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炎の魔族

 カレンとサロアはお互いに剣を構え、しばらく睨みあっていた。先に動き出したサロアがゆっくりと剣を振り上げると、それは炎に包まれた。それが振り下ろされると炎が剣から伸び、まるで炎の鞭のようにカレンに襲いかかった。


 カレンはそれを横に飛んで避けたが、サロアが腕を動かすと、その炎はすぐにカレンを追ってきた。それも上空に飛び上がってかわしたが、炎もそれを追ってきた。そのまま空中で炎をかわしつづけながら、徐々にサロアとの距離を詰めていった。


「すばしっこいやつだな。それじゃ、こいつはどうだ」


 今までの単純に剣を振る動作から、剣で空に円を描く動作に変わった。剣から伸びる炎はおさまったが、空中には次々に剣で描かれた円状の炎が出現した。カレンはそれにかまわず、サロアに向かって急降下していった。


「そうやって直線的にくるのはいいねえ、俺も楽しくなってくるよ」


 サロアは余裕の笑みを浮かべてから、自分の作り出した円状の炎の1つを切り裂いた。それは人の頭ほどのサイズの火の玉に分裂すると大きく広がり、カレンに向かって飛んだ。


 カレン軌道を垂直に変えそれを回避すると、地面に激突する寸前でさらに水平に軌道を変えてサロアに向かった。それに対してサロアはもう1つ、円状の炎を剣で切り裂いた。広がった火の玉がカレンに集中していったが、今度はカレンはよけようとはせず、暗黒の剣を巨大な闇の塊に変えると、それを一閃した。


 衝撃波が火の玉を爆発させ、カレンはその中に突っ込んだ。サロアは残りの円状の炎と共に飛び上がった。次の瞬間にはサロアの立っていた場所は闇の塊でえぐられていた。そこにサロアが2つの円状の炎を切り裂いた火の玉が殺到し、カレンは爆発に包まれた。


 爆発が収まると、そこには闇の塊を振り切った姿勢のカレンが無傷で立っていた。着地したサロアはそれを見て満足気に笑った。


「そいつの衝撃波で炎と爆発を吹き飛ばしたか。いいねえ、もっと頼むぜ!」


 楽しそうに言うサロアをカレンは冷ややかに眺めた。


「どうもあなたの狙いがわかりませんね、私達を殺しに来たのでしょう。本気できたらどうです?」

「俺はそんなことはどうでもいいんだよ。ただ楽しめればいい、戦ってその感覚を味わえればそれでいい」


 カレンはため息をついた。


「ただの変態ですか。何か情報でも得られればと思いましたが、これでは期待できませんね」

「いーや、俺のほうは期待した通りだ」


 サロアのその一言が合図になり、2人の間に殺気がみなぎった。サロアは残った円状の炎を全て切り裂き、自分の目の前に100を越える火の玉を作り出した。サロアが剣をカレンに向けると、それは大きく広がりながら動き出し、カレンを全方位から包囲した。


「さて、こいつはどうする?」


 そう言ってサロアは剣を炎で包み、それを後ろに引いた。その剣が振るわれると、炎が伸び、さらに空中の火の玉も一斉にカレンに向かった。だが、カレンはその場から動かず、落ち着いて剣の動きだけを見ていた。


 火の玉が炸裂し、炎の鞭がカレンの立っていた場所を薙いだ。しかし、その中からサロアに向かって氷をまとったナイフが飛び出してきた。サロアはそれを剣で弾いたが、それを追ってカレンが炎の中から飛び出し、暗黒の剣を振り下ろした。サロアはそれを後ろに飛び退いてかわしながら、炎で包まれた剣を横に薙いだ。


 カレンはそれを身をかがめてかわし、飛び退いたサロアに向かって暗黒の剣を下段から振り上げた。それはサロアをかすめ、わずかにその額を切り裂いた。さらに暗黒の剣が袈裟切りに振り下ろされたが、それはサロアの右手の剣に受け流された。


 サロアは左手をカレンに向けて伸ばし、そこから炎が噴出した。カレンはとっさに上に飛んだが、炎はそれを捉えた。カレンは炎に包まれたように見えたが、そのまま上昇して炎から逃れると無傷だった。そして、その手にあった1枚のカードが光になって消えた。


「そのカードは、町で使ったやつ以外にもあったのか。おもしろいおもちゃだな」


 それからサロアは自分の剣をよく確かめて舌打ちをした。


「こいつは結構気に入ってたんだが、これじゃ使い物になんねえな」


 そう言って剣を投げ捨てた。カレンは用心深く、十分に距離をとった位置に着地して構えた。サロアは左手を右肩に添え、そのまま指先までその手を滑らせた。それと同時に右腕は炎に包まれていき、腕そのものも炎に変わり、3倍ほどの長さになっていった。


「いくぜえ!」


 サロアは地面を蹴り、炎となった右腕を真上から振り下ろした。カレンはそれを横に避けながら、暗黒の剣でそれを切り上げた。右腕と暗黒の剣は激しくぶつかり、カレンはすぐに暗黒の剣を引いて横に跳んで距離をとった。サロアはそれを見てにやりと笑った。


「重いだろ。俺の炎は熱くて重いんだよ!」


 今度は右腕を横薙ぎにカレンに向かって打ちつけていった。カレンはそれを暗黒の剣で受けたが、衝撃で後ろに飛ばされた。サロアはそれを追って、さらに逆方向から右腕を振るった。


 カレンはそれを上空に飛び上がってかわしたが、炎はすぐに追ってきた。さらに上昇してそれもかわしたが、サロアは左手をカレンに向けた。


「逃がしゃしないぜ!」


 その左手から、人間1人を飲み込めそうな火の玉が放たれた。カレンは上昇を止め、それに向かって一気に急降下した。そしてその火の玉に暗黒の剣を振り下ろした。


 火の玉はまっぷたつに割れ、カレンはその間を通ってサロアに迫り、再び渾身の力を込めて暗黒の剣を振り下ろした。


 だが、カレンの体はサロアの右腕に弾き飛ばされていた。地面に叩きつけられたカレンに向かって、サロアはさらに左手から無数の小さな火の玉を放った。カレンは倒れた状態で暗黒の剣を巨大な闇の塊に変化させると、その体勢のまま、なんとかそれを振るった。


 火の玉の爆発が終わると、そこには致命傷はないものの、傷ついたカレンが倒れたままの体勢でいた。カレンはなんとか膝をついて立ち上がろうとしたが、サロアはそれにゆっくりと近づき、右腕を振り上げた。


「なかなか楽しかったぜ」


 右腕を振り下ろそうとしたサロアの背後から、雷の矢と氷の牙が襲いかかった。サロアはそれをまともに受けたが、倒れもふらつきもせず、無造作に振り返った。そこにはハティスが立っていた。


「ちっ、興醒めだな」


 そう言ってサロアは右腕を炎から普通の腕に変え、カレンのほうに向き直った。


「お前との決着は次の機会だ。それじゃあな」


 それだけ言って、サロアは飛び去っていった。ハティスはそれを確認すると、すぐにカレンに歩み寄った。


「大丈夫か」


 元の瞳に戻ったカレンは自力で立ち上がった。


「はい、大丈夫です。それよりお話があるのですが」

「わかった。それより少しじっとしていなさい」


 ハティスがカレンに手をかざすと、カレンの傷が治っていった。そこにミラ達3人が駆けつけてきた。


「カレン師匠、さっきの怪しい男は」

「今回は見逃されたようですが、おそらく近いうちにまた会うことになるでしょう。その時は決着をつけなければいけません」


 厳しい表情のカレンに、ミラ達も顔を引き締めた。ハティスはしばらくその様子を見ていたが、おもむろに口を開いた。


「カレン、私に話があるのだろう。家は近いからそこで話を聞こう」

「はい、お願いします」


 カレンはショートソードを収め、歩き出したハティスに続いた。

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