2人の底力
「タマキ様、どの程度戦えますか」
「でかい魔法を連発とかは無理だな。さっき取り込んだ力が使えるといいんだけど」
「それはあまり計算はできませんね」
「カレンのほうはどうなんだ」
「私は大丈夫です。ただ、あまり長時間は戦えそうにありません」
「なら、決めるところで一気にいかないとな」
「相談は終わったか」
イムトポールの声が2人の会話を遮った。環はそれに笑顔を向けた。
「まだもう少しだ。あんたを確実に倒さなきゃならないからな」
そう言ってカードを投げつけた。だがイムトポールはその爆発をものともせず、ゆっくりと動き始めた。
環は魔力を全身に巡らせた。カレンは瞳を金色に輝かせ、暗黒の剣と闇の翼を作り出した。2人は左右に別れて走った。イムトポールは2人の動きを確認するように首を動かし、腕を上げた。その腕が振り下ろされると、そこから放たれた衝撃波が環を襲った。
「あぶねっ!」
環はそれをなんとか横っ飛びで避けたが、すぐに次の衝撃波が襲ってきた。
「プロテクション!」
なんとかそれは魔法の盾を展開して防いだが、それでも環は後ろに数メートル押された。イムトポールはさらに衝撃波を放とうと腕を振り上げたが、カレンが横からその足に斬りかかった。イムトポールは素早くそれに反応し、振り上げた腕をカレンに向かって横殴りに振るった。カレンは攻撃を止め、上に飛んでそれをかわした。
「3倍ライトニングボルト! ダブルだ!」
そこに環が左右の手で雷の矢を放ちながら走ってきた。イムトポールは左右の腕を振るってそれを打ち消したが、環は床を蹴って跳び上がり、その顔面に回し蹴りを叩き込んだ。だが、鈍い感触だけで、蹴りが当たった顔はほんのわずかしか衝撃を受けている様子しかなかった。
イムトポールは環の足を掴み、振り回して壁に投げつけようとしたが、環はその腕に手を当てた。
「バースト!」
爆発で環を掴んでいた手が緩み、環の体は投げつけられることなく放り出された。そこにカレンが急降下し、イムトポールの後頭部に暗黒の剣を振り下ろした。しかし、それはイムトポールがかかげた腕に受け止められた。
「2倍! バースト!」
そこに空中から爆発で加速した環が飛び込んできた。そのままイムトポールの足元に潜り込むと、その太い足に手を当てた。
「5倍! バァァァスト!」
その爆発でイムトポールの足がゆらいだ。カレンは暗黒の剣を受け止めていた腕を蹴り、後方に跳んで床に着地すると、すぐにその床を蹴って低い軌道でイムトポールの背後から迫った。そして、その暗黒の剣が太い腕の付け根を切った。
「ウグゥグゥオオ!」
凄まじい咆哮と共にイムトポールは腕を振り回し、環とカレンを弾き飛ばした。2人はなんとか着地し、態勢を立て直した。その位置関係はちょうど前後からイムトポールを挟み込むような形になった。
「ファイアボール!」
まず環が火の玉を放った。今までほとんど足を動かさなかったイムトポールだったが、いきなり上空に跳び上がった。そのまま環を踏み潰そうと落下してきたが、環は前方に転がってそれをかわした。
イムトポールは素早く振り返り、環を攻撃しようとしたが、そこに正面からカレンが突撃してきた。腕が振るわれたが、カレンはそれをぎりぎりで回避して、そのままイムトポールと交錯した。カレンはそのまま直進しながら上昇し、壁に足を着けた。
イムトポールはそこに顔を向けると、口を開けた。そこから一条のエネルギーが放たれ、壁に向かった。カレンは壁を蹴ってそれをなんとか避けたが、そのエネルギーは壁を削りながらカレンを追った。
だが、それに闇の刃のようなものが投げつけられ、そこから爆発が起こった。それによってイムトポールの口は塞がれ、カレンを追うエネルギーは止まった。
「うまくいったな」
そう言った環が右手を握ると、その腕を炎のように揺らめく闇が包んだ。
「お前がカレンの力を暴走させようとした力だ。なかなかのもんだろ?」
環が右腕を振ると、その闇が飛び、大きな刃のような形になった。イムトポールは片手を出し、それを受け止めようとしたが、それを受けると同時に体が後ろに押された。もう片方の手も添えたが、それでも止められず、どんどん押し込まれていった。そこにカレンが暗黒の剣を構え、降下の勢いそのままに迫った。
「小癪な人間どもがああああああああああ!」
その絶叫と同時に、イムトポールは闇の刃を強く握ると、それを間近に迫ったカレンに叩きつけた。カレンはなんとか暗黒の剣でそれを防いだが、その衝撃で環の立っているところまで飛ばされ、体勢を崩しながら着地した。
「なんか怒らせたみたいだな」
「好都合ですね。隙ができるはずですよ」
そこにイムトポールが一気に跳んできた。だが環は右腕を闇に包ませると、それでその巨体を殴りつけた。イムトポールは跳ね返され、立っていた地点まで転がっていった。カレンは暗黒の剣を闇の塊に変化させ、立ち上がろうとしているところに飛び、強烈な一撃を加えた。イムトポールはさらに壁際まで吹っ飛ぶことになった。
「カレン! あれをやるぞ!」
「はい!」
カレンは環の傍らまで飛んで戻り、環が差し出した右手を握ろうとした。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアア!」
イムトポールは這いつくばったまま、顔だけを2人のほうに向けると、口を自分の顔くらいの大きさまで開いた。そしてそこからはさらに太いエネルギーの塊が光線状に放たれた。
環とカレンはそれをなんとか左右にかわしたが、体勢を立て直す前に4つ足で飛んだイムトポールが迫った。2人はめちゃくちゃに振り回された腕に弾き飛ばされた。そのままの勢いでイムトポールは環に跳びかかっていった。環はそれをなんとか両腕で受け止め、さらにその両腕を闇に包ませた。だが、それでも少しずつ押されていった。
「潰れろ! ツブレロ!」
イムトポールは絶叫しながら環を潰そうと、さらに力を込めた。しかし、そこにカレンが滑り込んできた。
「ハァッ!」
気合を込めた暗黒の剣がのしかかるイムトポールの胸に深々と刺さった。そして環の体に左手を回した。
「飛びますよ!」
「よし、10倍! バースト!」
魔法を使うと同時に、環も右手をカレンの体に回した。大爆発とカレンの力で、2人はイムトポールを上にしたまま、ものすごいスピードで上昇した。
「タマキ様、剣を握ってください!」
環はカレンの右手に自分の左手をかぶせて剣を握った。
「今、心と!」
「魂を1つに!」
剣に2人の力が注ぎ込まれ、イムトポールの体を強大な闇の剣が貫いた。その背中からは形を成せないほどの闇のエネルギーが噴出していた。
「光と共に!」
「消え去れええええええ!」
2人の重ねられた手から光が溢れ、闇は光となって剣を中心に爆発的に広がっていった。その光が消えた時、イムトポールの体は跡形もなく消滅していた。
環とカレンは互いの体に手を回したまま、ゆっくりと床に降り立ち、その手を放した。
「師匠ー!」
ミラ、ソラ、ミニックの3人が笑顔で2人のもとに走ってきた。
「3人とも無事だったみたいだね。けっこう派手にやったから巻き込まれたんじゃないかと思ったよ」
環は少し疲れたような表情だったが、明るい笑顔だった。
「いえいえ、それは大丈夫です」
ミラは手を振って自身たっぷりに答えた。それから目を輝かせてさらに口を開いた。
「それでタマキ師匠! これからどうするんですか? さらに魔族討伐の旅をつづけるんでしょうか?」
「別にそういうわけじゃないんだけど」
環がカレンをちらっと見ると、カレンは黙ってうなずいた。
「まあ、旅の目的は果たせたみたいだから、いったん帰ろうと思ってる」
「ノーデルシア王国にですね! そういうことならすぐに出発しましょう先生!」
そう言ったミニックが1人で走り出した。環はその背中を見ながら、上空をちらっと見上げ、ゆっくりと歩き出した。
ここまでが第2部になります。