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知の都

 一行は知の都と呼ばれるエルドゥネス共和国の首都に到着した。城下町には本屋が並び、その城はほぼ全てが図書館という実に変わったところだった。


「なんかすごいところだね、ここ」


 環はそう言いながら、店を構えたものから露店まで、様々な本屋が並ぶ通りを歩いていた。ミラはあまり興味がなさそうだったが、ソラは興奮して店から店へ渡り歩いていた。


「本くらいであんなに興奮するなんて理解できません」

「それはまあ、好きなやつは不自然なくらい好きなもんだからね。俺だってそれほど好きってわけでもないけど、この半年でずいぶんたくさん読んだよ」

「そういうものなんでしょうか」

「そういうもの。読んでおけば、何か役に立つこともあるかもよ」

「はい、わかりました!」


 ミラはそう言って適当な本屋に駆け込んでいった。それを見送った環も、カレンが戻ってくるまで時間を潰そうと、適当に本屋を覗くことにした。


 しばらくするとカレンが戻ってきて、本屋を覗いている環に声をかけた。


「タマキ様、城の図書館の閲覧の許可が出ました」

「そう、それじゃ行こうか」


 環は本屋から出てミラとソラを探した。2人はすぐに見つかって環に呼び寄せられた。


「これから城に行くよ」

「図書館に入れるんですね、やった!」

「でも、宿はとらなくていいんですか?」

「城に滞在する許可も出てますから、その心配はありませんよ」


 ソラはそれを聞いて踊りださんばかりに喜んだ。ミラは城に泊まれると聞いて、それは喜んでいるようだった。


 一行は城の門まで到着した。カレンが守衛に声をかけると、城内に通じる扉が開かれた。中には受付のようなものがあり、カレンはそこに歩み寄ると、ショートソードとナイフ、ダガーを預けた。


「ミラとソラも武器を預けてください」


 ソラはすぐに杖を預けたが、ミラは少しためらってから剣を預けた。環は別に武器は持っていなかったが、マントを外して受付に渡した。それから案内人が来て、4人を奥へと案内していった。環は歩きながらカレンに小声で耳打ちした。


「魔法があるのに武器だけ預けるのって意味あるのかな」

「形式的なものですよ」

「あの、それよりどこに向かってるんですか?」


 ミラもその会話に加わった。


「館長のところです」

「館長?」

「この国の王のようなものですね」

「そうなんですか。ソラ、あんた知ってた?」

「知ってるもなにも、館長に会えるなんて信じられないことだよ。本当に師匠達は何者なんですか?」

「じきにわかりますよ」


 それからは無言で4人は歩いた。しばらくは廊下を歩いていたが、ひときわ大きな扉の前に着くと、その扉が開かれ5人は中に入った。中は巨大な本棚が並んでいる図書室だった。


「こちらです」


 案内人はどんどん奥に進んでいった。ソラはしきりにまわりを見まわしていた。


「本なら後でたっぷり読むことができますよ」

「そうそう、落ち着きなくきょろきょろするんじゃないの」

「わかってるよ」


 そう言っているうちに、本棚が並ぶ一番奥にある古びた扉の前に到着した。案内人は扉をノックした。


「館長、お客様をお連れしました」

「どうぞ」


 穏やかな声がそれに答えた。扉が開かれると、本棚が並ぶ十分な広さのある部屋に初老の女性が座っていた。その机の上には開かれた本が数冊置かれていた。案内人は椅子を4個持ってきて並べると、礼をして部屋から出て行った。


「みなさん、おかけになってください」


 初老の女性は落ち着いた声でそう言った。4人が椅子に座ると、机の上から本を一冊手にとって4人のほうに椅子の向きを変えて微笑を浮かべた。


「よく来てくれました。ノーデルシア王国を救った勇者、タマキ様」

「あのノーデルシア王国を救った!」

「勇者が師匠!」


 ミラとソラは裏返った声を出して驚いた。


「ああ、まあそうだけど」


 環は落ち着いたものだった。


「ミラ、ソラ、その話は後にしましょうか」


 カレンにそう言われると2人は黙ってうつむいた。初老の女性は穏やかな顔でそれを見てから口を開いた。


「はじめまして、私はここの館長を務めているエリットです」


 エリットは手に持った本をカレンに差し出した。


「カレン、あなたと会うのは初めてですが、この日記の持主から話だけは聞いていましたよ」

「日記の、持主ですか」


 カレンはその本を受け取って適当なページを開いてた。そして、しばらくそれを読んでから顔を上げた。


「驚きました。私のことが書いてあるようですね」


 そう言ったわりには、カレンはあまり驚いていないように見えた。環はそれを見て首をひねった。


「カレン、その本は?」

「旅の日記です」

「つまり、それはカレンが一緒に旅をしていたっていう人の日記なのか」

「はい、そうです」

「で、それって誰なの」

「ハティス。私の少し変わった友人です」


 環の問いにはエリットが答えた。


「昔は大賢者などと呼ばれた人でしたが、ある時から人々が持ってる自分の記憶を封じてまわっていたんです」

「記憶を? なんのために」

「目立ちたくないからだと言っていましたけどね」エリットは何かを思い出したように笑った。「それも嘘ではなかったのでしょうが、本当の目的は別にあったのでしょうね。私の記憶は封じずに、その日記を残していったのですから」

「そのハティスって人に会えれば色々わかるんだな」

「あなた達が求めるものが何かはわかりませんが、ハティスと会えれば必ず助けになるでしょう」


 環はその言葉にうなずいてカレンを見た。カレンは何かを考え込むようにして日記をじっと見ていた。


「それじゃあ、エリットさん。図書館を見せてもらってもいいですか?」

「ええ、どこでもご自由にご覧になってください。まずはお部屋にご案内いたしましょうか」


 エリットはそう言って立ち上がった。4人も立ち上がり一礼すると部屋から出た。それからそれぞれの部屋に案内された。それから、環はミラとソラを呼んだ。


「ミラ、ソラ、俺はカレンと一緒にこの日記を調べるから、2人は自由にしてていいぞ」

「いいんですか?」

「ああ、楽しんできなよ」

「はい、姉さん行こう!」

「ちょっと引っ張らないでよ」


 2人は廊下に消えていった。それを見送ってから、環はカレンの部屋のドアをノックして中に入ると、日記を持って椅子に座っていたカレンの肩に手を置いた。


「カレン、平気か」

「平気です。少し、驚いているだけですから」

「いきなりあんなことを知らされたら驚くよな。でも大丈夫だ、時間はあるんだからゆっくり調べよう」

「そうですね。ゆっくり、調べましょう」


 カレンは少し笑ってから立ち上がった。2人はさっきの図書室に向かった。


「何から調べようか」

「この日記を日付順に古いほうから、手当たり次第に調べていきましょう」

「そうすればハティスっていう人の足取りがよくわかるな。目的もわかるかもしれない」

「はい、私の記憶は封じられた影響のせいか、あまりあてになりそうにありませんから」

「よし、早速始めよう」

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