罠
「あの魔物達は一体どこから」
ミラは這い出した魔物達に驚きながら走っていた。
「わからない。でもあれはまずいよ」
「たしかにあれはまずそうですね。地面から魔物が湧いてくるなんて、聞いたこともありません」
「とにかく急ぐよ」
ミラはそう言ったが、その足は前方の地面に現われた闇によって止められた。3人が身構えると、そこから10数体の魔物が這い出してきた。
「2人は後ろに、私のサポートをお願い!」
ミラは剣を抜いてソラとミニックの前に出た。ミニックは前に出ようとしたがミラはそれを手を伸ばして制止した。
「あんたはせいぜい2発くらいしか魔法つかえないんだから、チャンスがくるまで力を温存しておきなさい」
「わかりました」
ミニックはミラの後ろに下がってメイスを手に取ってかまえた。
「あいつら大丈夫かな」
環は周囲の魔物達とイムトポールに気を配りながら3人を見た。
「最初に会った時よりはずいぶん強くなっていますが、まだ不安ですね」
「それじゃ、カレンはあっちを助けに行ってくれ」
「わかりました」
カレンはうなずいて3人のほうに走り出した。1人残された環のことをイムトポールは笑いながら見ていた。
「お前1人でこの魔物達と私を相手にするつもりか」
「かわいい弟子をほっとくわけにもいかないからな」
「なるほど。それでは少し見物させてもらうとしよう」
イムトポールは後ろに下がり、魔物達が動き出した。
ミラ達の前の魔物も、ほぼそれと同時に動き出していた。
「ソラ、あんたは横のほうのやつらを牽制して、方法はなんでもいいから。ミニック、あんたは倒すことは考えなくていいから、とにかく1匹でもひきつけておいて」
ソラとミニックは黙ってうなずいた。
「いくぞ!」
ミラが気合を入れ、剣をかまえた。そこにピットデーモン3体が跳びかかってきた。
「風よ! 吹き飛ばせ!」
ソラが杖を地面に突き立て叫ぶと、凝縮された空気の弾がその杖から3発撃たれ、ピットデーモンに向かって飛んだ。1体はそれに弾き飛ばされ、もう1体は避けようとしたがそれにかすり、体勢を崩した。だが、最後の1対は完全にそれをかわし、ミラに襲いかかった。
ミラは落ち着いてその動きをよく見ながら、正面からそれに淡く光る剣を振り下ろした。鈍い音と共に剣はそれの頭部を切り、地面に叩きつけた。だが、それに続いて、体勢を崩していたもう1体が斜め前方から跳びかかってきた。
「おいしょっと!」
妙な掛け声と共にミニックがメイスを振るって、そのピットデーモンを打ち返した。ミラは再び剣をかまえなおした。
「まずは1匹、この調子でいくよ!」
そこにイビルミストが氷の牙を放ってきた。ミラはそれを剣で打ち払った。
「ソラ、あいつを!」
「わかってる、風よ切り裂け!」
風の刃がイビルミストを切り裂き消滅させた。だが、残った魔物達はそれにひるむことなく3人にせまってきた。
「ミニック、あいつらの足を止める魔法を! ソラは上の奴に集中して!」
「わかった!」
「わかりましたよ」
ソラは上空のイビルミスとに風の刃を飛ばし、ミニックはメイスを腰に戻すと意識を集中させた。
「ファイアウォール!」
炎の壁が出現し、それは一直線に魔物達に向かっていった。そしてその目の前で一気に大きな壁となり、魔物達を阻んだ。ミラはその側面に走り、端にいたオーガと対峙した。オーガはその太い腕を振るってきたが、ミラはそれをかわすと同時に剣を振った。
オーガは形容のしようがない叫び声をあげ、切られていないほうの腕を振るった。ミラはそれをなんとか剣で受けたが、その体は吹き飛ばされた。
「姉さん! うわ!」
ソラがそっちに気をとられた一瞬、イビルミストから放たれた氷の牙がかすり、体勢を崩した。
「くそっ! 火の精霊よ!」
倒れこみながらも、ソラは火の玉をイビルミストに向かって放った。それが命中し、イビルミストは燃え上がって蒸発した。だが、別のイビルミストが氷の牙を放ち、それは倒れたソラに迫った。
ソラは思わず目をつむったが、それは飛んできた炎の刃に粉砕された。そして、吹き飛ばされ、立ち上がろうとしているミラに突っ込んでいったオーガは後ろから首を刺し貫かれた。
「カレン師匠!」
ミラとソラは同時に声を上げた。倒れたオーガの背後に立つカレンは、3人の状態を確認するように1人1人を見た。
「怪我はないようですね。一気に片づけますよ」
ミラとソラは立ち上がり、身構えた。ミニックも魔法を解除して、再びメイスをかまえた。カレンは跳びかかってきたスケルトンを簡単に切り捨て、どんどん魔物に向かって歩いていった。
飛びかかるピットデーモンは次々に切り捨てられ、ミラとミニックがそれに止めを刺していった。イビルミストはソラの精霊の力の餌食になった。順調に魔物は数は減っていった。
「あっちは順調みたいだな」
次々に襲いかかってくる魔物を殴ったり蹴ったりしながら、環はちらちらと3人の様子を見ていた。
「ずいぶん余裕のようだな」
「そうでもないさ、よっと!」
イムトポールの言葉に答えながら、環はオーガの腹を思い切り蹴って、その巨体を吹き飛ばした。
「そろそろこんな雑魚じゃなくて、あんたが前に出てきたらどうなんだ」
「たいしいた自信だ。それではお言葉に甘えようか」
そう言ったイムトポールは、浮かび上がると環に向かって刃物のようにした髪を飛ばした。環はそれと同時に跳びかかってきたピットデーモンをつかむと、それにむかって放り投げた。鋭利な髪はその体を切り裂き、ほとんど勢いは落ちなかったが、環はさらに殴りかかってきたオーガの腕をつかんで、それに向かって叩きつけた。さすがにその巨体には髪の勢いも殺され、オーガの体内で止まった。
「ファイアボール!」
環はオーガの死体を放し、自分の後方に火の玉を放った。後ろの魔物達は炎に包まれ、その足は止められた。環は両方の拳に炎をまとわせ、前方の魔物に突進していった。
ピットデーモンもスケルトンを殴り飛ばし、オーガを蹴り飛ばし、イビルミストを霧散させながら環は進んでいった。だが、イムトポールが目の前に現われると、その足は止められた。
イムトポールは自分の髪の根元をつかむと、そのつかんだ髪を硬質化し根元から折った。それはいびつな形の刃になり、その手におさまった。それが横殴りに振るわれ、環はなんとか後ろに下がってそれをかわした。
「どうした? これは受けられないのか?」
「そんなぶっそうなもんは勘弁してもらいたいな」
立て続けに振るわれたその剣をかわしながら、環は自分の右手に魔力を集中させた。そして上段から振り下ろされたそれをかわしながら、その右手をイムトポールに突きつけた。
「5倍! バースト!」
大きな爆発でイムトポールは上空に打ち上げられた。環はさらに両手をそれにむかってかざし、魔力を込めた。
「ファイアボール! アイスバイト! ダブル10倍マシンガン!」
こぶりな火の玉と氷の牙が上空のイムトポールに向かって連射された。それは確実に命中したように見え、イムトポールは無防備な状態で落下してきた。
「バースト!」
環は爆発を利用してその着地点に跳んだ。
「くらえぇぇぇぇ!」
右の拳に雷をまとわせ、イムトポールに渾身の力でそれを叩きこんだ。
「これだ! これを待っていた」
だがそれはイムトポールが自身の胴体に作り出した闇に飲み込まれていた。環は拳を引こうとしたが、それはできなかった。
「無駄だ」
イムトポールは環の両肩をつかんだ。環は左の拳でその顔面を殴りつけたが、イムトポールはそれを微動だにせず受けた。
「無駄だと言ったろう。お前のことは完全に捕らえた。その力、私の闇が全て飲み込んでやろう!」