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3人の弟子達

「オリジナル魔法とは大したもんだね」


 環は荷馬車に揺られながらミニックを褒めていた。ミラは気に食わなさそうな顔をしていたが、さっき先輩と呼ばれて気をよくしていたので、特につっかかることもなかった。


「しかし、それを1回しか使えないのは関心しませんね。それと、基本的な魔法は苦手なんですか?」


 カレンの手厳しい一言にミニックは頭をかいた。


「えー、実は自分で考えた魔法以外は苦手でして」

「何種類くらい使えるんだい」

「3つ使えます。どれも威力抜群ですよ」

「まさかどれも1回しか使えないのではないでしょうね」


 ミニックは胸を張っていたが、カレンの言葉が図星だったようでうつむいてしまった。


「ところで、なんで俺があそこにいたって知ってたんだ?」

「それは僕の師匠から教えられたんです。知の都に行けば、そのうち勇者に会えるだろうって」

「師匠?」

「昔は大賢者とか呼ばれてたらしいんですけどね。怪しい爺さんですよ」

「大賢者ですって!」


 ミラがミニックの言葉に反応して、その首をつかんで思いきり揺さぶった。


「その爺さんについて知ってることを全部吐きなさい! さあさあさあ!」

「姉さん落ち着いて」


 ソラがなんとかそれを引きはがした。ミニックはしばらく咳き込んでいた。


「いきなりなんなんですか」

「ミニック、その人の名前はわかるかな」

「はい、ハティスっていいます」


 その一言に、ミニック以外の4人は無言だが強く反応した。その雰囲気にミニックはとまどったように全員の顔を見まわした。


「僕、なんか変なこと言いましたか?」

「いや、変なことじゃない。俺達はその人を探しに行くつもりだったんだよ。今どこにいるかわかるか」

「商業都市エズラっていう町の近くで、けっこう遠いところです。僕は知の都に着くまで、そこから1ヶ月くらいかかりました」


 環はそれを聞いて腕を組んで考え込んだ。


「大賢者という人には私達が何をするか、お見通しだったわけですね」

「そうらしい。ミニック、大賢者のところまでの案内をよろしく頼むよ」



 その日の夕方、ミラ、ソラ、ミニックの3人はテントを張っていた。ミニックは手を止めて、地図を手に相談している環とカレンを見た。


「そこ、手を休めないで」


 ミラに注意されても、ミニックは手を止めたまま口を開いた。


「ミラ先輩。タマキ先生とカレンさんはどんな関係なんです?」

「関係って、そりゃあねえ」


 ミラは含み笑いをしながらソラをつっついた。


「なんで僕に話をふるんだよ」

「うーん、いやさあ、こういうことはなんかそういうことに興味なさそうというか、鈍そうなほうが説得力あるじゃん」

「なんなんだよまったく」


 ソラはそう言ってテントを張る作業に戻った。ミラは舌打ちをした。


「我が弟ながらノリが悪い奴」

「あの、それで2人の関係は?」

「コ・イ・ビ・トに決まってんでしょ」

「そうですかね。なんでそう思うんです」

「そのほうが面白い、んじゃなくて、テントだって交互に見張りしてるけど1つだし、宿だって2人部屋だけど同じ部屋だし」

「全然説得力ないですね」

「大体妙齢の男女が2人旅なんておかしいでしょ。勇者ならもっとお供をぞろぞろ連れててもおかしくないじゃない」

「お忍びなんでしょう」

「だからぁ、駆け落ちとか考えたほうが面白いでしょ。まあ、実際はタマキ師匠もカレン師匠もめちゃくちゃに強いから護衛の必要がないのと、タマキ師匠の性格の問題だと思うけど」


 ミニックは少し感心したような顔をした。


「思ったよりも頭使ってるんですね」

「あんた、ケンカ売ってんの?」


 ミラはミニックに詰め寄ろうとしたが、ソラがその間に入って止めた。


「2人とも、早くしないと日が落ちるよ」

「はいはい、わかりましたよ」


 ミラはミニックから離れてテントを張る作業に戻った。環と話していたカレンは、その様子をたまに横目で見ていた。環との相談が一段落してから、カレンはそのことを口にした。


「あの3人はうまくやっていけそうですね」

「え? ああ、ずっと観察してたの」

「はい、城に勤めて身に着けた技能です」

「なんでもありだなあ。でもミラとミニックはよくケンカしそうになってるように見えるけど」

「あれくらいなら問題はないと思います。ミラにとっては生意気な弟が増えたというくらいではないでしょうか」


 環はカレンの言葉にちょっと笑った。


「そうかもね」

「それに、ソラがうまく2人の間に入ってるようですから」

「しかしまあ、まさか弟子なんてのができるとは思ってなかったよ。おかけで退屈はしなさそうだけど」

「そうですね」


 それから、2人は準備しておいた夕食の様子を見に行った。その晩は特にそれ以上のこともなく、翌朝、環は全員を集めた。


「これからのことだけど、とりあえず行く予定だった町にはこのまま向かうことにした。目的地はけっこう遠いから、それなりの準備が必要だしね」

「そのあとはまっすぐ商業都市エズラに向かうんですか?」


 ミラの質問にはカレンが一歩前に出た。


「そうしたいところですが、人数も増えましたし、隊商に同行できるといいですね。そのほうが旅の負担も少ないですから」

「そう、だから町に着いたら護衛として同行できる隊商を探す。どうしても見つからなかったら今まで通りに行くことになるね」

「エズラはけっこう有名ですから、たぶん見つかるんじゃないでしょうか」

「そう願いたいね」環はミニックの言葉にうなずいた。「それじゃ、出発しようか」



 町に到着した一行は、宿を確保してから、手分けして条件の合う隊商を探すことにした。


「隊商なんてどこ探せばいいってのさー」


 ミラはぶつくさ言いながら先頭を歩いていた。後ろを歩いているソラとミニックは宿から借りてきた町の案内図を見ていた。


「聞いてんのお2人さん」

「聞いてるよ姉さん。市場があるみたいだから、とりあえずそこに行けばなにか見つかるんじゃないかな」

「市場ね。なんか面白いもんでもあるといいけど」

「ミラ先輩、買物に行くんじゃないんですよ」

「わかってるっての」


 そうしているうちに市場に到着した。市場はそれなりに賑わっていて、店舗も人も多かった。


「思ったよりちゃんとしてますね。どうやって目的の隊商を探しましょうか」

「手分けして店の人にでも聞くのがいいと思うけど」

「それでいいんじゃないの」


 ソラの提案通り、3人は別れて隊商の情報を探すことにした。しかし思ったよりも有効な情報はなかなか得られなかった。ミラは聞きこみに飽きて、手近な壁によりかかった。


「あ!」


 いきなり市場の通りで叫び声がした。ミラは壁から体を放し、その声のしたほうに体を向けた。


「誰か! ひったくりだ!」


 手荷物を無理矢理奪われて転倒した少年が大声で叫んでいるのが見えた。そして、その少し先には肩掛けのカバンを片手でつかんでいるひったくりらしき人物がいた。ひったくりは通行人を突き飛ばしながらミラのいるところにどんどん近づいてきた。


 ミラは淡い光をまとう剣を静かに抜いた。ひったくりはミラが立っているほうの手で、カバンの上部をつかんでいた。息を整え、すれ違いざまにミラはカバンをつかんでいる手のわずかに下を狙って剣を振るった。


 切られたカバンの下の部分が地面に落ち、言葉にならないどよめきが起きた。ひったくりはすぐには何をされたかわからなかったようだが、自分の手の中にカバンの上の部分しかないのと剣を持つミラを見て、手の中の残骸を放り投げると、ものすごいスピードで逃げていった。


 ミラは剣を収めてから地面に落ちたカバンを上下とも拾うと、なんとか立ち上がっていた持主の少年のもとにそれを持っていった。


「ありがとうございます!」


 少年はミラ手からカバンを受け取ると、それを抱きしめて何度も頭を下げた。


「いや、取り戻すためとはいえ切っちゃったし、そんなに頭を下げないでも」

「そんなことはありません。これにはとても大切なものが入ってるんです。本当にありがとうございました!」


 いつの間にか集まってきた野次馬に囲まれたまま、少年はまた勢いよく頭を下げた。ミラはそれを少し困った顔で見ていた。


「姉さん、何の騒ぎ?」

「ミラ先輩、何かやらかしたんですか?」


 そこにソラとミニックが戻ってきた。


「この子が手荷物をひったくられたから、それを格好よく取り返しただけ。それよりあんたら、隊商の情報はなんかあったの?」

「隊商!?」


 ミラの言葉に反応したのは頭を下げている少年だった。


「隊商を探してらっしゃるんですか? なぜです?」

「なぜって、ちょっと遠くまで旅をするから護衛ってことで同行させてもらおうということで」


 ソラの説明に少年は1人で大きくうなずいてから、自分の胸をドンと叩いた。


「そういうことでしたら僕にまかせてください! 申し遅れましたが、僕はジョアン。父は隊商のリーダーを務めているんです」

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