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迎撃戦

 テントから這い出した環は朝日に照らされる草原を見渡した。まだ魔物の軍勢は見えなかった。環はカレンが置いていった食料の中から果物を手に取ってかじった。


「化物連中が来るまで、まだ時間はあるのかな」


 環は草の上に寝そべって待つことにした。そうして数時間後、遠くに魔物の姿が見えてきた。


 環は立ち上がって、魔物達を見て、その位置をよく観察した。そして手を空に向かってかかげた。


「まずは挨拶代わりだな。メテオストライク!」


 魔物達の先頭に燃えさかる岩が落ちていった。それが落ちた衝撃と炎で大量の魔物が薙ぎ払われた。それを埋めるようにさらに大量の魔物が出現した。環はそれを見て頭をかいた。


「それにしても多いな。じゃ、第2弾だ。ブリザードストーム!」


 今度は猛吹雪が起こり、大量の魔物が凍らせれたり吹き飛ばされたりした。それから環は魔物達に向かって歩き出した。魔物達がはっきり見えてくると、今回は弓矢で武装しているスケルトンがいるようだった。


「まずはストーンスキン、それとマイティ」


 さらに進み、弓の射程距離に入ったようで矢が飛んできた。環は矢を片手で払いながらどんどん近づいていった。そして、軍勢の目の前に到着してから立ち止まった。


「よお、ボスさんいるんだろ、出てこいよ」


 魔物達が左右に割れていき、フード付のローブをかぶった人間の形をしたものがその間を歩いてきた。そして、それがフードを取って出てきた顔を見た環は、苦笑いを浮かべた。


「俺の勘が当たったのかな。あんたは倒したと思ったんだけど、逃げられてたんだな」

「逃げた? 違うな、異世界の勇者よ。貴様が倒したのは我が分身にすぎない」

「まがい物だったっていうのか」

「そうではない。力は小さいがまぎれもない我が力の一部だ」

「あんまり聞きたくない気がするんだけど、力の一部っていうのはどんなもんなのかな」

「5分の1程度だ。まさか人間に倒されるとは思っていなかった」

「あれで5分の1か。冗談だろまったく」環は苦笑いではなく、今度は楽しそうに笑った。「でも、5分の1は倒したんだから、少しは楽になってるわけだ」環は腰を落とした。「バースト!」


 爆風で突っ込んでいったが、闇王が手をかざすと、殴りかかろうとしていた環は闇王の目の前で止められた。


「5分の1にも通用しなかった攻撃が通じると思ったか」


 闇王の手から衝撃波が放たれ、環は周囲の魔物を派手に巻き込みながら吹っ飛んでいった。闇王はさらに特大の火の玉をそこに放った。それは、狙い通り環の飛ばされた地点に直撃し、大きな爆発を起こした。


「アイスバイト!」


 しかし上空から環の声と共に、氷の牙が2発放たれた。闇王は全く動こうとしなかった。しかし、氷の牙は闇王の目の前で粉々に砕け散った。


「こいつはどうだ! ライトニングボルト!」


 立て続けに雷の矢を放ったが、それも同じように闇王の目の前で消え去った。それでも環は落下の勢いを利用して、闇王に蹴りをくらわそうとした。


 しかしそれも同じように闇王の目の前で止められた。見えない壁を思い切り蹴ったような感覚があった。環は蹴りの反動を生かして後ろに飛び退き、闇王と再び対峙した。


「魔力の壁だな。それも、とんでもない頑丈さだ」

「そうだ。貴様ら人間の低級な魔法など通用しない」

「それならこいつはどうだ! ライトニング!」


 雷が闇王を直撃したかに見えたが、そのかかげた手から煙が立ち昇るだけで、闇王そのものにはダメージが全くないように見えた。


「ファイアボール! 2倍チャージファイアボール!」


 間髪いれずに放った2倍ファイアボールも同じように片手で受け止め、消された。


「2倍程度じゃ駄目なら、もっとやってやるまでだ! ってちょっと待て」


 しかし、闇王は雷の矢を数10発放った。環はそれをかわすのが精一杯で、魔法をチャージすることができなくなった。それでも、環は笑みを浮かべた。


「いいこと思いついたよ」


 そう言った環は、さらに続けて放たれた雷の矢をかわしながら、魔法を使うことを強くイメージした。


 魔力が具現化した瞬間、魔法を発動させずにその力を溜めるのが環が行っているチャージというものだった。


 そのためには実際に魔法を使って、その発動を無理矢理止めるというようにしていたのだが、環はそれを全て自信の想像の中で実行しようとした。成功すれば実際に魔法を使って力を溜めるよりはるかに早い。


「よし、今度は5倍チャージファイアァァァボールだ!」


 イメージでのチャージはぶっつけ本番でうまくいった。さっきのファイアボールよりも明らかに大きく、勢いもあるものが闇王に襲いかかった。


 闇王は巨大な氷の牙を出現させ、その火の玉を貫き、消滅させた。環は横に跳びそれをかわした。


「なかなか面白いことをするな、人間」

「そうだろ。あんたに全然かなわないってことはなさそうだ」

「貴様、名はなんという」

「俺は高崎環。覚えておいて損はないぜ」

「タカサキ、タマキ」闇王はそうつぶやき、環の顔を凝視した。「この世界の理の外にある者か」

「なんだそれは?」

「ここで死ぬ貴様には知る必要のないことだ」


 闇王の体に、目で見えるほどの魔力がみなぎった。


「あいにく、まだ死ぬつもりはないんだよ」


 環も体中に魔力を充実させた。それと同時にイメージでのチャージを始めた。それが終わる前に、闇王が動いた。環に向かって一直線に突っ込み、素早い突きを繰り出してきた。環はかわすことができずに、その突きをもろに胸に受けた。


「ぐぉ!」


 ストーンスキンで強化された環にも、その突きの威力は十分すぎるほどだった。環はなんとか後ろに吹っ飛ぶことでその威力を消したが、闇王はそれを上回るスピードで、今度は脇腹めがけて蹴りを繰り出した。


「がっ!」


 なんとか腕を下げてガードしたが、勢いを殺すことはできずにそのまま横に飛ばされ地面を転がった。さらに闇王は跳びあがり上空から踏みつけようと迫った。環は魔力で強化した腕の力だけでなんとか飛び退いてそれをかわした。


「10倍! ブリザードストーム!」


 一瞬前に環が倒れていた地面に着地した闇王を凄まじい吹雪が包んだ。


「バースト!」環は爆風で後方に跳びあがり、その吹雪の中心地点に意識を集中した。「これも10倍だ! メテオ! ストラァァァァイク!」


 巨大な隕石としか形容のしようがないものが、吹雪の中心地点に落ちた。吹雪も周囲の魔物もほとんど吹き飛ばすほどの凄まじい衝撃と爆風だった。


 それが収まってから、環がその爆心地を見ると、そこには人の形をしたものが傷1つなく立っていた。


「おいおい5割増しだぜ」環は片膝を地面につき、苦笑を浮かべた。「冗談だろ」


 闇王はゆっくりと歩き出し、確実に環に近づいてきた。


「なるほど、我が分身が消された時よりもさらに力をつけたようだな。だが、終わりだ」

「いや、まだだ!」環は立ち上がり、自分を鼓舞するように叫んだ。「アイスバイト! ライトニングボルト! ファイアボール!」


 3つの魔法が闇王に向けて放たれた。闇王の足が止まったが、どれもそれに届きはしなかった。環はそのわずかな時間で限界まで魔法のチャージを行った。その負担に、体がぐらつき、両膝をつきそうになった。さらに、全ての魔力を込めた。


「これがありったけだ! 20倍! ライトニィィィィング!」


 雷が閃くのと環が倒れるのは同時だった。闇王のかかげた右手はそれを防ぎきることができずに、黒く焦げ、ボロボロになっていた。だが、闇王は倒れていなかった。


 闇王はゆっくりと歩き、うつぶせに倒れた環を見下ろした。そしてゆっくりと魔力を込めた左手を上げた。


「終わりだ。理の外にある者よ」


 その左手が振り下ろされた。


「それはさせません」


 環に振り下ろされるはずだった闇王の左手は、闇の大剣が横薙ぎにされたのに阻まれた。だが闇王は後ろに飛び退き、その左手には、わずかに闇の大剣がかすっただけだった。


「それは、混沌の力」


 闇王はわずかな驚きを交え、つぶやいた。カレンは赤い瞳を光らせ、倒れた環の前に立ちはだかった。そして、闇の大剣が消滅すると、今度は同じ闇をローブのように形作り、環と自分自身を包み込んだ。


「それでは、失礼いたします」


 闇が2人を包み込み、次の瞬間にはその場所には何もなくなっていた。闇王はそれを見て微笑を浮かべた。ボロボロの右手と切りつけられた左手の傷を交互に見て、その微笑は明らかな笑いになった。


「おもしろい」


 闇王は辺りを見まわした。魔物は環と闇王の戦いに巻き込まれ、ほとんど残っていなかった。その光景を見て、さらに笑った。

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