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闇王

 城に戻った環を待っていたのは燃えさかる城下町だった。環は急いで城壁に登りその状況を見渡した。不思議なことに魔物の軍勢は全く見当たらなかった。環は手近にいる兵士をつかまえた。


「一体何があったんだ?」

「勇者様、闇王が、闇王が攻めてきたんです!」

「闇王か」環が再び城下町を見渡すと、城壁に近い位置で爆発が起こった。「あそこか、バースト!」


 一気に爆発があったところまで跳ぶと、そこには姿は人間に似ているが、まとっている雰囲気が全く違う何者かがいた。


「あんた、闇王って奴かい?」

「なんだ貴様は? いや待て、人間ではありえない魔力だ。ということは貴様も人間どもが呼んだ勇者か」

「そう、あんたを倒すために呼ばれたってやつ。ここで会えてちょうどよかったよ」

「ほう、どうするつもりだ?」

「悪いけど、倒させてもらう」


 環はそう言って闇王に指を突きつけた。


「前の勇者よりもできるようだが、貴様に何ができる。前の人間と同じようにしてやろう」


 闇王は環のことを嘲った。環はそれを黙って受け止めてから、全身に魔力を溢れさせて闇王をにらみつけた。


「黙ってもらいたね、まずはストーンスキン!」


 魔力が一気に開放された。


「バァァァァストオ!」バーストの爆風で加速された環が一直線に闇王に突っ込んでいく。「くらえぇぇぇ!」

「ぬるい!」


 轟音。そして砂煙。その砂煙が晴れると、あれだけの勢いで突っ込んだ環は闇王の片手で弾き飛ばされていた。城壁にめりこんだ環はそれでも何事もなかったかのようにそこから抜け出した。


「さすがにやるな。そうこなくちゃこっちも張り合いがないってもんだ」環は手を挑発するようにクイクイと動かした。「突っ立ってないでそっちからこいよ」

「ならそうしてやろう」


 瞬時に闇王は環の目の前に現われた。そして手をかざした。


「燃え尽きろ」

「バーストォ!」


 闇王の手から炎が噴出するのと同時に環のバーストが炸裂した。互いに相殺しあい爆風と熱風が吹き荒れた。しかし2人は止まらない。環が横に跳ぶと闇王は後ろに跳び、連続で火の玉を放った。


「アイスバイト!」


 鋭利な氷の牙が次々にファイアボールを貫いて消していく。環は休まず次の魔法を放つ。


「お返しだ! ぶっつけ本番ファイアボール!」


 だがそのファイアボールはあっさりと闇王に握りつぶされた。2人の動きが止まり、闇王はつまらなそうに鼻をならした。


「少しはできるようだな、人間」

「それはどうも」

「貴様のことは覚えておいてやろう、無駄なあがきをした人間としてな」

「無駄かどうかはわからないぜ」

「たわごとを」


 闇王は腕を一振りした。たちまち環を炎の壁が包み込む。しかし環は落ち着いている。「さすがに派手な魔法だな、バースト!」


 爆風で炎を消し飛ばした。はずだったが、炎の壁はすぐにその形を取り戻した。闇王は右手を上げてその手を握った。炎の壁が環を飲み込むように動き出した。


「もういっちょバーストッ!」

「逃がさん!」


 爆風で上に逃れた環に闇王は雷の矢を数本放った。雷の矢が環の体を貫こうという時、両手を前に突き出した。


「プロテクション!」


 雷の矢は魔法の盾に阻まれて凄まじい放電と共に消失した。そのまま環は勢いよく地面に墜落気味の着地をした。


「やれやれ、今のはけっこう危なかったぜ」


 ゆらりと立ち上がる環を闇王は無言で見据えた。


「貴様、本当に人間か? そんな戦いかたは見たことがない」

「ま、これは俺だけのやりかただから、あんたが見たことなんてあるわけがないぜ」

「そうか、だがこの私にはおよばない」

「いや、人間の力を見せてやる!」


 環は右手を高々とかかげた。


「マイティ! いくぜ! バースト!」


 爆風と共に闇王に突っ込んでいく環。闇王はその場から動かず、腰を落としてかまえた。環は体内の魔力を全力で集中して拳を叩き込んだ。環の右手と闇王の左手が激突した。衝撃が2人の間に起こった。互角のように見えたが、勢いのついた環を動かずに止めた闇王が明らかに優勢だった。


「まだまだだ!」そして左手を闇王に向かって突き出した。「ぶっつけ本番その2、ライトニング! ボルトー!」

「甘い」


 闇王は右手を突き出し、魔法の障壁を発生させた。環の放った雷の矢はその障壁に受け止められた。


「止めさせるかよ!」


 障壁に受け止められた雷の矢にさらに魔力が込められる。輝きと放電が勢いを増していき、障壁に亀裂が走った。


「ちっ」


 闇王が飛びのくのと障壁が崩壊するのは同時だった。環はそれをすぐに追いかけた。


「力比べといこうじゃないか」


 そしてがっちりと手四つに組み合った。


「貴様は無謀な奴だな」

「そうでもないかもしれないぜ! うぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!」


 環は魔力を全快にして全力で闇王を押しつぶそうと力を込めた。2人の魔力が激突して、強力な衝撃波が発生した。大地そのものをきしませるようなパワーのぶつかり合いは両者とも一歩も退かない。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 しかし徐々に環の魔力が増大していき、闇王は徐々に押されていく。


「バァァァァァァストオ!」


 爆風で闇王は弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。環はさすがに消耗したようで、追い討ちをかけることができず、膝に手を置いてそれを睨みつけた。闇王はゆっくりと立ち上がった。


「なるほど、大したものだ。私も本気を出さねばなるまい」


 そして1枚のカードを取り出した。それには禍々しい悪魔が描かれていた。


「今、血の盟約を行使せよ。ダークデーモン!」


 闇王の足元に血の渦が広がっていく。闇王はそれに飲み込まれていった。全身が飲み込まれると、血の渦は逆に回転しながら、恐るべき悪魔の頭部がそこから出てきた。それは環の10倍以上の巨大さがあった。


「これは、参ったな」


 さすがの環も数歩後ずさった。悪魔はどんどん姿を現し、その異様な姿が明らかになっていった。


 血のような皮膚の色に太い尻尾、山羊と人間を混ぜたような禍々しい顔。巨大な戦斧と鎖を持ったその姿は、悪魔という言葉すらかすんで見えるものだった。


「人間よ、恐怖するがいい。貴様に勝利はない」


 地の底から響くような声がダークデーモンから発せられた。


「恐怖? 不思議とそんなものは感じないんだよ。それに、やってみなくちゃわかんないんだろ」

「無駄なことだ!」


 ダークデーモンは鎖を環めがけて叩きつけた。環は横に跳んでそれを避けたが、すぐにダークデーモンの足が襲いかかってきた。


「ぐっ」


 ただ振り上げただけの蹴りだったが、環はそれをまともにくらって再び城壁に叩きつけられた。こんどは城壁にめりこむどころではなく、一部城壁が崩れた。


「まったく」城壁に埋もれていた環はゆっくりと立ち上がった。「すごい力だよ。正面から殴りあっても勝ち目はないな、これは」

「ならば逃げ出すといい。命が惜しいであろう」

「だけどな、あいにくここを通すわけにはいかないんだよ。それに、こっちにも切り札の1つや2つはある」


 環はこんな状況にも関わらず、笑った。

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