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ある町での再会

 村を出てから5日後。一行はパムロという町に到着していた。荷馬車を厩舎に預け、宿も確保したので、カレンは3人を解放して日が落ちるまで自由行動ということにした。ミニックは市場に向かい、ミラとソラは特に目的もなく町をぶらつくことにした。


「なんか、いまいちぱっとしない町ね」

「確かにそうだね。観光地になるような場所でもないし、地味だよね」


 そう話しながら歩いていると、大きな建物に人だかりができていた。2人はなんとなくそこに近づいていった。


「なんでこんなとこに人が集まってんのかね」


 ミラはそう言って首をひねっていたが、ソラはその建物に集まっている人にこれのことを聞きにいった。


「それで、何なの?」


 ミラは戻ってきたソラにそう尋ねた。

「ここはこの町の集会所みたいだよ。それで今日は月に1度のバザーをやってるんだってさ」

「バザーね。面白そうじゃない」


 ミラは人をかきわけて奥に進んだ。ソラもなんとかそれについていった。建物の奥までくると、椅子とテーブルが並べられただけの休憩所があり、人はだいぶ少なかった。ミラとソラは適当な場所に向かいあって座って、あたりの様子をじっくりと観察した。


「このバザーは町の人達が自由に店を出してやってるらしいよ」

「なるほど。どうりでガラクタみたいのがけっこう売ってるわけね」

「でも、普通じゃ見つからないような珍しいものもあるんじゃないかな」

「でもこの人じゃあね。なんか探そうって気にもならない」


 ミラはテーブルに置いてあるコップと水差しを取って、コップに水を注ぐと、一息に飲み干した。


「あの、ひょっとしてミラさんとソラさんじゃありませんか?」


 突然声をかけられ、そっちに顔を向けると、そこには見たことのある少年が立っていた。


「ジョアン、久しぶりだね」


 ソラはすぐに気がついた。だがミラはジョアンの顔をしばらくの間見てから、やっと反応した。


「ああ、隊商の。またひったくりにでもあったの」

「いえ、今日はこのバザーに掘り出し物を探しに来たんです」


 ジョアンはそう言いながらソラの隣に座った。


「わざわざこのバザーのためにこの町に来たってこと?」

「バザーのためというわけでもないんですが、日程が合ったので滞在日を延ばしたんです。こういった普通の人が店を出すものは、意外と希少なものが仕入れられたりするので」

「へえ、ソラいい勘してんじゃない」

「どういうことです?」

「いや、さっき同じこと言ってたからさ」


 ソラを指差しながら、ミラはコップにもう一杯水を注いだ。ジョアンは感心したようにソラを見た。


「それじゃあお2人とも、僕につきあってもらえませんか? きっと面白いと思いますよ」



 その頃カレンは、宿の1階の食堂兼酒場のようなところでテーブルにつき、この町の近くを描いた地図を広げていた。環と話した自分の記憶では、この近くにハティスが拠点としていた場所があるはずだった。


 しかし、正確な場所はわからず、おぼろげな地形の記憶を元に、地図にいくつかの候補地を書き込んでいた。そうしているうちに新しい客が入ってきた。カレンは顔を上げずに目だけでその客をちらっと見てから、再び地図に目を落とした。


 しばらくして、さっきの客がカレンの座っている席に近づいてきた。


「奇遇ですね。またお会いすることになるとは思いませんでした」


 カレンはいきなり顔を上げてそう言った。近づいてきていたシェイラとエクセンはカレンが気づいていないと思っていたので、少し勢いをそがれた。


「ああ、奇遇だな。あんたはまだ旅の続きなのか?」

「続きというわけではありませんが、旅の途中ですよ」

「そうなの。ちょっとここに座ってもいいかしら?」


 シェイラの言葉にカレンはうなずいて、テーブルの上の地図をたたんだ。シェイラとエクセンは椅子に腰を下ろした。


「で、今回は1人旅なのかい?」

「いえ、違います」

「それじゃタマキも一緒か。どこにいるんだい」


 カレンはその問いに少し黙りこみ、眼鏡の位置を直した。


「タマキ様は今回は別行動なので、一緒ではありません。あとの3人は一緒ですが」

「そうなのか。それは残念だな」


 エクセンはそれだけ言ったが、シェイラはカレンの様子に不審の目を向けた。


「それじゃ、俺達は荷物の整理があるから先に失礼するよ」


 エクセンはそう言って立ち上がったが、シェイラは座ったまま動こうとしなかった。


「どうした、何か話でもあるのか?」

「そう、だから先に行ってて」


 エクセンは特に何も気にすることなく宿を出て行った。それを確認したシェイラは、カレンと向き合い、口を開いた。


「これは好奇心で聞くんだけど、何があったのか教えてもらえないかしら」


 カレンはその質問にわずかに肩をすくめた。


「面白いことなどありませんよ。それに、聞いてどうするんですか?」

「どうするってわけでもないけど。知らない仲でもないんだから、できることがあれば協力してもいいと思ってる。この町にはまだあと何日かは滞在予定だしね」

「そうですか。あいにく協力していただけることでもないのですが、タマキ様は今、病気のような状態です」

「それとあなた達だけで旅をしているのにどんな関係があるの?」

「それをなんとかできそうな方は放浪していて、どこにいるかわかりにくい人ですから。それに、1人旅は負担が大きくなりすぎますからね」

「なるほどね。その探してる人っていうのは何者なの?」

「かつて大賢者と呼ばれた、ハティスという方です」

「大賢者ハティス」


 シェイラはそうつぶやいたが、特に何も思いつかないようだった。


「知らないのが当然ですよ。人目にふれないようにしていますから」

「ずいぶん変わり者みたいだけど、どんな人なの?」

「一言で言えば、初老で白髪の男性です。真っ白なローブを着てるので、少し目立つかもしれませんね」

「初老で白髪の白いローブを着た男ね。あなたがここにいるということは、この町の近くにいるかもしれないってことなの?」

「その可能性はあります」

「わかった。それじゃあ、そういう人を見かけたら教えるから。しばらくここに泊まるんでしょ」

「そのつもりです。しかし、なぜ協力していただけるんですか」

「さっきも言ったけど、知らない仲じゃないし、それにあなた達との旅はけっこう楽しかったし、町にいる間は私達はけっこう暇だから、まあそういうこと」


 シェイラはそれだけ言うと立ち上がった。カレンも立ち上がり右手を差し出した。


「とにかく、協力ありがとうございます」


 シェイラはその手を握り返してから宿を出て行った。カレンは椅子に座り直して、再び地図を広げた。今度はそこにミニックが戻ってきた。ミニックはカレンに気づいて声をかけた。


「今そこで前の隊商の人達と会ったんですけど、一緒だったんですか?」

「ええ、少し話をしましたよ」

「そうですか、なんか知らないんですけど、護衛のリーダーのシェイラさんがずいぶん張り切ってましたよ」

「そうですか。それより、明日からハティス様を探しに行くので、今日のうちに町で見たいところがあれば済ませておくのがいいですよ」

「それはもう済ませてきましたから、僕は一足先にのんびりさせてもらいます」


 ミニックは上の部屋に引きこもりに行った。カレンはそれを見送ると、地図に向かい合った。

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