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泉の精霊と闇の気配

 泉までの道のりはのんびりしたものだった。環は魔法の契約を済ませ、周囲に被害が及ばない種類のものを練習していた。


「よし、プロテクション」


 環は自分をの前に壁を作り出すイメージでプロテクションを使ったのだが、そのイメージ通りにはいかずに、馬車全体を覆うほど巨大な魔力の盾が出現した。


「ちょっとでかすぎだな」

「ちょっとどころではありませんね。プロテクションはイメージ通りに展開できなければ使いにくい魔法ですよ」


 環はプロテクションを解除して難しい顔をした。


「そうなの? でかいほうがいいような気がするけど」

「大きければ魔力の消費も激しくなりますし、維持するのも大変になります。それにプロテクションは1点でも破られてしまうと消失してしまいます」


 カレンの説明に環は納得したように何度か首を縦に振った。


「なるほどなるほど。確かにあのサイズをずっと集中して維持するのは戦いながらだと難しそうだよな。ロレンザさん、何かコツみたいなのはないの?」

「コツ、ですか」ロレンザは両手を前に突き出した。「プロテクション」


 突き出した両手の間に円状の魔法の盾が出現した。


「こうして、手の間に作るようにすると、イメージしやすく、比較的簡単にできると思います」

「こうかな」環はロレンザと同じように両手を突き出した。「プロテクション」


 形は多少いびつだが、環の両手の間に魔法の盾が出現した。それはロレンザのプロテクションよりも強い輝きを放っていた。


「おお、できた」

「ライトニングボルト」


 その盾に向かっていきなりカレンがライトニングボルトを放った。それは魔法の盾に当たり消失した。


「カレン、いきなりそれはきついって」

「うまくいっているかは実際に試すのが一番ですから。それにタマキ様ならば大丈夫でしょう」

「いや、駄目だって」

「タマキ、着いたぞ」


 そうしているうちに、馬車が止まってエバンスが外から声をかけてきた。タマキはヨウコを抱えて馬車から降りた。その目の前には小さな泉があった。透き通るような泉は、確かに普通ではない存在が感じられた。


「これが精霊の泉か」

「そうだ、美しい泉だろう。我が王家の守護を司る存在でもある」

「それで、精霊っていうのはどこに?」

「まあ見ていてくれ」


 そう言うとエバンスは泉に足を踏み入れて、どんどん歩いていった。腰辺りの深さのあるところまで歩くと立ち止まった。


「なあカレン、エバンスは何をしようとしてるんだ?」

「精霊に語りかけているんです。見ていればわかりますよ」


 環はエバンスに注目した。立っているエバンスを中心に波紋が広がっていくのが見えた。さらに、水が霧状になりゆっくりとエバンスの体を包み込んでいった。そしてその霧は次第に人のような形を作っていった。


「あれは?」

「精霊がエバンス様の体を借りて姿を現そうとしているのです」


 ロレンザは落ち着いた様子で環に解説をした。そうしているうちにも霧はほぼ人間のような形になった。大きさは人間の2倍ほどで、霧で出来たシルエットという感じのものだった。


「異界からの勇者よ、よく来た」


 泉全体からこの世のものではない声が聞こえた。


「あんたが精霊さんか。今日は頼みがあってきたんだ」

「わかっている、今我が子から聞かせてもらった。勇者よ、その娘を我がもとに」


 環はヨウコを抱えたまま泉に足を踏み入れた。精霊は手にあたる部分を伸ばしヨウコを包みこんだ。環は手を放しヨウコの体を精霊にゆだねて、泉から出た。


「どれくらいでミヤザキさんは目が覚めるの?」

「これは、少し時間がかかるであろう。いや、待て」精霊の声が少し緊張を帯びたものになった。「どうやら森に邪悪な存在が足を踏み入れたようだ」

「邪悪な者って、どれくらい?」

「ごく少数だ」

「タマキ様、ちょうどいい実践練習ができそうですよ。ただ、使うのはバーストとアイスバイトだけにしていただけますか?」

「なんでまた」

「タマキ様の魔力でほかの攻撃魔法を使われたら火事になってしまいます」

「たしかにそうだな。わかった、いい実践練習になりそうだし、ちょっと行ってみよう。それで精霊さん、その闇の手の者っていうのはどこにいるかわかるかな」

「焦ることはない。邪悪な気配はここを目指してきている」

「そういうことなら、ここで迎え撃とうか」


 環の提案にカレンはうなずいた。


「勇者様、我らにできることなありませんか?」


 バーンズは環にそう聞いた。環は少し考えるように、あごに手を当てた。


「みんなは馬車とエバンスを守ってくれないかな」

「了解しました」


 3人は馬車とエバンスを守るために後ろに下がった。環はそれを確認すると、邪悪な気配というのを迎え撃つために道のど真ん中に立った。



「あれが邪悪な気配ってやつの正体か」


 環の視線の先には数十体の異形の魔物達がいた。スケルトンやらその他人間とも他の動物とも全く違う禍々しい連中だった。


「スケルトンにピットデーモン、オーガもいますね」

「カレン、なんでここにいるの。いや、まあいいか、あの小さいのがピットデーモン?」

「そうです、素早い動きに注意してください。あの巨体がオーガですね、見ての通り、力が強い魔物です」

「あとなんか浮いてる霞んだボロきれみたいなのもいるけど」

「イビルミストですね。魔法を使う魔物で普通の攻撃はなかなか効きません」

「それじゃとりあえず、アイスバイト!」


 環が腕を振ると氷の牙が3つ出現し、魔物達に向かって飛び出していった。そして激突。ピットデーモン数体とスケルトン数体がその餌食になった。


「まずまず。じゃ、次は」


 成果を確認している環に向かって、イビルミストからお返しというわけなのか、氷の牙が放たれた。


「プロテクション!」


 それは魔法の盾に阻まれ砕け散った。そのまま盾を展開したまま、環は走り出した。


「こいつも試してみるか、マイティ!」


 身体能力が強化され、環の走るスピードは更に早くなった。その間もイビルミストからの攻撃はやまなかった。しかし、それはことごとく魔法の盾に阻まれた。さらにピットデーモンが襲いかかって来たが、それは一気に跳躍してかわした。


「まずはボロきれからだ、バースト!」


 爆発がイビルミストを吹き飛ばした。環が着地するタイミングで、オーガが腕を振るった。


「ストーンスキン!」


 それを環は腕を上げて防いだ。マイティで強化された力はその一撃を受け止め、踏み止まることができた。


「なるほど、マイティで出せる力はこれくらいか。それじゃ」環の体内で魔力が一気に膨れ上がった。「終わりにさせてもらう!」


 オーガは蹴りの一発で吹き飛ばされた。それに巻き込まれたスケルトンとピットデーモンが潰れた。残った魔物が環を囲んで一気に跳びかかった。


「バースト!」


 跳びかかってきた魔物は残らず吹き飛ばされ、あとはオーガを残すのみになった。なんとかさっきの蹴りのダメージから立ち上がり、オーガは環に向かって突っ込んできた。


「いくぞ、アイスバイト!」


 複数放ったものとは比べものにならないサイズの氷の牙がオーガに向かって飛び、その体を貫いた。


「さすがタマキ様です。実戦に強いですね」

「そうらしいね。じゃ、戻ろう」


 そうして、環とカレンが泉に戻ると、エバンスはすでに泉から出ていた。


「なんだタマキ、早かったな」

「まあ、あんまり数も大したことなかったからね。それで、ミヤザキさんは?」

「彼女はまだ目覚めていないが、もう大丈夫だ。それよりも、この森に魔族が侵入したというのは気になるな、早く戻ったほうがよさそうだ。みんな馬車に乗り込め」

「いや、俺は一足先に戻るよ。なんか嫌な感じがするんだ」

「そうか、頼む」

「じゃ、一足先に行ってきます」


 環はそう言って、バーストで跳んでいった。

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