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伝説

 環とカレンは並んで廊下を歩いていた。


「そういえば飯がまだなんだけど」

「すぐに準備はできますよ。部屋と食堂、どちらでお召し上がりになりますか?」

「せっかくだから食堂に行こう」


 環は早足で歩きだした。カレンはそれに遅れることなく確実に後をついていった。


「ところでタマキ様。あのチャージというものについて詳しく教えていただけませんか?」

「ああ、あれ。まあ魔法を発動直前で止めておいて、まとめて使うと威力が上がるんじゃないかと思ってやってみたんだよ。魔法1発に込められる魔力には限界があるみたいだし」

「またずいぶんと非常識なことを考えましたね」

「うまくいったじゃないか、けっこうきついけどね。それより、あのライトニングのカードは何なの? 普通の魔法とは感じが違ったけど」

「あれはほとんど伝説上の存在で、我が国の建国の英雄が使ったというものです」

「ひょっとして、建国以来誰も契約できなかったってことかな」

「そうです。魔力で環境そのものを急激に変える、というか作り出すというようなとんでもない魔法ですからね。タマキ様のような非常識な魔力があってようやく使えるものです」

「まあ確かに、とんでもない威力だった。他にも似たようなものがあったりする?」

「ありますよ。それよりも食堂に着きましたが、何を召し上がりますか」

「じゃあ、パンとなんか果物でもよろしく」

「はい、少々お待ちください」


 カレンは一礼すると食べ物を取りに行った。環は席について辺りを見まわした。食堂にはほとんど他に人はいなかったが、環は注目されているようだった。


「やあどうもみなさん」環はいきなり立ち上がって大声を出した。「えー、高崎環です。一応勇者というやつです」

「タマキ様、何をしてらっしゃるのですか」


 カレンがパンと果物、飲み物を乗せたトレイを持って戻ってきた。


「いや、挨拶でもしておこうと思ってさ」

「そうですか。喉に詰まらせたりしないようにゆっくり召し上がってください」


 環はトレイを受け取って、早速パンと果物をかじり始めた。あるていど食べてから、パンをかじりながら口を開いた。


「ところでさ、闇王ってやつはあれで本当に倒せたのかな」

「と、言いますと」

「いやね、確かにダークデーモンとかいうのは倒したけど、ひょっとしたら逃げられたりしたんじゃないかって気がするんだ」

「自分自身を贄にして呼び出したものを倒されたのですから、無事なわけはないのですが、しかし、タマキ様の勘というのは気になりますね」

「そう思うだろ」

「ロレンザ様の意見を聞かせていただいたほうがよさそうですね」

「それじゃ、行こうか」


 環はそう言って立ち上がると、りんごのような果物をつかんで、それをかじりながら歩き出した。


「タマキ様、無作法ですよ」

「まあ別にいいじゃない」



 環とカレンは祭壇のあるホールに到着した。ロレンザは目を閉じて立っていた。


「ロレンザ様、闇王のことでタマキ様が気になることがあるということなのですが」

「どういうことでしょうか?」

「いや、あの連中が使う召喚術っていうやつのことを詳しく聞かせてもらいたいんだけど」

「魔族達が使う召喚術は贄を捧げて強大な闇の存在を呼ぶものです。キングスケルトンのような比較的あまり強力でない存在は、普通の魔物と変わりません。しかし、力のある者が自分自身を贄とすると、その者自信が変化をするのです」

「つまり、でっかい骸骨は小さいのをダシにして呼び出したもので、生贄にした連中とは別の存在だけど、闇王みたいな奴がやると、召喚というよりは変身しちゃうわけ?」

「その通りです。それで、なにが気になっているのでしょうか」

「いや、生贄っていうのは自分の魂を使うわけでしょ、だったらその魂の一部だけを使って召喚っていうのを完成させることもできるんじゃないのかな。ほら、宮崎さんを魔女にするのに魂の一部を埋め込むって言ってたじゃないか、つまり、魔族っていうのは魂を切り売りできるわけでしょ」


 ロレンザは環の意見を聞いて考え込んだ。


「確かにそれは可能かもしれません。ですが、いくら闇王でもあれだけの力を持つ存在を呼び出すのに魂の一部だけで済むとは考えられません」

「うーんそういうもんか。それじゃあ、あの闇王以上の奴っていうのはいるのかな? ダークデーモンなんて化物が存在するんだから、もっと色々なのがいてもおかしくないんじゃないの」

「闇王以上の存在ですか、確かにそれは可能性があります。ただ、魔族のことはあまりわかっていないのです」

「それなら、もっと上の奴がいると考えておいたほうがいいか」

「そうですね。まだ戦いは終わっていないのかもしれません」

「そうなんだよな」環は1人で納得したように首を盾に振った。「そういうわけだから、あのライトニングと同じ博物館もののスペルカードを見せてもらいたいんだ。もっと強い奴がいるなら間違いなく必要になると思う」

「わかりました。すぐにお持ちします」


 ロレンザはホールから出て行った。カレンはそれを見送ってから静かに口を開いた。


「タマキ様はまだ戦いが続くと考えているのですね」

「まあね。あれで終わりだとはどうしても考えられないからさ。準備はしっかりやっておきたいんだ」

「最後まで、そうして戦うつもりですか?」

「乗りかかった船だから」


 気楽な感じで首をかしげて環は笑った。カレンはその顔をじっと見て、ふっと息を吐き出した。


「私もその船には最後まで乗せていただきますよ」

「どこに着くかはわかんないんだけどねー」

「2人とも、何の話をしていたのです?」


 そこに小さな箱を持ったロレンザが戻ってきた。環は笑顔で手を横に振った。


「別に世間話、世間話。それより、その箱が」

「はい」


 ロレンザは箱を開けた。中には2枚の古びた感じのするスペルカードが納められていた。


「1枚はメテオストライク、燃える岩を落とす魔法です。そしてもう1枚はブリザードストーム、狭い範囲に猛吹雪を起こす魔法です」

「またとんでもない感じの魔法だなこりゃ」

「それでは契約を」


 ロレンザが差し出した箱から、環は2枚のカードを手に取った。


「それじゃまずはこっちから、契約、メテオストライク!」


 スペルカードが光になり消えていった。


「次はこっちだな、契約、ブリザードストーム!」


 同じようにもう1枚のスペルカードも光となって消えた。


「こんだけ強力そうだと、試すわけにもいかないのが欠点だよな」環は腕を組んでうなったが、すぐに気を取り直した。「じゃあ、チャージの練習でもしようか」

「闇王に対して使ったという、魔法を限界以上に増幅するものですか?」

「そう、1発に込められる上限が決まってるみたいだから、今はいちいち魔法を寸止めしてその力を溜めてるんだ、1回ずつ溜めてるから10倍で使うなら10回も魔法を使わなきゃならないんだけど、それはちょっときついんだよね。1発使うだけで一気に10倍まで増幅できたりするといいんだけど」

「私の知る限りでは、そのような話は聞いたことがありません。ですが、伝説の中にならば、なにかが見つかるかもしれません」

「さっきの魔法を使えたっていう建国の英雄さんか。その人は俺みたいに異世界から来たのかな」

「それはわかりません」

「そうなの?」

「はい。ですが、伝説では初めて異世界から勇者を召喚したのは、その英雄なのです」

「おもしろそうな人なんだ。じゃあ、そっちのことは調べてもらっておいて、後で聞かせてもらうよ。それじゃよろしく」

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