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王国への帰還

 カレンはぼんやりと目を覚ました。どうやら馬車の中に寝かされているというのはわかった。体を起こそうとしたが、背中に痛みが走り、中途半端なところで止まってしまった。


「よかった、目が覚めたんですね」


 嬉しそうなミラの声がして、カレンの背中はその手で支えられた。カレンはそれに助けられて体を起こした。


「あれから町はどうなりました」

「ばっちり守りぬきました。バーンズさん達が応援に駆けつけてくれたので楽勝でしたよ。それにカレン師匠が魔族を倒してくれたんですよね、あれ以上魔物が湧いてくることもありませんでした」

「それではこの馬車は」

「バーンズさん達が乗ってきたものです。今はノーデルシア王国に向かっています」

「そうですか」


 そう言ってカレンは目を閉じた。


「時間は、どれくらい経っていますか」

「あれから2日です」

「やはり、あれはすこし無理があったようですね」


 カレンは頭に手を当てながらそうつぶやくと、座りなおして馬車の中を見まわした。装備一式は綺麗にまとめられていた。


「とりあえず私の装備を取ってもらえますか」

「はい」


 ミラが持ってきた鎧を、座ったまま器用に身に着け、ベルトのナイフやショートソード、ダガーをそれぞれ自分の前に広げて、確認してから装着していった。全てを身に着けると、カレンは少し背筋を伸ばした。


「ところで、ハティス様は一緒ですか」

「ええ、一緒です。ずっと図書館にこもってたおかげで、例の結界に関して何か見つけたみたいですけど」

「それは話を聞かせていただかなくてはいけませんね。今日の夜にでも聞きにいきましょうか」

「でも、体は大丈夫なんですか?」

「まだ戦えるほどではありませんが、大丈夫ですよ」

「わかりました。それじゃ、私はみんなにカレン師匠の目が覚めたことを知らせてきます」


 ミラはそう言って勢いよく馬車から飛び出して行った。カレンは足を崩して楽な姿勢をとった。


「失礼します」


 そのまましばらくしてから、バーンズが馬車に入ってきた。バーンズはカレンの様子をざっと見てから、安心したような表情を浮かべて、馬車の中に腰を下ろした。


「もう鎧を身につけていられるほど回復したんですか」

「私の鎧は軽いものですからね。それよりも、なぜバーンズ様達が増援に来たのでしょうか? 報せを受けてから出発したのでは、これほど早く到着することは出来なかったと思いますが」

「それは、エバンス様と葉子様が精霊から知の都の危機を知らされたのです」

「精霊からですか。ソラも精霊使いですから、そのおかげかもしれませんね」

「ええ、ですが、大規模に軍を動かすのは時間的にも政治的にも難しいことだったので、一番足の速い私の切り込み隊だけを率いて来たんです」

「そうですか。しかし、バーンズ様に来ていただいて助かりました。出来るだけ早く戻らなくてはいけませんから」

「勇者様のことですね、話はミラ達から大体聞いています。伝説の英雄の魂とは、にわかには信じがたいことですが」

「間違っていればいいとは思いますが、そうでない可能性も高いと思います。そうだった場合、何が出来るかはわかりませんが、全力を尽くす覚悟だけはしておかなくてはいけません」


 バーンズはカレンの言葉に深くうなずいた。


「そうですね。カレン殿は到着までゆっくりと体を休めていてください、雑事は全て我々が引き受けますよ」

「ありがとうございます」


 カレンが頭を下げると、バーンズは馬車から降りていった。



 それから4日後の夜、ノーデルシア王国まであと1日という距離まで到達していた。すでに動き回るのに支障がなくなっていたカレンは、焚火の前で自分の武器の手入れをしていた。その向かい側にはハティスが目を閉じて座っていた。


「いよいよ明日ですね」


 そこにミラとソラがやってきてカレンの隣に座った。


「ええ、何があるかわかりませんから、2人ともしっかり準備をしておいたほうがいいですよ」


 ミラはカレンの言葉に胸を張った。


「それなら心配いりません。何があろうとばっちり対応してみせますよ」

「僕も、できるだけのことはします」

「もちろん僕もそうしますよ」


 ミニックも2人の後ろから顔を出したそう言った。カレンはそれを見てわずかに微笑んだ。


「頼りにしていますよ」


 それからカレンは武器をしまって、ハティスに顔を向けた。


「ハティス様、あれから何か新たにわかったことがあるなら、教えていただけませんか」


 ハティスは目を開けてカレンを見ると、ため息をついた。


「大したことがわかったわけではないのだよ。だが、重要なことではある。あの結界は500年程度では、その力を失うわけがないのだ」

「つまり、誰かが意図的に結界の力を弱めている、ということですか」

「その通りだ」

「ハティス様以外にも結界の存在に気がついた者がいるのか、それとも、最初からそのことを知っていたのか」

「ちょっと待ってください」ミニックが口を挟んだ。「最初って500年前でしょ? それを最初から知ってるなんていったら」

「少なくとも人間ではありませんね」


 全員が黙り込んだが、答えはわかっていた。ミラが体を伸ばしてから軽い調子で口を開いた。


「まーた魔族ですか。しつこい上に懲りない連中ですね」



 そして深夜、カレンは静かに馬車から出ると、ハティスが休んでいる馬車に向かった。ハティスは馬車の中ではなく、少し離れた焚火の前に座っていた。カレンはその隣に腰を下ろした。



「少し聞かせていただきたいことがあるのですが」


 ハティスは黙ってうなずいた。


「ハティス様がしてきた、伝説の英雄の研究について、その詳しいことを教えていただけないでしょうか?」


 数分間、ハティスは何も言わなかったが、おもむろにその重い口を開いた。


「そう、私はずっと伝説の英雄という存在の研究をしてきた。そして、その存在がこの世界のものではないという確信を持った」

「タマキ様のように召喚された者だったということですか」

「いいや、違う。おそらくは、ただ迷い込んできたのだ。なぜなら、異世界からの召喚の術を作り出したのはその英雄だからだ。そして、それを現代に復活させたのが、私だ」


 カレンは黙ったまま続きを待った。


「6年前、お前と別れた後、私は1人の青年を異世界から召喚した。いい青年だったが、彼は魔族に魅入られてしまった。そして彼は人間にとって脅威となる存在になった」

「それが闇王ですか。しかし、なぜ召喚などということを」

「あの頃から魔族の脅威は存在していた。しかし何より、私は英雄をこの目で見たかったのだ」

「身勝手なこととは、思わなかったのですか」


 静かだがわずかに怒りをにじませたカレンの言葉に、ハティスは疲れたような表情を浮かべた。


「わかっている、今はよくわかっている。だから私は召喚の術はそれ以降使わなかった。だが、闇王に対抗する手段として、その術をある人物に託した」

「私の力だけでは魔族に対抗できなくなった時のための備えというわけですね。そして、その術を託されたのが、ノーデルシア王国の賢者と呼ばれるロレンザ様ということですか」

「そういうことだ」


 そう言うとハティスは口を閉ざした。カレンはしばらくしてから立ち上がった。


「最後にもう1つ聞かせていただきたいことがあります。今回タマキ様やヨウコ様が召喚されたのと、城の封印の力が弱まったことは関係があるとお考えですか?」

「それはわからないのだ。だが、もし関係があるとしたら、全てのことは魔族が裏で手をひいていたのかもしれないな」


 カレンはそれには答えず、黙ってその場を立ち去った。

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