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魔王の器

 ロレンザがかざして右手から一条の光が走り、それが球体を照らした。光を浴びた球体はよりいっそう強く光りだした。


「あなたの言う魔王というのは、ここに封印された伝説の英雄の魂を使って、タマキ様を魔族にする、ということでしょうか」

「魔族?」


 ロレンザはカレンを馬鹿にするように笑った。


「ただの魔族ならば魔王などと言うわけがないでしょう。おとなしくして、その目で見ていれば答えはすぐにわかりますよ」

「そんなものは見たくもありませんね」


 カレンは眼鏡を外して、ショートソードを抜き放った。


「おやおや、あなたのことは前から冷静ぶってるだけだと思ってましたが、それは当たっていましたね。確かにここは戦うには十分な広さも強度もあるでしょうが、あなたは7人もの人間を守りながら戦えるつもりですか?」

「そうしなければならないのなら、そうするだけです」


 ショートソードを構えると、カレンはサロアと戦った時と同じように、右目は白銀、左目は黒い闇、そしてその2通りの光と翼という姿になった。ショートソードは片面ずつ光と闇に覆われていった。


「そんな力まで得ていたとは、言うだけのことはあるということでしょうかね」


 そう言ったロレンザに、カレンは躊躇なく斬りかかっていった。だが、ロレンザは落ち着いて環の体をつかむと、一瞬でその姿を闇に消した。そして、その姿はエバンス達が立っている反対側、球体の向こう側に現われた。光を発する右手は相変わらず球体に向けていた。


「残念なことですが、あなたの相手より先にすることがすることがありますからね」


 ロレンザは球体の反対側にいるエバンス達に向かって左手をかざすと、そこから雷が放たれた。バーンズがとっさに前に出ようとしたが、ハティスがそれよりも早く動いた。その手から魔法の盾が展開され、雷を防いだ。


「おや、がんばりますね。もう若くはないのですから、あまり無理はしないほうがいいですよ、大賢者さま」


 嘲るような調子で話しながら、ロレンザは雷の勢いを強めた。だが、ハティスは1歩も引かなかった。


「全てお前の思惑通りだったのか? 私が召喚の術を完成させたのも、それで呼び出したあの青年を魔族に堕としたのも、召喚の術を私がお前に教えたのも、そのために新たに勇者が呼び出されることになったのも!」

「細かいことを言えば、全てが思惑通りとは言えませんがね。まあそんなことは500年という歳月に比べれば大したことではありませんでしたよ」


 そこにカレンが上空から斬りかかったが、ロレンザは左手をその方向に向け、魔法の盾でその一撃を受け止めた。


「今の勇者は魔法の威力を限界以上に高める方法を編み出しましたね。私も、使わせてもらいましょうか。20倍、バースト」


 左手の魔法の盾が爆発に変わり、カレンは吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。その余波で、ハティス達も入口付近まで飛ばされた。ロレンザはそれを確認すると、両手を球体に向けた。


「さて、そろそろ始めましょう」


 かかげられた両手から、今までよりも強烈な光が発せられた。それを浴びた球体の面が、徐々にほころび始め、そこからどす黒いなにかがのぞいた。カレンはすでに立ち上がっていて、それを止めようとしたが、球体が発している何かに遮られ、ロレンザに近寄ることができなかった。


 そうしている間にも、球体の中にあったどす黒いものは徐々にその外に出てきていた。それは球体の外に完全に出ると、不定形で実体があるかどうかもわからない、なんとも形容しがたいものとして空中に存在していた。


 ロレンザはそれを恍惚とした表情で見つめながら、両手を高々と上げた。


「破滅を司る悪魔、ドゥームデーモンよ。この破滅の力に染まった強き魂を喰らい、力とするのだ!」


 両手の間に闇が広がり、そこから実体のない霧のような存在が現われた。そして球体から出たどす黒いものに向かい、それを取り込み、まるで全てを飲み込む虚無のようになった。


「さあ、ここにある強き肉体を捧げよう! 今こそ、この世界にその持てる力の全てと共に姿を現せ!」


 虚無のようなものは環の体に入り込んでいった。その体はわずかに震えただけで、それを受け入れた。


 数秒の間の後、環の目は開かれ、その体が動き出した。カレンは無理にロレンザに近づこうとするのをやめ、それをじっと見ていた。


 環は自分の手を見つめ、その体を一通り確認してから口を開いた。


「不完全とは言え、一度は我を打ち破ったこの肉体、悪くない」


 その声も、立ち振る舞いも、すでに環のものではなかった。カレンは感情を押し殺し、それに向かって歩き出した。今度は何にも阻まれず、球体の脇に立ち、ロレンザと環だったものと対峙した。


「1度は倒された悪魔を呼び出すとは、どういうつもりでしょうか」

「倒された? 実におめでたいことですね。あの程度の器では本来の力の10分の1も出せているかどうか怪しいというのに」


 ロレンザは薄ら笑いでそれだけ言うと、音もなく後ろに下がっていった。


「まあ、見せてもらいましょうか。カレン、あなたの力を」


 そして、そこには環の姿をしたドゥームデーモンとカレンが残された。カレンは剣をドゥームデーモンには向けずに、ただその姿を睨みつけた。


「貴様と戦ったのは少し前だったが、その時よりも力をつけているようだな」


 ドゥームデーモンは1歩、カレンに向かって足を踏み出した。カレンもそれに応じるように1歩踏み出し、剣を構えた。


「始める前に言っておきます。タマキ様の体からすぐに出て行きなさい、あなたのようなものが好きにしていい体ではありませんよ」


 ドゥームデーモンはそれに対して、ただ笑った。


「それならば、貴様の力でやってみせろ」


 そして地面を蹴って跳んだ。凄まじい勢いでカレンに迫り、すれ違いざまに無造作に腕を振るった。カレンはそれをなんとか剣で受けたが、その力に体勢を崩された。ドゥームデーモンはそのまま壁まで到達すると、そこを蹴って今度は背後から襲いかかった。カレンは体勢を崩しながらもなんとかその方向に体の向きを変え、勢いのまま繰り出された蹴りを剣で受け、逸らそうとした。


 だが、剣は砕かれ、ドゥームデーモンの蹴りがカレンの肩をかすった。カレンはわずかによろめいたが、すぐに振り返った。しゃがんだ状態で地面に着地したドゥームデーモンは、ゆっくりと振り返りながら立ち上がり、自分の体を確認するように見まわした。


「この世界でこれほどの力が使えるとはな」それから、カレンに目を移した。「貴様の力も大したものだな。今のをしのげるとは思っていなかったぞ。だが、次はない」


 カレンは中ほどから砕かれたショートソードを投げ捨てた。


「次、ですか。残念ですが、それでは終わらせませんし、あなたをそのままにもしません」


 カレンは手を自分の胸の前で組んだ。その瞬間、そこを中心として光と衝撃がほとばしった。そして、それが止むと、そこには両方の瞳と翼を白銀に輝かせ、髪の毛もそれと同じ色に変わったカレンが立っていた。


「ほう、面白い」ドゥームデーモンはにやりと笑った。「しかし、それは貴様にもかなりの負担があるだろう。なんのためにそこまでする?」

「私は私の望みをかなえるために戦うだけです」カレンは微笑を浮かべた。「タマキ様、これが終わったら、今度は目的のない旅でも始めましょう」

「そのようなこと、どうせこの男には聞こえていないぞ」

「いいえ、そうではないことをこれから教えてあげましょう」


 カレンとドゥームデーモンの間の緊張が一気に高まった。

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