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魔女

「いい加減にすっこんでろ!」


 環は気合と共にスケルトンに蹴りをいれた。ストーンスキンで強化された蹴りは易々とスケルトンを粉砕した。すでにかなりの数のスケルトンを倒していたが、まだ魔女のいる場所には到達できなかった。


「バースト!」


 間髪入れずに後方のスケルトンを振り向きざまのバーストで吹き飛ばす。それでもスケルトンは限りがないように思えるほど湧いてくる。


「魔女とかいうのを見つけなきゃ、きりがないか」


 環は腰を落として足に魔力を集中させた。


「一気に跳んでやる! バーストォ!」


 環は爆発の勢いで跳んだ。上空から見渡すと、はるか後方にスケルトンの密度が高い場所があるのが確認できた。


「あそこか」


 そして着地というか、墜落すると、すぐに体勢を立て直して再び跳んだ。何回かの跳躍でやっと目指していた場所に到達できた。


「魔女さんよ、ちょっと顔を見せてもらいたいんだけどな」環はスケルトンの固まりに手をかざした。「バースト!」


 スケルトンは吹き飛び、そこには魔女と思しき人物が残された。それほど環と年齢が離れているとは思えない、軽装の鎧に身を包んだ女だった。


「お前が魔女か。できればこの骸骨連中を連れて退いてもらいたいんだけどな」


 魔女は環の言葉に、顔だけは動かしたが目は空ろで何の反応もなかった。ただ手を上げると、吹き飛ばされたスケルトンの穴を埋めるように新しいスケルトンが集まってきた。


「話は聞かないか。それならその気になるまでつきあってやるよ!」


 地面を蹴って魔女に向かって突っ込む環。スケルトンは次々に襲いかかってくるが、それは次々に殴り飛ばされていった。しかしそれだけでは追いつかず、環にはびっしりとスケルトンが張り付いた。しかしその口は笑みを浮かべた。


「まとめて弾け飛べぇぇぇぇぇ! バァァァストォォォォ!」


 それまでとは比較にならない強烈な爆発がスケルトンを吹き飛ばした。魔女は何かの手段でそれを防いだのか、まったくの無傷だった。


「勇者か、お前の名は?」


 相変わらずの空ろな目で魔女は環に問いかけた。


「やっと口をきいたか」環はほっとしたような表情になった。「おれは高崎環。こことは違う世界から来た。あんたは何者だ?」

「わたし? わたしは」魔女は顔をしかめて額に手を当てた。「わたしは魔女だ」

「俺が聞いているのはそんなことじゃない! あんたが何者でなんて名前かだ!」

「何者? 名前? わからない。お前はタマキか、勇者タマキ」

「俺のじゃない、あんたの名前だよ。思い出せないとでもいうのか?」

「思い出す?」

「最初から魔女なんてもんじゃないだろ、それを思い出せって言ってるんだよ」

「いいかげんに、黙れ」


 魔女は押し殺した低い声で言うと、環に手を向けた。それと同時に凄まじい衝撃波が環に襲いかかった。


 環はその衝撃波を腕をクロスさせて受け止めた。


「話はちゃんと」じりじりと衝撃波によって環の体が押されていった。「最後までするもんだぜ!」


 腕を開くと同時に気合と魔力を一気に放出し、衝撃波を吹き飛ばした。


「まったく、そっちがその気なら話す気になるまで付き合ってやろうじゃないかって、おっと!」


 魔女はいつの間にか環の目の前まで迫り、再び衝撃波を放とうと腕を突き出した。環もそれに大して腕を突き出し叫んだ。


「バースト!」


 衝撃波と爆発が互いに相殺しあった。環はすぐに蹴りを繰り出したが、魔女はそれを一歩後ろに下がってかわした。そして腕を空に突き上げた。


「スケルトン、集え」


 その声に応えて、スケルトン達が一斉に魔女の背後に集まるように動き出した。


「贄をささげる」


 闇としか形容しようがないものが現われ、次々に集まるスケルトンを吸い込むように飲み込んでいった。最後に魔女もその闇に飛び込んでいった。しかし、環がバーストの爆発で跳び、それを阻止した。


 環に抱えられた魔女に、初めて表情らしいものが浮かんだ。それは怒りだった。


「放せ、これでは召喚が完成しない」

「そんなもん知るかよ。あんた人間なんだろ、あんなわけのわからんものに飲みこませるわけにはいかないな」

「放せと言っているんだ」

「うおっ!」


 着地すると同時に、魔女の衝撃波で環は吹き飛ばされた。魔女は全てのスケルトンを飲み込んだ闇に走り出したが、闇はどんどん小さくなっていった。


「やめとけ、間に合わない」


 環は立ち上がりながらそう言った。その通りに闇は魔女を飲み込むことなく消えた。


「これで防げたと思うな」


 魔女は闇があった場所に手を置いた。


「闇の力よ、贄に捧げた魂を喰らえ。そして魂の代価を今ここに現せ」


 地響きと共に再び闇が地面に広がり、そこから巨大なスケルトンの頭部が現われ始めた。


「おいおい、骸骨飲み込んで巨大化とか、勘弁してもらいたいな」


 ウンザリしたような様子で呆れながら環はその光景を見つめた。頭、肩、胸、腰、足と巨大スケルトンはその姿を現していった。


「こいつは20メートルはありそうだな、魔女さんよ」

「不完全だが、貴様をつぶすには十分だ」


 魔女が環に向かって腕を振り下ろすと、巨大スケルトンは動き出した。図体のわりに早い動きで環に迫り、踏み潰そうと足を上げた。環はそれを正面から受け止めた。


「ぐっ、さすがに重いな」環は今にも潰されそうに関わらずにやりと笑った。「ちょっと試してみるか」


 環は目をつぶって小さな声でつぶやき始めた。


「魔力は力だ。その力の流れをうまく体の中でコントロールすることができれば、それを自分の力として使うこともできるはず」


 スケルトンの足が完全に止まり、逆に押し返され始めた。


「おおおおおおおおおおおお!」


 気合と共に一気にスケルトンが押し返された。


「一気に潰すぜ! バースト!」


 環は爆発を利用して一気に飛び上がり巨大スケルトンの顔面を殴りつけた。その巨体が揺らぎ、ゆっくりと倒れていった。環は着地するとすぐにその倒れる影に入り、両手をかざした。


「砕け散れ! バアアアアアアストオオオオオ!」


 環に向かって倒れこんだ巨大スケルトンは、爆発で粉々に砕け散った。あっという間のできごとに、魔女は何もできずに見ているだけだった。


「さて、どうする魔女さん。あんたのペットは片付けたぜ。そろそろ名前を聞かせてもらおうか」

「いいかげんに、しろ!」


 魔女は激昂して環に襲いかかってきた。環はそれをいなしながら楽しそうにしていた。


「だいぶ人間らしくなってきたな。その調子でもっと頼むよ」


 魔女の衝撃波をかわしながら、環は間合いを詰めていった。そして魔女の顔の前に手を突きつけた。


「このまま消し飛ばされたいか?」


 一瞬魔女の顔に恐怖が浮かんだのを環は見逃さなかった。手を引っ込めて環は魔女と距離をとった。


「怖がることができるんなら応えてもらいたいね。あんたは何者なのか、なんで魔女なんて呼ばれてるのか」

「なぜ、そんなことを、聞く?」

「なぜって? 勘だよ。どうもあんたには何かありそうな気がしてしょうがない。ひょっとしたら、あんたにもわからないことなのかもしれないけどな」

「わからない」魔女は頭を押さえてうめいた。「わからないわからないわからない!」


 苦しむ魔女を環は黙って見ていた。魔女はしばらく苦しんでいたが、膝をついて肩で息をすると、すっかり乱れた顔で環をにらみつけた。


「貴様だ、貴様がいるからわたしが苦しむんだ」

「かもしれない。でも俺がいなかったらあんたはもっと多くの人を苦しめてたんだろうな。それよりはましだろう」

「人を苦しめる? 違う、わたしは違う。そんなこと望んでいない、いなかったはず」魔女はいきなり立ち上がって叫んだ。「ああああああああああああああああああああああああああ!」


 魔女は取り乱して環に向かってただまっすぐに走った。環はそれに指を向けた。


「しばらく眠ってもらう」

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