激突
翌日、今までよりもずっと多くの魔物が姿を現し始めた。
「この様子では、今日が山場のようですね」カレンはそう言いながら眼鏡を外した。「私は決着をつけに行きます。ここは頼みましたよ」
「まかせといてください!」
ミラは大きな声で返事をした。
「でも、例の魔族がどこにいるんでしょうか」
ソラは不安そうに疑問を口にした。カレンは魔物達から目を離さず、それに答えた。
「あれだけの数です、一気に攻勢に出てくるつもりでしょう。おそらく、あの魔族は後ろでそれを見ていますね」
「そうだとすると、あの中を突破していくんですか? カレン師匠ならあんなもの上から飛んで行けるんじゃありませんか?」
「私の力はあまり見せびらかすものではありません。それに、魔物を放っておくわけにもいきません。正面から突破して、出来る限り倒していきますよ」
「いや、まずは僕達が道を作りますよ」ミニックは静かに言った。「あれだけの数です、ある程度中に入っていけば、ここからは見えません。そうすればカレンさんも思う存分力を使えるでしょう。それが一番早く、力を消耗することもなく、魔族のところにたどりつく方法だと思います」
「それはいい考えだと思うよ。カレン師匠、それでいきましょう」
ソラはそう言ってカレンを見た。
「わかりました。3人とも、頼みましたよ」
カレンはその計画を話すため、司令官のいる場所に向かった。
そして1時間後、魔物達は町に向かって動き出した。カレン達4人は、展開する軍隊の前に立っていた。
「さて、それじゃあ僕の魔法でもおみまいしてやろうかな」
「ミニック、ちょっと待った。戦いは長引くかもしれないんだから、ちゃんと魔力は残しときなさいよ」
「わかってますよミラ先輩。ソラ、君と一緒にやったほうがよさそうだよ」
「そうだね。準備はいいかい」
「もちろん。すぐに始めようか」
ミニックは右手を前方に差し出した。
「ファイアウォール!」
声と共に右手を地面に叩きつけると、そこから炎の壁がミニックの前に出現した。ソラは杖を地面に突き立てた。
「風よ、炎をまとい魔物達を貫け!」
渦をまいた風が炎の壁にぶつかり、それをまとって魔物達に向かっていった。魔物達にまでその炎の風が到達すると、その風の進行方向にいる魔物は次々に炎に飲み込まれていき、綺麗に直線の空間を作っていった。
「よし! 行きましょう!」
ミラはカレンを先導するようにして、その空間に向かって走った。空間を塞ごうと動く魔物を剣で切りつけ、カレンの進む道を確保していった。
「ここまでで十分です、あなたは戻りなさい」
ある程度進み、すでに入ってきた空間が塞がれてからカレンはミラに並んでそう言った。ミラはうなずくと、方向転換をして来た道を戻り始めた。
「邪魔だ邪魔だ邪魔だあ!」
剣を振り回し、叫びながらミラは走った。その横を炎の風が通り過ぎた。
「姉さん! こっちだ!」
ミラはわずかに走る方向を変え、その新しく作られた道を走った。魔物の中からもう少しで抜けられそうなところまで来たが、その前を2体の魔物が左右から塞いだ。
「お前らも、邪魔だあ!」
ミラの剣がひときわ強い輝きを放ち、その魔物達はあっさりと切り捨てられた。ミラは元いた位置に戻り、さらにソラとミニックと一緒に軍隊が展開している位置まで下がった。
「カレン師匠、必ず戻ってきてくださいよ」
ミラがそういうと同時に魔物達の中で何かが起こり、大量の魔物が盛大に吹っ飛んだ。それを合図とするように、ゆっくりと迫っていた魔物達は、一気にスピードを上げて突進してきた。
軍隊と魔物達は激突し、激しい戦いが始まった。しばらくの間、一進一退の攻防が続いたが、突然魔物達が崩れ始めた。
「あれは! あの軍はなんだ!」
誰かがそう叫び、ミラがその方向を見ると、魔物達の横から数100の軍勢が突撃しているのが見えた。
「我らはノーデルシア王国軍だ! 王の命により助勢に参上した!」
大きな声で叫んだ先頭の騎士は全身を重厚な鎧で包み、大剣を振るうバーンズだった。魔物達は次々とその大剣の前に散っていった。
「増援だ! 一気に押し返すぞ!」
司令官はそう叫び、兵士達もそれに答えるように雄叫びを上げ、魔物達を押し返し始めた。
カレンは金色の瞳を光らせ、魔物達を一気に突破していた。そして、人も魔物も見当たらない、町からだいぶ離れたひらけた場所まで到達してから、上空を見上げた。
「そろそろ姿を現してはどうです? ここならば、邪魔も入らず、思う存分戦えますよ」
カレンの声に反応するように上空に闇が出現し、その中からサロアが姿を現した。
「気づいてたのかよ。それならもっと早く声をかけて欲しいもんだぜ」
「気を使って差し上げたんですよ。今度はしっかりと決着がつけられるように」
暗黒の剣を構え、カレンはサロアの姿をじっと見た。
「お熱い視線をありがとうよ。それじゃ、始めようか」
サロアはその右腕を炎に変え、それをカレンに向けて振り下ろした。その軌道から数発の火の玉が飛んだ。カレンは地面を蹴って飛び、それを暗黒の剣で斬りながらサロアに迫り、真っ向から暗黒の剣を叩きつけた。
サロアはそれを地面に急降下してかわしたが、カレンもすぐにその後を追った。カレンはそのままの勢いで、サロアを斬ろうとしたが、そこに炎の右腕が横殴りに襲ってきた。なんとかそれを暗黒の剣で受けたが、カレンの体は衝撃で横に吹き飛ばされた。そのまま地面に激突しそうになったが、体勢を立て直した着地した。
「いいねえ。この間より気合が入ってるぞ。でもなあ、それじゃまだ俺には勝てねえぞ」
「そうでしょうね。しかしご心配なく、あなたを片付ける方法くらい考えてありますから」
サロアは本当に楽しそうに笑った。
「なら、それをさっさと見せてもらおうか!」
サロアは左手をカレンに向かってかざし、そこから炎を噴き出させた。カレンは暗黒の剣を闇の塊に変化させ、それを振るった。衝撃波で炎の軌道が歪み、その小さな隙間をかいくぐってカレンは突進した。
サロアは右腕を振り下ろしたが、それは再び変化した暗黒の剣に止められた。カレンはそれを跳ね上げると同時に、サロアの腹に思い切り蹴りを入れた。
「ぐぅがぁっ!」
うめき声を上げてサロアは吹っ飛び、そのまま地面を転がり、うつぶせに止まった。カレンはそれに向かって闇をまとわせたナイフを投げつけた。だが、倒れていたサロアはそれを左手でしっかりと掴み、ゆっくりと立ち上がった。
「今のはけっこう効いたぜ。いよいよ俺も本気を出さないとな」
サロアは両手を広げた。炎となっていた右手が一度元に戻り、その全身から爆発的に炎が噴き出した。それが収まると、その体の全てを炎としたサロアが立っていた。
「こいつが俺の本気だ。あんたの本気も見せてもらおうか」
「いいでしょう」
カレンは構えていた暗黒の剣を下げ、目を閉じた。
「タマキ様、私に力を」
そうつぶやき、鎧の中にしまっていたアミュレットを取り出し、それを握り締めた。
まず闇の翼の右側の片方が消し飛び、そこに闇の翼と同じ形の、光でできた翼が現われた。暗黒の剣は、その刀身の半分を光が覆っていき、片面が闇、片面が光の剣となった。
そして、カレンの開かれた右目は白銀に輝き、左目は黒く、飲み込まれそうな闇の色になっていた。
「決着を、つけましょうか」
カレンは闇と光の剣を構えた。