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師弟?

 師匠という話はとりあえず保留にしておいて、4人に増えた一行は最寄の町を目指していた。環はカレンの隣に座って、荷台で何かを話している姉弟をちらっと見た。


「タマキ様、あの2人をどうするつもりですか」


 小声でのカレンの問いに、環は空を見上げた。


「師匠なんて言われてもなあ。まあけっこう面白そうではあるけどね。そこらへんにに置いて行くわけにもいかないし、町に着いてから考えればいいんじゃない」

「私としては、2人の力を見たいですね。見所があるのなら、連れて行くのもいいと思います」

「かなわないと思って逃げるあたりはいいんじゃないかな」

「そうですね」


 カレンがうなずくと、後ろからミラが顔を突き出してきた。


「なんのお話をしてるんですか?」

「ああ、次の町で補給しておく物の相談だよ」


 環は適当にごまかした。


「あの、それで私達の弟子入りのことは、どうでしょうか?」

「それはさっきも言ったけど保留」

「そんなこと言わずにお願いします! お2人ほど強い方は見たことがないんです!」

「そうです、剣も魔法も次元が違います! ぜひ僕達を弟子にして下さい!」

「わかったわかった」勢いよくせまるミラとソラに環は若干引き気味になった。「その件は町に着いてからゆっくりと話し合おうか」

「雑用でもなんでもしますから」

「そうです、不肖の弟ですがこき使ってやってください」

「姉さんもだよ」

「私のぶんまで弟が働きます」

「それなら今晩は働いてもらいますよ。町に着くのは明日ですから」


 カレンはそれだけ言った。


「そうそう、2人とも今はゆっくりしておきなよ」


 環がそう言うと、2人はおとなしく荷台のほうに戻っていった。


 そして夕方、夕食の用意は環とカレンがやっていたが、テントの設営等はミラ、ソラの姉弟がやっていた。


「真面目にやってるな」


 2人の様子を横目で見ながら、環はカレンに小声で言った。カレンも2人の様子を見て、渋い顔はしていなかった。


「野宿の経験はあるようですし、手際もそれなりですね」


 カレンの言う通り、ミラとソラはそれなりにしっかりと働いていた。2つのテントを設営し終えた2人は、環達のほうに走ってきた。


「テントはばっちりです。ほかにやることはありませんか?」

「そうですね、ここの周りでも見てきてもらえますか。地形や危険がありそうな場所をよく見ておいてください」

「はい、わかりました!」


 ミラは元気よく答えてソラを引っぱっていった。カレンはその背中を一瞥して、夕食の準備を続けた。


「しかしあの2人、育ちはよさそうに見えるし、間違っても悪人には見えないよな」

「私も同感です」

「旅の道連れとしては悪くないかもね。賑やかだし」



 翌日、一行はそれなりの規模の町に到着した。カレンは荷馬車と大きな荷物を厩舎に預けた。


「人がいるところは3日ぶりか。なんか久しぶりな気がするなあ」


 環は町を体を伸ばしながら町を見渡した。小規模ではあるが、それなりに活気のある様子の町だった。


「で、カレン、これからどうするの」

「まず宿を確保しましょう。その後は必要な物の買出しですね」

「わかった。お前達はどうする?」

「それはもち! うぐ!」


 環の問いにミラが勢いよく答えようとしたが、ソラがそれを押さえた。


「僕達はお金もほとんどないので、できればご一緒させてもらいたいのですが」

「ああ、いいよ」


 そうしてたどり着いたのは宿兼酒場兼食堂というような場所だった。カレンがここの主のような中年の女のところに行っている間、環達は適当に座って待っていた。すぐにカレンが戻ってきた。


「部屋は借りられました。上の2部屋です」


 そう言ってカレンは鍵の1つをミラに差し出した。


「あなた達の部屋の鍵です、しっかり管理しておいてください」

「は、はい。必ず守り抜きます!」

「いや、それほどのもんじゃないって」


 環の一言はミラには聞こえなかったようで、その気合は少しもおとろえなかった。ソラは特に何も言おうとしなかった。


「荷物を部屋に置いてから買出しに行きましょう」


 カレンは特にそれを気にすることもなく、自分の手荷物を持って階段に向かった。環達もすぐにその後を追った。


 そして、買出しのため市場に来たのだが、そこでは環が妙に生き生きとする事態に遭遇した。


「この剣は俺が先に目をつけといたんだ」

「高い値段をつけたこっちのものに決まってるじゃないか」


 2人の傭兵風の男が武器商人の軒先で1本の剣をめぐって争っていた。環はそこにどんどん近づいていって2人の間に割って入った。


「はいはい、待った待った」


 いきなり割って入ってきた環に、2人の男は思わず争いを止めた。環はいきなり争いの元になっている剣をつかんだ。


「この剣をどっちが買うのかでもめてるわけだ」

「おい、あんた何を」

「1つ提案があるんだけどな。この剣の持主を決めるいい方法」

「いい方法だと?」

「実力があるほうが使えばいいじゃないか。その方法はこのミニミニアイスバイト」環はそう言って頭上に大量の小さな氷の牙を出現させた。「こいつを多く落とせたほうが買えるってことでどうかな」


 傭兵風の男2人はその光景を見て驚いていたが、すぐに気を取り直して面白そうに笑った。


「それはいい。あんたもそれでいいだろ」

「ああ、面白そうだ」

「決まりだな。おっさん、それでいいよな」


 環が武器商人にそう聞くと、商人は疲れた様子で首を縦に振った。


「早く決めてくれるんならどっちでもいいですよ」

「よし、決まりだな。場所を変えよう」



 町の広場には人だかりができていた。


「はいはい、危ないからそっち側には立たないようにね」


 環は傭兵2人を適当な位置に立たせると、見物人を危険がないように誘導した。それから自分も適当な位置まで歩いてから傭兵達のほうに振り向いた。


「なんか人数が多いな」


 傭兵2人に加えて、なぜかミラとソラも混じっていた。


「剣は欲しくないんですけど、私達の実力を見てもらいたいんです」


 ミラの言葉にソラは無言でうなずいた。傭兵達は変なものを見る目で2人を見たが、環は特に気にする様子もなかった。


「まあいいか。それじゃ順番に始めよう。10発を連続で撃つから、一番多く落とした人が勝ちだ」


 環はまず一番左の傭兵に指を向けた。


「始めよう」


 まず1人目は5発を剣で打ち落とした。2人目は4発。そしてミラの順番になった。


「よろしくお願いします」


 頭を下げると剣の柄に手をかけて息を整えた。そして一気に剣を抜くと、それは淡い光をまとっていた。


 1発、2発、3発と鋭い動きで順調に氷の牙を打ち落としていく。4発、5発、6発、7発と続けて打ち落とし、8発目に剣を振り下ろそうとした時、剣がまとっていた淡い光が突然消えた。


「あれ?」


 ミラは間の抜けた声を出して、動きが鈍くなった。その鼻っ柱にミニミニアイスバイトが直撃した。鼻を押さえてうずくまったところに、さらに2発の氷の牙が迫り、見事に額に連続で命中した。


「イタタタタタタ」

「残念、7発だな。それじゃ次だ」


 環はうずくまるミラを放っておいて、ソラに指を向けた。


「いつでもどうぞ」


 杖をかまえたソラに向かって氷の牙が放たれた。だが、ソラは杖を振るう様子を見せずに、それを両手で持ち、地面にしっかりと固定した。


「風よ!」


 その声と共にソラの前につむじ風が巻き起こり、氷の牙は7発そらされたが、突然風が消え、残りは見事に命中した。


「イテテテテテテ」


 ソラもミラと同じような結果になった。


「0発ですね」


 カレンがそう言うと同時に、しまらない結果に見物人はどんどん去って行った。傭兵達もいたたまれなくなったようで、結局剣は買わずにどこかに行ってしまった。武器商人はとっくに店に戻っていた。


「タマキ様」誰もいなくなってからカレンは口を開いた。「この2人を連れて行くのも悪い考えではないと思います」

「そうだね。面白そうだし、一緒に旅をすることにしようか」

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