ぶ軌道をわずかに変えた環はそれをかわして、ダークデーモンの顔面に突っ込んでいった。だがその口が開き、炎が吐き出された。
「プロテクション!」
環は魔法の盾を全身を包むように発生させ炎に突っ込んでいき、そのまま突っ切った。
「甘いぜ! バースト! バースト! 3倍チャージバァァァァァストオオオオ!」
3倍にチャージしたバーストがダークデーモンの頭部に叩き込まれた。ダークデーモンはよろめき、ゆっくりと倒れていった。そのまま環は城壁の前に着地して振り返って片手を空にかざした。
「ライトニング!」環は顔をしかめた。「くそっ、1回チャージだけでもきついな。だけど、やるしかない」
ダークデーモンはすでに起き上がり始めていた。
「ライトニング! ライトニング! ぐぅ、くそ! ライトニング!」
すでにダークデーモンは立ち上がり、戦斧を拾うと環に近づいてきた。
「ライトニング!」環は片膝をついたが、すぐに立ち上がった。「まだまだ! ライトニング! ライトニング!」
真っ向から戦斧が振り下ろされた。環はそれを片手で受けたが、再び片膝をつくことになった。戦斧に力がこめられ、環はさらに押される。だが、ライトニングのチャージは止めない。
「おぉぉぉぉぉぉ! ライトニング! ライトニング!」
押しつぶされそうな環に鎖が振るわれた。しかし、その苦しげな表情にも関わらず、改心の笑みを浮かべた。
「10倍、ライトニィィィィィィィング!」
環の絶叫と同時に地面が割れるような轟音が響き、天も割れるような稲妻がダークデーモンを貫いた。
ダークデーモンの動きが止まり、その場に崩れ落ちていった。