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心と魂

 環とカレンはドゥームデーモンと対峙していた。姿も形も闇王とほとんど変わらないその存在は、それだけでも消耗を覚えるほどの相手だった。カレンはショートソードを握りなおした。


「タマキ様、魔力はどれくらい残っていますか」

「20倍でライトニングとかそっちの魔法が3発くらいは使えそうだ。でも30倍で2発にしたほうがよさそうだな。それくらいまでなら、なんとか使える」

「わかりました」


 カレンは眼鏡を外して、それをベルトに着いている眼鏡専用ホルスターとでも言うべき物に納めた。そして目を閉じた。


「なあカレン」

「なんですか?」

「その眼鏡って何かいわくつきの特殊な物なの? 力を封印するとかそういう類の」

「いいえ、ただのアクセサリです。まあ、気分の問題でしょうか」


 カレンは口元に笑みを浮かべ、目を開いた。赤い瞳がドゥームデーモンをまっすぐ見据えた。


「私が仕掛けます。タマキ様はできるだけ魔力を消費しないようにして好機を待ってください」

「わかった。無理はしないでくれよ」

「はい!」


 カレンは返事をすると同時に闇をローブのように形作り、それで体を包むと瞬時に消えた。次の瞬間には、闇のローブをまとっていないカレンがドゥームデーモンの背後の上空に現れた。そこから一気に落下しながら、炎をまとったショートソードを渾身の力で振り下ろした。


 だが、それはドゥームデーモンの指1本に止められた。その指が軽く動かされるとカレンの体が簡単に弾かれた。しかしカレンはうまく着地するとすぐにショートソードを振るい、まとった炎を飛ばし、それを追うように走った。


 ドゥームデーモンは右腕の一振りで炎をかき消し、それに続いて袈裟切りに振るわれた氷の剣を左手でつかんで受け止めた。


「どうした? こんなものではあるまい」


 その右腕がカレンに振り下ろされた。


「そうはいくか!」


 環が勢いよく突っ込み、ドゥームデーモンの後頭部めがけて炎をまとった拳を叩き込もうとした。だが、ショートソードをつかんでいた左手が動き、カレンの体ごと環に叩きつけた。環は拳を止め、なんとかカレンを受け止めたが、その勢いで2人とも後方に飛ばされた。ドゥームデーモンは余裕を持っているようで、追撃はしなかった。


 カレンはすぐに立ち上がり、環は首を横に振りながらゆっくりと立ち上がった。


「こいつは強いな」

「はい。一気に決めなければ私達が不利です」

「何か奥の手みたいなのはあるのかな」

「2つほどありますが、1つはあまり使いたいものではありません。もう1つもあまり乱発できるようなものではありません」

「でも、出し惜しみもできないな」


 2人は改めてドゥームデーモンに対峙した。その姿を見て、それは不気味な笑顔のようなものを見せた。


「そうだ、貴様らの全力で来い」


 ドゥームデーモンは火の玉を1発放った。環とカレンは左右に分かれてそれをかわしたが、火の玉は軌道を変えて環に襲いかかった。


「後ろです!」


 カレンの警告の声で環は背後の火の玉に気づき、振り向きざまに炎をまとわせた拳をそれに合わせた。


「ぐぉっ!」


 相殺したように見えたが、衝撃で環の体は後方に吹き飛ばされた。カレンは環をフォローしようと方向転換した。だがその進行方向にドゥームデーモンが高速で移動して、道を塞いだ。


 カレンはショートソードに雷をまとわせると、その胸に向かって強烈な突きを繰り出した。ドゥームデーモンはそれをいなして、カレンの背中に手を向けると、そこから氷の牙を放った。カレンはなんとか振り向くと、ショートソードでそれを受けたが、勢いを殺せずそのまま吹き飛ばされた。ドゥームデーモンはさらにカレンに追い討ちをかけようとした。


「5倍! 連射バージョンライトニングボルト!」


 そこに環の声と同時に、5発の雷の矢が飛んできた。ドゥームデーモンは魔法の盾を発生させそれを防いだ。


「まだまだ行くぜ! 2倍バースト!」


 爆発を利用して勢いをつけた環は拳に雷をまとわせ、その盾に全力でぶつかった。拳は盾を貫き、一気にひらかれた。


「10倍! ファイアボール!」


 至近距離から火の玉が直撃し、環はその爆風に飛ばされた。すぐに体勢を立て直しドゥームデーモンの姿を確認した。多少のダメージはあったようだが、それでもしっかりと立っていた。


「バースト!」環は再び勢いをつけてドゥームデーモンに突っ込んだ。「おおおおおおおおおおお!」


 右に炎、左に氷をまとわせた拳を連続で振るった。ドゥームデーモンはそれを的確に腕で防ぎながら後ろに下がっていった。さらにそこにカレンが側面から雷をまとったショートソードで切りかかっていった。


「なるほど」ドゥームデーモンは2人の攻撃を捌きながら語りかけるようにしゃべり始めた。「人間にしておくには惜しい連中だ。それだけの力があるのなら我が眷族にしてやってもいいくらいだが」

「黙れ!」


 環は叫んで渾身の力を込めた拳をドゥームデーモンの顔に叩き込んだ。さらにカレンのショートソードも振り下ろされた。どちらも防がれたが、その胴体が一瞬空いた。


「10倍! バァァァァァァストオ!」


 ドゥームデーモンは強烈な爆発に吹き飛ばされた。環は落下点の目測をつけると、すぐに次の一撃に移る。


「20倍! メテオ! ストライク!」


 燃えさかる巨大な岩がドゥームデーモンを直撃した。その衝撃波が2人を襲ったが、カレンは闇のローブをまとうと、姿を消し、その落下地点の上空に姿を現した。


「混沌の力よ!」


 ローブになっていた闇が消え、ショートソードに新たな闇が集まり、それが大剣となった。落下の勢いを乗せ、カレンはそれを炎に包まれるドゥームデーモンに振り下ろした。


 次の瞬間にあったのは衝撃。そして、カレンの闇の大剣を肩に切りつけられながらも、それを受け止める傷ついたドゥームデーモンの姿だった。


「我が肉体をここまで傷つけるとはな」ドゥームデーモンは闇の大剣をつかむ手に力を込めた。「だがこんなものなどおおおおお!」


 闇の大剣が握りつぶされ、霧消した。さらにドゥームデーモンはカレンの腕をつかんで、思い切り地面に叩きつけた。


「がっ!」


 カレンはうめいたが、それでもショートソードは手放さなかった。ドゥームデーモンはもう一度カレンを叩きつけようとしたが、そこに環が飛び込んできた。炎の拳がその顔面を打ちぬき、ドゥームデーモンは吹き飛ばされカレンを放した。環はそのカレンを抱きとめた。


「カレン大丈夫か! 5倍ヒーリング!」


 カレンの体が柔らかい光に包まれ、息をするのも困難な状態からすぐに回復した。それでも足元がふらつくカレンに、環は肩を貸して2人で立ち上がった。その視線の先には、立ち上がるドゥームデーモンの姿があった。


「タマキ様、奥の手というものを使うことになりました」

「奥の手ね、どうするんだ?」


 カレンはなんとか1人で立ち、ショートソードを鞘に収めてから、環に自分の左手を差し出した。


「私の手を握ってください。強く」


 環は右手でその手を強く握り締めた。


「私はタマキ様に魂を委ねます」

「俺はどうすればいいんだ」

「力の源、心を私に委ねて下さい」

「わかった」


 環は力強くうなずいて、ドゥームデーモンを見据えた。そしてカレンの手をさらに力を込めて握った。


「俺の心をカレンに委ねる」

「私の魂をタマキ様に委ねます」


 つないだ手を中心に、2人の力が混ざり合った。環にはカレンの混沌の力。カレンには環の魔力。2つの力が混ざり合い、目に見える程の凄まじいエネルギーとなった。


 ドゥームデーモンは後ずさり、悲鳴にも似た怒鳴り声をあげた。


「貴様ら、それはなんだ! そのありえない力はなんだというのだ!」


 環は首を横に振った。


「俺にもわからない」

「なにがわからない! それは、その力は我が力と同じもの、混沌の力のはずだ!」

「いいえ、違います」


 今度はカレンが首を横に振った。


「混沌の力は創造と破滅の両面です。あなたの破滅の力は不完全なものにすぎません」

「黙れ! 破滅の運命を司る我が力以上のものは存在しない!」


 ドゥームデーモンが手を2人に向けると、そこから稲妻が発せられた。それは2人に直撃したが、瞬時に2人の力に取り込まれた。そして、2人の目の前に巨大な闇の柱が出現した。環の左手とカレンの右手がそれをつかむと、その手から白い光が輝き、闇の柱はその光をまとっていった。


 光をまとう闇の巨大な剣は2人の手でかかげられた。


「闇に!」

「帰れえぇぇぇぇぇぇ!」


 咆哮と共に剣が振り下ろされた。


「ふざけるなああああああああああああああああ!」


 ドゥームデーモンはそれを受け止めようとしたが、無駄だった。その姿は闇と光に飲み込まれていった。


 闇と光の剣が消え、環とカレンは一気に力が抜けたようにその場に膝をついた。ドゥームデーモンがいた所には、ぼろぼろになり、消滅寸前の闇王が倒れていた。


 環はなんとか立ち上がり闇王の側まで歩いていくと、そこに腰を下ろし、その顔を覗き込んだ。


「俺達の勝ちだな」

「そうだ、貴様達の勝ちだ」闇王は苦しそうにうめきながら無理矢理笑った。「最後に助言をしてやろう。私のほかにも魔族はまだまだいる、せいぜい気をつけることだ」

「ああ、せいぜい気をつけておくよ」

「そしてもう1つだ」闇王は激しく咳き込んだが、それでも言葉を続けた。「私は実験体にすぎん。貴様とその女、せいぜい注意しておくのだな、は、ハハハハハ」


 笑いながら、闇王の体は光となって消えていった。環はその光景を見ながらどこか悲しそうだった。カレンは黙って環の肩に手を置いた。


「タマキ様、帰りましょう」

「ああ、そうしよう」


 環は立ち上がった。

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