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刺客

 ジョアンと一緒にミラとソラが宿に戻った時には、すでに日は落ちかけていた。カレンは相変わらず1階で座っていたが、すでに地図ではなく、目の前のテーブルには夕食が置かれていた。


「カレン師匠! 驚いたことに」

「前の隊商がいたんですか」


 その一言にミラはがっくりした。


「知ってたんですか」

「ええ、護衛をやっていた2人に会いましたから」

「そうだったんですか。ジョアン、もう入ってきていいよ」


 ミラが外に声をかけるとソラとジョアンが中に入ってきた。


「久しぶりですね。レナルドさんはお元気ですか?」

「はい、おかげさまで元気にしています」

「そうですか。夕食がまだなら、ご一緒にどうですか」

「いえ、僕は違う宿なのでそれはご遠慮します。それじゃミラさんとソラさん、暇があったらまたご一緒してください」


 ジョアンはそう言って頭を下げると宿を出て行った。ミラとソラはそのままカレンと同じテーブルについた。そうしているうちに、いつの間にかミニックも降りてきていた。


「ミニック、あんたまさか1日中ひきこもってたの」

「僕が出かけたことは知ってるでしょ。ちょっと早く帰ってきてただけですよ」


 そう言いながらミニックは席についた。それを待っていたかのように、3人の食事が運ばれてきた。それにある程度手をつけてから、ミラは口を開いた。


「それで、明日からはどうするんですか?」

「ハティス様がいるかもしれない場所はいくつか目星をつけておきましたから、それを1つずつ潰していくつもりですよ」

「でもなんで最初にここに来たんですか? 師匠はまだエズラの近くにいるかもしれないのに」

「私の記憶では、ハティス様は4ヶ月以上同じ場所にいたことはありませんからね。それにエズラの次は大体ここに来ていたんですよ」

「へえ、そうだったんですか」

「そうだったんですかって、あんたは自称弟子なのにそんなことも知らなかったの」

「僕は弟子入りしてからそんなに経ってないですから、そこまではわかりませんよ」

「まったく、役に立たない」


 ミラはそう言いながら肉にフォークを突き刺して口に運んだ。


「でも、そういうことなら大賢者さんも簡単に見つかりそうですね」


 ソラは2人をとりなすようにそう言ったが、カレンは難しい顔をしていた。


「そう簡単にいってくれるといいですね」


 そこでハティスの話題は終わり、その後は適当な雑談で夕食の時間は過ぎていった。


 そして夜、カレンとミラはそれぞれ鎧を外していた。ミラは鎧をベッドの横に置いて、ため息をついた。


「本当にあの大賢者っていう人は見つかるんですかね。それに見つかったとしても、タマキ師匠を治すことができるんでしょうか」

「それは正直、わかりませんね。ただ、あの方にそれができなくても、何かヒントになるようなことくらいは知っているでしょう」


 ミラはカレンの答えを聞いてから、ベッドに座り込んで腕を組むと考え込むようにうつむいた。


「なんか不安ですね」

「それはわかりますが、先のことを考えても仕方がありませんよ。今は目の前のことに集中すべきですね」

「そうですよね。よし! 明日はがんばりましょう!」

「そうですね」


 カレンはわずかに笑って気合を入れているミラに答えたが、すぐにその表情は消え、外していたショートソードを掴み、窓を睨んだ。ミラはそれを見て、わけもわからないまま自分の剣を掴んだ。


「あの」


 その言葉はカレンの口に指を当てる仕草で遮られた。カレンは足音を忍ばせ、窓にゆっくりと近づいていった。そして壁に背をつけ慎重に外をうかがっていたが、しばらくすると窓から離れ、ショートソードを自分のベッドに立てかけた。


「あの、何だったんですか?」


 ミラは戸惑いながらそう聞いた。


「何か気配がしたと思ったんですけどね。どうも気のせいだったようです」


 カレンは特に表情を変えることなくそう答えて、ベッドに横になった。



 翌朝、一行は1階に集まって食事を済ませると、早速宿を出発した。


「まずはどこから探しに行くんですか?」


 ミニックがそう聞くと、カレンは地図を取り出し、昨日つけておいた印を指差した。


「まずはこの場所からですね」


 3人はそれを覗き込んで、ソラが口を開いた。


「どこもそれほど町からは離れてないんですね」


 そう言ったソラの頭を、カレン半身になるといきなり押さえつけて下げさせた。次の瞬間、ナイフがカレンの体とソラの頭があったところを通過していき、背後の家に突き立った。


「これはなんのつもりですか」


 カレンはショートソードの柄に手をかけ、そのナイフを投げたと思われる男を睨みつけた。男はケープを着けた短髪で、奇妙に不自然な笑顔をしていた。


「どういうつもりかって? そのナイフは飾りじゃないんだぜ、それでわかれよ」


 男はそう言って腰の剣を抜いた。それを見た周囲の人々は一斉に距離をとり、男とカレン達は円状に空いた空間で対峙することになった。


「どうした? 抜けよ、見世物としちゃなかなか面白いことになるぜ」


 ミラがそれに反応して剣を抜こうとしたが、カレンは手を伸ばしてそれを制した。


「あいにく、町中で剣を振り回す趣味はありません。相手をして欲しいというなら、場所を選んではどうですか」

「こっちもあいにくなんだが、場所を選ぶ趣味はないんだよ」

「動くな!」


 剣を構えようとした男の動きを上からの声が止めた。カレンが声のしたほうを見ると、宿の3階からシェイラが弓を構え、男に狙いをつけていた。


「シェイラさん、下がっていてください」


 カレンはそう言ったがシェイラは狙いを外そうとはしなかった。男はいらついたような表情になり、その方向に剣を向けようとした。


「全員伏せなさい!」


 カレンはその場に響きわたる大声を出し、腰のカード入れから1枚のカードを取り出した。


「開放!」


 カードはカレンの手を放れシェイラと男の間に飛び、爆発を起こした。集まっていた人々はその爆発に全員地面に伏せた。カレンは一気に男との間合いを詰めながら闇の翼を展開し、その勢いのまま男を掴んで飛び立った。


「追うよ!」


 ミラはそれを見て、ソラとミニックに声をかけて走り出した。シェイラは爆発の影響で何が起きたかわからず、ただ呆然としていた。


 カレンは町から十分に離れると、男を放り出してから着地した。そして、眼鏡を外すと、金色の瞳で地面に転がっている男を見据えた。


「いつまでそうして寝ているんです? あなたが人間でないことくらい、最初からわかっていますよ」

「なるほどなあ」


 男はそう言いながらゆっくり立ち上がった。


「イムトポールを倒したってだけあって、大した力だ」


 カレンはその名前に少し表情を変えた。


「あの魔族の知り合いですか。それが私に何の用で?」

「何の用? 何の用か」男は楽しそうに笑った。「いやな、派手に町1つを火の海にでもしながら戦ったら面白いんじゃないかと思ってよ。あの髪お化けを倒した実力があるんなら、たっぷり楽しめるだろ? 俺としちゃそれで十分」

「それは誰の指示なのか、教えてもらえますか」

「そんなことはどうでもいいだろ。おっと、そういえば自己紹介がまだだったな、俺のことはサロアとでも呼んでくれ」


 そう言ってサロアと名乗った魔族は剣を構えた。カレンも暗黒の剣を作り出し、それを構えた。

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