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2対1の決闘

 ゆっくり進む馬車の中で、環はゆったりと寝そべっていた。カレンはそれとは対照的にきっちりと座って、何か細かいものを作っていた。


「なあ、カレン。ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」

「なんでしょうか」


 環は寝そべったまま、カレンも手を動かしながらだった。


「カレンの力のことを知ってる人はどれくらいいるの」

「片手で足りますよ」

「少ないなあ。それじゃもう1つ、生まれはこの国?」

「いえ、違うはずです。私は物心ついた時には、ある人と旅をしていましたので」

「そのある人っていうのは?」

「わかりません。それは私の記憶から抜け落ちています。覚えているのは、誰かと一緒だったということだけです」

「ふーん。じゃあ、その記憶でも探しに行こうか」

「それは探して見つかるものなのでしょうか」

「さあ、どうだろう」


 そこで会話は途切れたが、しばらくしてから今度はカレンが口を開いた。


「タマキ様は元の世界に帰りたいとは思わないのですか?」

「元の世界ね。今はここでやることがあるし、それに」環は言葉を切って目をこすった。「段々、元の世界の記憶がぼやけてきてるんだ」

「つらいのではありませんか」

「それほどつらいってことはないんだけどさ。それでも、向こうの記憶が全部消えたらどうなるんだろうとは思うね」

「そうですか」

「ま、今そんなことを考えてもしょうがないよ。ところでさ、カレンはその格好で戦うの? あんまり戦闘向きには見えないけど」

「戦い向きの装備も持ってきていますよ」カレンは自分の足元に置いてあるスーツケースのような皮製のものを手で叩いた。「タマキ様の服装も戦いに向いたものでもないと思いますが」

「いや、これはけっこういけるよ。それに一式全部、新しく作ってもらったからさ、気分もいいし完璧だね」

「作ったかいがありました」


 カレンがそう言うと、環は起き上がって大きく伸びをした。


「ちょっと外の空気を吸ってくるよ。その間に着替えておけば? 着いてからじゃ慌しいしさ」

「では、そうさせていただきます」


 環は御者台に移動した。カレンが足元のケースを開けると、そこには地味だが丈夫そうな長袖とズボン、皮製の鎧とブーツ、グローブ、ベルト、ショートソードが納められていた。


「久しぶりですね」



 馬車は環と闇王の戦いがあった場所に到着した。そこには生々しい戦闘の跡が大量に残っていた。御者を務めていたバーンズはその光景を見て嘆息した。


「これは凄まじい」

「確かに、改めて見るとすごいなこれ。ほとんど俺がやったんだよなあ」

「ここを選んだ闇王に感謝しなくてはいけませんね」


 カレンの言葉に環は声を出して笑った。


「それは言えてる」


 リラックスした2人の様子にバーンズは安心したような表情を浮かべた。


「一緒に戦いたいところですが、そうしたところでタマキ様やカレン殿の足手まといになるだけでしょう。私は馬車を安全な場所に待機させておきます」

「はい。帰りもお願いします」

「よろしく」


 カレンは頭を下げ、環は手をひらひらと振った。バーンズはそれに対して膝を折って礼をした。


「ご武運を」


 バーンズは立ち上がり、馬車に飛び乗って去って行った。それを見送ったカレンは振り返り、空に顔を向けた。


「いつまでそんな高いところから見ているつもりですか?」

「勘のいいことだ」


 カレンの声に応えたのは、上空から降下してきた闇王だった。闇王は環とカレンの数歩先に降り立ち、2人をじっくりと観察した。


「何を見てるんだよ。俺は別に変わったところはどこにもないぜ」

「そのようだな」


 闇王は構えは変えなかったが、明らかに雰囲気が変わった。カレンはそれに応じるように腰に下げたショートソードを抜いた。環は両手を下げたまま、全身の力を抜いた。


 最初に動いたのはカレンだった。ショートソードに炎をまとわせ、それを上空に向かって振るった。炎が飛び、上空から降ってきた火の玉と激突、消滅した。


 カレンはすぐに周囲に注意を向けたが、後方から飛んでくる、人の頭ほどの石に対する対処が遅れた。


「ストーンスキン!」


 環がそこに飛び込み、石を拳で粉砕した。


「準備がいいなあ、闇王さんよ」


 そう言った環が闇王を見ると、その顔は暗い笑いを浮かべていた。


「貴様らの都合のいいようにしてやったのだ。これくらいの挨拶は当然だろう」 


 そう言った闇王は後方に一気に飛び退くと同時に、氷の牙を6発放った。


「カレン右を頼む!」

「はい!」


 2人は同時に前に跳び出した。環は両方の拳に氷をまとわせ、カレンはショートソードに氷をまとわせた。環は2つの氷の牙を殴って砕くと、残りの1つは身をかがめてかわした。カレンはぎりぎりまでひきつけてからショートソードの一振りで3つを同時に砕いた。


 闇王は防がれるのがわかっていたようにすぐに次の行動に移った。環とカレンに向けて掌を向けて両腕を突き出し、そこから炎を噴出した。


「プロテクション!」


 環も両腕を突き出し、魔法の盾でその炎を防いだ。


「俺を跳び越えろ!」


 カレンは一瞬の躊躇もせずに環の頭上を飛び越えた。


「バースト! バースト!」


 1発目の爆発が炎に穴を開け、2発目が環を跳び越えたカレンを後押しした。カレンは勢いよく飛び、爆発が作った穴を通り闇王に迫った。


「ハァッ!」


 振り上げたショートソードが炎をまとい、凄まじい勢いで闇王に振り下ろされた。しかしそれは闇王が手をかざすと見えない壁に阻まれた。


「まだまだあ!」


 しかし、今度は爆風を利用して上空に跳んだ環が、落ちていく勢いと雷を拳に乗せて闇王に突っ込んでいった。その拳も見えない壁に阻まれた、かのように見えた。


「もういっぱぁぁぁぁつ!」


 環は逆の拳にも雷をまとわせ、闇王に向かって振るった。甲高い音と共に見えない壁が消失し、拳がもう少しで闇王に届きそうになった。しかし闇王は上空に飛び上がり、それを回避した。


「逃がしません!」


 カレンはベルトに挿してある投げナイフを素早く取り出して、それに氷をまとわせると闇王に向かって正確に投げた。さらにショートソードに炎をまとわせ、その炎も飛ばした。


「バースト!」


 そのナイフと炎を追うように環が跳んだ。闇王はカレンの攻撃を弾いたが、跳んできた環に対して隙を作ることになった。


「いくぞカレン!」


 環は両拳に炎をまとわせ、それを上から闇王に思い切り叩きつけた。それをもろに受けた闇王は勢いよく地上に落下した。下ではカレンがショートソードに雷をまとわせ、闇王の落下に合わせて渾身の力を込めてそれを振るった。確かな手応えと同時に、闇王の体は吹き飛ばされた。落下中の環はその飛ばされた地点をよく見て、手を天にかざした。


「くらえ! 20倍ライトニィィィィング!」


 飛ばされた闇王が落ちた地点を、雷が正確に射抜いた。着地した環とカレンはその地点を見据え、油断なく身構えた。


 2人の予想通り、煙が立ち昇る場所から闇王はゆっくりと立ち上がった。ダメージを負っているのは明らかだったが、闇王の顔は笑っていた。


「そうか、これが理の外にある者と混沌の力を使う者の力か」


 そこで闇王の表情が変わった。その鬼気迫る人間離れした雰囲気に、環は思わず息を呑んだ。カレンは射るような視線を向けていた。


「我が力の全てを持って貴様らを滅ぼす!」


 闇王は両手を広げ、顔を天に向けた。


「ドゥームデーモンよ! 盟約にしたがい我にその力を! 破滅と死を!」


 晴れていた空に突然暗雲が発生し、日の光が遮られた。そんななかで闇王の周囲だけは不気味な薄い光に包まれていた。カレンは何も言わずにそれに向かって走り出した。


「よせカレン!」


 環の静止を聞かずに、カレンは闇王に向かっていったが、それは剣が届くはるか手前で跳ね返された。環は倒れたカレンに駆け寄って闇王を見た。


「なんだよこれは。冗談みたいな力だ」


 あまりの力の奔流に環は呆然とした。そうしているうちにも、闇王を包む光は濃くなっていき、その姿を飲み込んでいった。


 その光が闇王を完全に飲み込んだ時、光が溢れ環とカレンは思わず目をそらした。そして、再び目を向けると、そこには闇王と大きさは変わらないが、その禍々しさは桁違いになっている存在がいた。


「お前は、何だ」


 環の問いに、その存在は心に直接語りかけてくるような低い声を出した。


「我は破滅の運命を司る存在。お前達に審判を下すため、盟約に従いこの者に力を貸す」


 環はその言葉を聞いて、立ち上がったカレンに苦笑いを向けた。


「話し合いの余地はなさそうだよ」

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