限界への挑戦
対峙するカレンとドゥームデーモンはまだ1歩も動いてはいなかった。だが、その間の空気は張り詰め、いつ何が起こっても不思議はない雰囲気だった。それを動かしたのはカレンだった。
カレンはその場の雰囲気とは対照的に、ゆっくりと歩き出した。それを見たドゥームデーモンもゆっくりと歩き出した。そして、2人は互いに手が届く距離まで到達すると、同時にその拳を突き出した。
拳同士が激突し、衝撃波が空間を満たした。その衝撃で双方とも後ずさったが、すぐに踏み込み、再び拳を激突させた。再び双方とも衝撃で後ずさったが、カレンは地面を蹴って跳ぶと、ドゥームデーモンに回し蹴りを叩き込んだ。
それはドゥームデーモンの腕に防がれた。ドゥームデーモンは蹴りの威力に少し押し込まれたが、それを強引にはねのけた。そして、間髪入れずに、空中のカレンに向かって踏み込んでまっすぐに蹴りを放った。カレンはそれを腕をクロスさせて受けたが、凄まじい勢いで後方に飛ばされた。
しかし、カレンは壁に足をつけ、そこを蹴ってドゥームデーモンに向かって飛んだ。その勢いのまま、右足を突き出し、強烈な蹴りを見舞った。それはドゥームデーモンの胸元に完全にきまり、その体を後方に吹き飛ばした。
ドゥームデーモンは地面に手をついて、その勢いを殺してから顔を上げた。
「いい攻撃だ。だが、まだ足りん!」
そこにカレンが一気に間合いを詰め、頭めがけて回し蹴りを放った。ドゥームデーモンはそれを後ろに飛び退いてかわして地面を蹴り、隙ができたカレンに向かって跳んだ。そして、そのままの勢いで頭突きをした。
カレンはそれをまともに受け、のけぞりながら数歩後ずさった。ドゥームデーモンは続けてカレンの腹に向けてパンチを放った。カレンはそれをまともにくらったが、こらえて体勢を立て直すと、その次の顔面に向けて放たれた拳は自分の腕で受け止めた。
ドゥームデーモンはすぐに腕を引くと同時に、カレンの腹に向かって正面から足を突き出した。カレンは後ろに跳んでその衝撃をやわらげた。いったん間合いをとった両者は、そのまま円を描くようにして歩き、互いの位置を入れ替えてから再び構えた。
ドゥームデーモンは素早く動き腕を振るったが、それはカレンに向かわず、飛んできた氷の牙を砕いた。
「余計な邪魔はするな」
ドゥームデーモンはロレンザを睨みつけてから手をゆっくりと引いた。カレンはその間、全く動こうともせずにその光景を黙って見ていた。
「もう一度余計なまねをしたら、貴様も我の敵だ」
ロレンザは一瞬口元に笑いを浮かべてから、深々と頭を下げた。ドゥームデーモンはそれを見ようともせず、すぐにカレンの方に向き直った。
何かを言おうとしたのかもしれないが、それは目の前に迫ったカレンの右の拳で遮られた。避けることはできず、拳が顔面を捉えた。さらに左の拳がきれいにその顔面に直撃した。ドゥームデーモンはぐらつかなかったが、その脇腹にカレンの右足が叩き込まれ、少し体勢を崩した。そこにカレンの左足が高く上がり、その頭の側面に迫った。ドゥームデーモンはなんとか下がりながら腕を上げ、その蹴りを防いだ。
攻撃を防がれたカレンは、すぐに後ろに下がって間合いをとろうとした。だが、ドゥームデーモンは体勢を完全に立て直そうとはせずに距離を詰めた。まず右の拳を振るってカレンを殴りつけると、さらに左の拳で腹を、再び右の拳を下から突き上げた。カレンは3発目をかわすと同時に、後ろ回し蹴りをドゥームデーモンの腹に決めた。
両者は距離をとって、動きを止めた。どちらもそれなりのダメージはあるようだったが、カレンのほうがそれは大きいようだった。だが、カレンは全くひるむことなく、ますます気合を充実させていた。それはドゥームデーモンも同じだった。
ドゥームデーモンは腰を落とすと、低い姿勢で地面を蹴った。カレンはそれを上空に飛んでかわしたが、ドゥームデーモンは素早く方向転換してすぐに追った。カレンは天井に手と足をつけて反転すると、勢いをつけてそれに向かった。
そのまま右膝を突き出し激しく激突したが、それはドゥームデーモンの腕に防がれていた。ドゥームデーモンはカレンの足をつかんで振り回し、地面に向かって投げつけた。カレンはぎりぎりで地面に激突するまえに体勢を立て直したが、そこに真上からドゥームデーモンが降ってきた。
「ガハッ!」
足がカレンのみぞおちを捉え、地面に押しつけた。ドゥームデーモンは再び上空に飛び上がり、今度は膝を落とそうとした。カレンは横に転がってなんとかそれを回避すると、膝をついて体を起こした。
そこにドゥームデーモンの回し蹴りが追い討ちをかけた。カレンはそれをなんとか腕で防御したが、その勢いを受け止めることは出来ず、地面を勢いよく転がった。カレンは体勢を立て直そうとせず、ただがむしゃらに上昇して、自らの背中を天井に叩きつける形で止まった。
それでもドゥームデーモンは追ってきたが、カレンの動きが予想外だったのか、ほんの少しだけ遅れた。カレンが両手を広げると、光がその手を覆った。そして、襲ってきた拳をわずかに頭を動かしてかわすと同時に、その両手をドゥームデーモンの胸に押しつけた。
「これで!」
カレンの声と同時にその手の光が炸裂し、ドゥームデーモンは地面に叩きつけられた。カレンはゆっくりと降下したが、地面に足がつくと同時に瞳と髪の色が元に戻り、その場に膝をついた。
そして、仰向けに地面に倒れているドゥームデーモンは動く様子がなかった。
ロレンザはそこに近づこうとしたが、素早く飛び退いた。その空間を水の刃が切り裂いていった。
「これはエバンス様、一体どういうおつもりですか?」
そう言ってロレンザはエバンスの方に顔を向けた。エバンスは剣を構えて立っていた。
「その2人に近づくことは許さん」
「残念ですが、あなたの力では私は止められませんよ」
「どうかな! 水よ! 我が剣に宿り邪悪なものを切り裂け!」
エバンスが剣を振るうと、そこから水の刃放たれ、ロレンザに向かって飛んだ。1発目は簡単にかわされたが、エバンスは剣を素早く振り続け、次々に水の刃を放った。
「こんなものでは」
ロレンザはかわし、打ち砕き、全くそれをよせつけなかったが、側面からバーンズが走りこんできた。
「覚悟!」
バーンズは真っ向から剣を打ち下ろしたが、ロレンザはそれを横に動いてかわした。
「同僚にひどい仕打ちですね」
ロレンザはバーンズに手を向けたが、そこに反対側から火の玉と氷の牙が襲いかかった。ロレンザはバーンズに向けていた手をそちらに向けると、魔法の盾を発生させてそれを打ち消した。
「大賢者様もですか。みなさん頑張りますね」
ロレンザは呆れたような表情で苦笑した。それからバーンズとハティスに手を向け、そこに火の玉を発生させた。だが、それは竜巻と雷によってかき消された。さらにそれを追うようにして輝く剣を持ったミラが高く跳び上がり、正面から渾身の力でそれを振り下ろした。
ロレンザはとっさに後ろに下がったが、その額とローブをミラの剣がわずかに切り裂いた。ミラは着地するとすぐに後ろに下がり、剣を構え直した。
「雑魚が邪魔をしてくれますね」
ロレンザはそう言ってから正面のミラに向けて手をかざした。
「まずはあなた達から片付けてあげましょう」