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修行の成果

 旅立ちから10日が経っていた。その間1つの村に立ち寄ったが、基本的には全て野宿だった。カレンは全く平気な様子だったが、他の3人には少々疲れが見えた。


「カレン師匠ー、そろそろどこかちゃんとしたところに泊まりませんか?」


 ミラは荷馬車に寝転がりながらぼやき気味に言った。


「それなら、今日中に村に着くはずですよ。運がよければ、屋根のあるところで休めるでしょう」

「本当ですか! それなら急ぎましょう」


 ミラは起き上がってそう言ったが、ソラとミニックは特に何の反応もしなかった。カレンも振り返ることはなかった。


「早めに到着しないと色々と面倒なこともありますからね」


 そう言って、カレンは少し馬車のペースを上げた。そして、その日の夕方というよりは早い時間、一行は小さな村に到着した。


 カレンは荷馬車を村の入り口に止めて3人にそれを任せると、手近な村人をつかまえ、村長の居所を聞いてそこに向かった。残された3人は適当に村を見回していた。


「特に特徴のない普通の小さい村みたいですね」

「そんなことより、うまく泊まれればいいんだけどね」


 ミニックとミラは多少疲れた様子で言葉を交わしていたが、ソラだけは難しい顔をしていた。ミニックはそれに気づいた。


「どうしたんです? そんな顔をして」

「いや、どうもおかしい感じがするんだ。なんて言えばいいのかわからないけど、この村には何かよくないことが起きる気がする」

「精霊のお告げってやつ? 今のところ変わった様子もないけど」

「村そのものが問題なんじゃないよ。ひょっとしたら魔物が近くにいるのかもしれない」

「魔物ねえ。退治でもすればものすごい歓迎されたりするんじゃない」


 そう雑談をしているうちに、カレンが戻ってきた。


「誰も使ってない家があるそうなので、そこを借りることにしました。ただ、条件つきですけどね」

「条件って、まさか魔物退治ですか?」


 そう言ったミラをカレンは不思議そうに眺めた。


「そうです。最近このあたりに魔物が出没することがあるので、それを退治して欲しいという話ですが、よくわかりましたね」

「いえ、ソラが妙なことを言ってたので」

「妙なこととは、どういうことですか」


 カレンはソラに目を向けた。


「いえ、どうも妙な感じがするんです。近いうちにこの村に何かよくないことが起こるような」

「そういうことですか。精霊の力が使えるソラの言うことなら、無視をするわけにはいきませんね。今日は警戒しながら休んで、明日になったら魔物を探すことにしましょう」



 その夜、最初の見張りはミラとミニックがすることになった。2人は屋根に上って、そこから村を見渡していた。すでに村人のほとんどは眠りについているようだった。


「それにしても、泊めてもらう変わりに魔物退治なんて割に合わない気がしますね」

「別にそんなことはないと思うけど。大体、タマキ師匠だったら何もなくたって、自分から首を突っ込んでいくでしょ」

「たしかにそうですね。これも修行だと思ってがんばりますか」


 それからしばらくの間、2人は黙って見張りをしていたが、ミラが自分にたかる虫を潰してから口を開いた。


「あー、せっかく屋根のあるところに泊まれたのに、これじゃ野宿と大差ないじゃない」

「交代の時間になれば屋根の下で休めますよ」

「こんなことになったのも全部魔物が悪いんだ。あいつら、見つけたらギタギタにしてやる」

「そうですね、早いとこ片付けないと旅にも影響が出ますし、どうせなら、今晩来てくれると面倒がなくていいですけど」


 ミラはそう言ったミニックを、なにか測るような目で見た。


「ずいぶん自信があんのね」

「僕はこの数ヶ月間、ずっとタマキ先生の助手をして色々教えてもらったんです。そこらへんの雑魚魔物なんて簡単に片付けて見せますよ」

「ああそう、それはすごいすごい。張り切りすぎて山火事を起こしたり家を吹き飛ばしたりしないように気をつけてね」

「この僕がそんなことをするわけがないでしょう」

「この僕だからだよ」


 その後は適当な雑談をしながら交代の時間まですごした。交代の時間がくると、カレンとソラが家から出てきた。


「姉さん、ミニック、交代の時間だよ」


 ミラとミニックはその声に応えて屋根から下りてきた。しかしその時、村中に大きな咆哮が響いた。ミニックはそれを聞いて笑顔になった。


「本当にあっちから出てきてくれるとは、手間が省けましたね」

「そんなこと言ってないで、すぐに行かないと村に被害が出るよ!」


 ソラはすぐに咆哮が聞こえた方向に走り出した。他の3人もすぐにそれに続いた。村のはずれには20体程度の魔物がいた。


「風よ!」


 ソラは強風を起こして魔物達の足を止めた。3人はすぐに追いつき、それぞれの武器を構えた。


「3人とも、村に魔物を入らせないように注意して戦いなさい」

「もちろんです、ここから先には進ませませんよ」


 ミラはそう答えて魔物の中心に向かって走り出した。


「私が分断するから、2人は残りをお願い!」


 ソラとミニックは左右に別れて、魔物と向かい合った。カレンはその3人を後ろから油断なく見守る体勢をとった。


 ミラは剣を振るって数体魔物を切りながら走り抜け、一気に魔物達の背後にまわった。


「僕も負けてられませんね! サンダーブラスト!」


 ミニックもそれに続いた。メイスを軽く一振りすると、そこから放たれた雷が3体の魔物を打ち倒した。前に使ったものよりも雷は集中し、無駄がなかった。


「風よ、炎を乗せて渦巻け!」


 ソラが差し出した右手に火の玉が発し、それが一気に風に乗って魔物に向かっていった。そして、それは魔物4体程度を巻き込む小さな炎の竜巻になった。


 魔物達はそれぞれの攻撃を受けて混乱した。ミラは再びその中に切り込んでいき、また止めを刺すことにはこだわらずに、走り抜けながら剣を振るった。


「よし! サークルオブアイス!」


 ミニックが地面に手をつけると、魔物達を囲むように、大人の背丈ほどもある鋭い氷の塊が地面から突き出した。 


「ソラ! 今だ!」


 ミラが叫ぶと、ソラは杖を地面に突き立てた。


「炎よ、魔物達を包め!」


 声と共にミラの杖から炎が噴き出し、魔物達を包むように広がった。


「風よ、炎を運び魔物達を焼き尽くせ!」


 氷の円の中で、炎の風が吹き荒れた。それが治まると、そこに立っている魔物は1体もいなかった。ミニックはその中心に歩いていった。


「こんな雑魚なら、10倍いたって怖くありませんね」


 そう言いながら振り返ったが、いきなりその横を、雷をまとったナイフが通り過ぎた。ミニックが慌てて振り向くと、炎に巻き込まれなところに隠れていたらしいピットデーモンにそのナイフが突き刺さっていた。


「油断をしてはいけませんよ」


 カレンはそう言いながら倒れた魔物に近づき、ショートソードで止めを刺すと、ナイフを回収した。


「村長をやっている方から聞いた話からすると、おそらくこれで全部でしょう。念のために、もう1日この村に泊まって様子を見てから出発することにしましょうか」


 それから、戦いの音で起きてきた村人達に事情を説明し、カレンとソラは最初から決めていた通りに見張りを続けた。


 夜が明けてからは4人は村の周囲を見回り、その日の夜も見張りを立てて同じようにすごした。魔物は影も形もなく、村は平穏を取り戻していた。そして朝、4人は礼として受け取った食料等を荷馬車に積み込むと、村人達に見送られながら出発した。

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