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2人の旅立ち

 3ヵ月後、環は慌しく部屋の整理をしていた。そこにカレンが入ってきて乱雑な室内を見回した。


「ひどい有様ですね。明後日には出発ですが、これで大丈夫なのですか」

「大丈夫にするために、こうして片付けてるんじゃないか」

「手伝いを頼むべきではないでしょうか」

「危ないものもあるし、下手に頼めないよ」

「他人には見られたくないものもあるわけですね」


 環は天井を見上げて少し考えこんだ。


「まあ、あるかな」


 それを聞いたカレンはため息をついた。


「私がお手伝いしますよ。今さら何があったところで驚きはしませんから」

「自分の準備があるんじゃないの」

「もう済ませました」


 カレンはそれだけ言うと環の返事を聞かずに、どんどん部屋を片付け始めた。そこに葉子がドアを開けて部屋に入ってきた。


「あれ、邪魔だった?」

「いや、別にそんなことはないですけど、どうしたんですか?」


 環の問いに、葉子は1つのアミュレットを取り出した。


「環君に頼まれてたやつなんだけど、やっとできたから届けに来たのよ」

「ああ、そうだったんですか。忙しいのにありがとうございます」


 環はアミュレットを受け取って、それをよく見た。狼のようだが、丸みがあるデザインで、なんとなく愛嬌のある顔立ちをしていた。環はそれと左手の指輪をくっつけた。すると、指輪がまとっていた闇がそのアミュレットに吸い込まれていき、それはまるで生きているかのように動き出した。


「これが我の新しい窓か」

「そういうことだ」


 環はアミュレットを首にかけた。


「だが、これは精霊の気配がするな。我にとってはあまり居心地のいいものではないぞ」

「別に死ぬわけじゃないんだからいいじゃないか」

「タマキ、貴様、最近我の扱いが悪くないか」

「全然悪くない。まあ、部屋の片付けを手伝うって言うんなら、少し考えてやってもいいよ」

「それは遠慮しておこう。旅に出るのだろう? さっさと済ませろ」

「わかったから黙ってろ」

「それじゃ環君、カレン、私はちょっと仕事があるから」

「ああ、はい。どうもありがとうございました」


 環とカレンは同時に頭を下げて葉子を送り出した。それから2人は黙々と部屋の整理を続けた。


 夜になると、片隅に箱が積み上げられている以外は、部屋の中はすっきりしていた。テーブルには夕食が並び、環とカレンは向かい合って座っていた。


「タマキ様、帰ってこないわけでもないのに、なぜここまで部屋を整理したのですか」

「いや、今度はけっこう長い旅になるわけだし、この部屋もだいぶ散らかってたからね。いい機会だから大掃除したんだよ」

「それはしっかり言っておかないと、もう帰らないものと勘違いされますよ」

「わかってるよ、明日になったらそうする」



 翌日、環はエバンスの私室に訪れていた。そこにはエバンスの他にも葉子、バーンズ、ハティスとミニックが集まっていた。ミラとソラは1ヶ月前に里帰りしていたのでこの場にはいなかった。そのなかで、まずはエバンスが口を開いた。


「昨日は1日中部屋を整理していたと聞いたが」

「まあ、長く空けることになるしね。いい機会だから綺麗にしとこうと思っただけだよ。帰ってきたらまた使わせてもらうからさ」

「そうか、必ず戻ってきてくれよ」


 エバンスは安心したように言って、手を差し出した。環はそれを握り返してから、まずハティスに顔を向けた。


「じゃあハティスさん、俺達がふっ飛ばしちゃった魔族の後始末はよろしく」

「そうだな。エリットとした本を書くという約束もあることだし、私も腰を据えようと思っている。君も達者でな」


 2人は握手をした。次はバーンズだった。


「旅の無事を願っています」

「バーンズさんのほうも元気で」

「旅先でミラやソラと会うことがあったら、私がよろしく言っていたと伝えてください」


 環はうなずいて手を差し出した。バーンズはその手を軽く握った。それからミニックの方に向いた。


「タマキ先生、こっちのことは心配しないで、ゆっくり旅をしてきてください。僕がしっかりやりますから」

「そうだな。頼んだよ」


 環は腰につけていたカード入れを外してミニックに手渡した。


「役に立つこともあるかもしれないし、持っておいてくれ」

「はい!」


 ミニックはそれを受け取ってから、環が差し出した手を握った。最後に環は葉子の方に向き直った。


「葉子さん、みんなのことをよろしく」

「ええ、環君も元気でね」


 環は葉子が差し出した手を握ってから1歩下がって全員の顔を見回した。


「それじゃあ、明日の出発の準備があるから、俺はこれで」


 そう言って環は足早に部屋から出て行った。その日の残りは明日の出発の準備に忙殺された。


 そして次の日の早朝。環とカレンにバーンズとミニックは城門の前で荷馬車に最後の荷物を積み込んでいた。


「これで全部かな」

「はい、今の荷物が最後です」


 環は荷馬車を眺めてから、カレンのことをよく見た。


「剣だけじゃなくて、鎧も新しくしたんだ」

「ええ、前の戦いでぼろぼろになってしまいましたから」


 カレンは真新しいレザーアーマーと腰の剣を見下ろした。レザーアーマーは今までのものと大した違いはなかったが、剣はより長く、重厚なものになっていた。一方、環も今までのブレザーではなく、革のジャケットを着ていた。


「そっか。それじゃ、そろそろ出発しよう」


 環は荷台に跳び乗った。カレンも御者台に上った。環はバーンズとミニック、そして城壁の上にいるエバンスと葉子に向かって手を振った。


「じゃあ、いってくるよ」

「先生! ご無事で!」


 ミニックだけが大声を出して環とカレンを送り出した。


 そして、数10分の間は2人とも無言だったが、街からだいぶ離れてからカレンが口を開いた。


「タマキ様、どこに向かいますか?」

「どこがいいかな。カレンはどこか行ってみたいところはないの?」

「私は特別行きたいというところはありません。タマキ様はどこか行ってみたいところはないのですか」

「どこか魔族が暴れているような場所に行くべきだろう」


 環はしゃべるアミュレットを握りしめて黙らせた。


「そうだなあ、とりあえず北のほうに行ってみたいな」

「わかりました。それでは行ける所まで行きましょう」

「そうしようか」


 荷馬車はゆっくりと、着実に道を進んだ。

当初考えていたところまで書けたので、完結ということになりました。個人的には短期間で書き上げられたという満足感があります。


読んで楽しんでもらえたならうれしいことです。

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