侍女の話と城案内
「こちらがタマキ様のお部屋です」
環が案内された部屋はあまり派手ではないが、広く豪華な部屋だった。ベッドやテーブル、椅子はどれも高級なものだというのはすぐにわかった。
「こりゃすごい。スイートルームなんてもんじゃないな」
「ここは最高級の貴賓室です」
「はー、そりゃすごい」
そう言いながら、環は鞄と剣をテーブルに置いて椅子に座った。
「カレンも座って」
「なぜでしょうか?」
カレンは立ったまま眉一つ動かさずに答えた。
「ここには来たばっかりでなんにもわかんないからさ、色々教えてもらいたいんだ」
「何をお知りになりたいのですか」
「さっき王様がノーデルシア王国って言ってたけど、この国っていったいどんな国なのかな?」
「我がノーデルシア王国は500年の歴史を誇る大陸最大の国です。国土は肥沃で政治、経済も安定していました」
「していましたってことは、今は違うってことなわけ」
「はい、5年前、闇王と名乗るものが現われてからは安定とは程遠い状況です」
「闇王?」
「闇の力を持つ魔物を使役する存在です。正体は不明ですが、人間のような姿をした悪魔だという情報があります」
「そいつを倒すために俺を呼んだったことでいいのかな」
「その通りです」
「なんで俺なの?」
「かつて世界の危機に異世界からの勇者を召喚し、その危機を治めたという伝説があります。勇者は類まれな魔力を持ち、希望をもたらした存在だと、その伝説は伝えています。タマキ様は優れた魔力の持ち主です、勇者に間違いありません」
「勇者ねえ」環は首をかしげた。「どうも実感が湧かないな。そもそもここにいることが夢みたいだし」
「タマキ様はなじんでいるように見えますが」
「なじんじゃいないけどさ。仕方ないんじゃないかな、ここが俺の世界とは別の世界なのは間違いないみたいだし。目の前に大きな問題があるのは間違いないんでしょ、そういうのをスルーするのって気分が悪いんだよね」
「気分が悪い、ですか」
カレンは少し微笑んだ。環もそれをみて笑顔になった。
「やっと笑ってくれた。あれ、そういえば不思議なんだけど」
「なにがですか?」
「なんでこうやって普通に話せてるのかな? 言葉は違うはずだけど」
「それはわかりません。伝説では意思の疎通ができなかったということはありませんので、何らかの力が働いているのだと思われます」
「そういうもんか。まあ、便利だからそれでいいけど」
「それよりタマキ様、お疲れかもしれませんが、これから案内したいところがあるのですが」
「案内って、どこに?」
「本日は城の中をご案内いたします。」
「城の中ね。荷物は置いてってもいいかな」
「はい」
環は鞄と剣をテーブルに置いたままにして立ち上がった。
「それじゃ、案内してもらうよ」
環とカレンが最初に来たのは食堂だった。数百人が収容できる食堂には環も驚いているようだった。
「これはすごいな。城の人間は全部ここで飯を食うのかな」
「ほとんどはそうです。別にここで食事をしなければいけない規則があるわけではないので、全員ではありません」
「すごいな。俺もここで食事することになるのか」
「いえ、タマキ様は自室で済ませていただくことになります。どうしてもとおっしゃるのであれば、ここで食事をしていただいてもかまいませんが」
「それはいいけどさ、いつも一人っていうのは味気ないからなあ。たまにはこういうにぎやかなところで飯にしたいよ」
「そうですか。それでは次の場所にご案内いたします」
次は兵舎だった。そこは城の中でも一番大きな区画で、通常の兵士から魔法使いまで、様々な者達の訓練施設や寝床が用意されていた。カレンは環を武器庫に案内した。
「タマキ様、気に入るものがここにあるでしょうか?」
環は様々な種類の武器を眺めながらためいきをついた。
「こりゃすごいけど、俺はこんなもの触ったこともないよ」
「そうですか。訓練すれば使えるようになると思いますよ」
「そういうのは嫌だな。俺は魔法みたいなほうがいい」
「それでは魔法の訓練所にご案内します」
カレンが魔法の訓練所と言った場所は、かなりの広さと分厚い壁で囲われた広場だった。
「今は誰もいないんだな」
「はい、それではまずこれを」
そう言ってカレンは1枚のスペルカードを取り出した。
「これはストーンスキンのスペルカードです。訓練を始める前に、まずこのカードと契約してください。これを使えば怪我の心配はありません」
「なるほどね。それじゃ、契約! ストーンスキン」
バーストを契約した時と同じように、カードから力が流れ込んできた。それと共にカードは光になって消えていった。
「さすがです。それでは早速使ってみましょうか。カードと契約した時の感覚を思い出してください」
「なんか力が流れ込んでくる感じのこと?」
「はい。その逆の力の流れを作るイメージです」
「力の流れね」
環は意識を集中して、自分の中にある魔力を感じた。それを体の外へと流すようにイメージを描いた。
「できたみたいですね。今度はそれを魔法の名前と一緒に一気に放出してください」
「よし、ストーンスキン!」
環は全身が力に覆われるのを感じた。カレンはいつの間にか手にダガーを持っていた。
「ちょっと待った、その手に持ってるのは?」
環は一歩後ずさったが、カレンは一気に間合いを詰めてダガーを横薙ぎにした。しかしダガーは環が出した腕に止められた。カレンはダガーをどこかにしまうと、眼鏡を直して微笑んだ。
「これは? 切れてない、痛くもない。ところでそのダガーはどこから?」
カレンは環の疑問は無視して話を続けた。
「それがストーンスキンです。タマキ様の魔力があれば並大抵のことでは傷つかなくなるでしょう」
「確かに」環は思い切り地面を殴りつけた。拳は深く地面にめり込んだ。「全然痛くないし、体が硬くなってるからかな、パンチ力もすごい」
「次はバーストを使ってみましょう。やりかたは今と同じですが、こんどは手に意識を集中するのがいいです」
「今と同じね、こんな感じかな。バースト!」
かざした手からのものすごい爆発と共に環は吹き飛んで壁に叩きつけられた。頑丈なはずの壁は簡単にへこんでしまった。
「やれやれ、なんだよこれは」
環は頭をかきながら起き上がった。カレンはそれに手を貸しながら楽しそうな笑顔を浮かべた。
「本当にすごい魔力ですね。バーストは基本的な攻撃魔法で、本来はそれほどの威力はないはずですし、術者が飛ばされるようなものではないのですが」
「こんな風に自分が吹っ飛ぶなんてことはないはずってわけか」
「そうですね。これほど派手なバーストは初めて見ました」
「うまくコントロールできるようにならなきゃ駄目だな、こりゃ」
「大丈夫ですよ、ストーンスキンを使っていれば爆風くらいでは無傷でいられます。周りを巻き込むことだけを注意すれば問題ありません」
「そうは言っても、いつも吹っ飛ばされるわけにもいかないから、練習しないとな」
環はさんざん吹き飛びながら練習を再開した。カレンはそれを優しい微笑みで見守っていた。
「なあカレン。この魔法って別に手から出さなくてもいいんだよな」
「可能ではあると思いますが、どうするつもりですか?」
「こうするのさ」
環は腰をおとして、右足を一歩後ろに引いた。
「バースト!」
右足の下で強力な爆発が起こり、その勢いで環は前方に吹き飛んでいった。そのままの勢いで地面に突っ込んだが、環はすぐに笑顔で立ち上がった。
「こりゃすごいな」
「確かにすごいですね、非常識もいいところです」




