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目覚めと縁

 ダークデーモンが倒されてから2日が経った。環はその間、目覚めることもなく眠り続けていた。ベッドの横にはカレンが座ってその様子を見守っていた。そこに、ドアが開かれエバンスが入ってきた。カレンは立ち上がって頭を下げた。


「タマキの様子はどうだ?」

「まだお目覚めになりませんが、心配はないかと思います」

「そうか、あの闇王を打ち倒したのだ。これだけ深く眠るのも当然だろうな」

「はい、ですが、魔力と体力の消耗以外の理由があるような気がします」

「それがなにかはわからないのか?」

「わかりません」


 カレンがそう言うと、それに答えるように環の目が開いた。


「ああ、よく寝た」


 環は目をこすりながら起き上がった。それから部屋を見回すと、カレンとエバンスを見て意外そうな顔をした。


「あれ、2人とも何やってんの?」

「お目覚めですね。体調はいかがですか?」

「体調ならばっちりかな。ところでどれくれい寝てたのかな」

「2日です。大変ゆっくりとお休みになっていましたよ」

「そんなに寝てたのか。ところで」環は自分の着ているものを確認した。「俺の服は?」

「新しいものがもう出来上がっていますので、これからお持ちします」


 カレンは部屋を出て行った。エバンスはそれを見送ってからカレンが座っていた椅子に腰を下ろした。


「タマキ、礼を言わせてもらいたい」

「礼? ああ、闇王っていうのを倒したことね」

「そうだ。まさかあのような悪魔になるとは思わなかったが」

「確かに、あのダークデーモンっていう化物には驚いたね。あのでかい図体が消えたのも驚いたけど」

「魔族というのはそういうものなのだ。もともと闇と混沌から生まれたものだからかもしれない」

「ふーん。そういえば、あの助けてくれた時の水はなんだったのかな」

「あれは精霊の力を借りたものだ」

「あの泉の奴ね。それって誰にでもできんの?」

「いや、精霊の加護を受けた者だけだ。数は極めて少ない」

「少ないっていうと10人もいないとか」

「ああそうだ。私とヨウコ、それとあと6人ほどしかいない」

「へえ、少ないな。俺は使えないのかな、それ」


 エバンスは首を横に振った。


「生まれた時か、あるいはこちらの世界に召喚された時から決まっているのだ。召喚された時というのは、ヨウコのことで初めてわかったことなのだが」

「そうなんだ。それで話は変わるんだけど、そのミヤザキさんの様子はどうなの?」

「もう目は覚めている」

「そっか」環は立ち上がった。「それじゃあ挨拶に行こう」


 そこにちょうどタイミングよく、カレンが服を持って戻ってきた。


「その前に、まずは着替えをしてはいかがでしょう」


 環はその服を受け取って一通り確認した。


「すごいな、着てきたやつよりもよくできてるくらいだ。誰が作ったの」

「私です」

「カレンはなんでもできるんだな。それじゃ、着替えてさっさと行こうか」



 環はゆっくりとドアを開けて顔だけ突っ込んだ。


「どうもはじめましてっと」


 ベッドの上の上体を起こしたヨウコは驚いたような顔をして環を見た。


「は、はじめまして」


 ヨウコは慌てて頭を下げた。環はそれを見て、笑顔でうなずきながら部屋に入った。


「その服。ということはあなたが高崎環さんですか?」

「そう、改めてはじめまして。高崎環っていいます」

「私のほうも改めてはじめまして。ミヤザキヨウコです」

「えーっと」環は自分と一緒に召喚されてきた紙とペンを取り出し、自分の名前を書いてからヨウコに渡した。「どんな漢字か書いてもらえます?」


 宮崎葉子。紙には綺麗な字でそう書かれていた。環はそれを見て安心したように息を吐いた。


「やっと名前の書き方がわかった」

「聞いていただければお教えすることもできましたが」


 カレンは冷静に言ったが、環はとりあえず聞かなかったことにした。


「それで、さっそくなんだけど、宮崎さんはこっちに来る前は何をやってたんです? あ、俺は高校生です」

「私は、別に変わったことはない、ただの会社員でした」

「へえ、どんな仕事をしてたんです?」

「IT系の技術職です」

「なるほどなるほど。じゃあ、そろそろこっちでのことの話を始めますか」


 環はそう言って椅子を3つ引きずってきて、ベッドの周りに適当に配置した。


「エバンスもカレンも座って。それじゃ、宮崎さん。こっちに来てからのことを話してもらえますか?」

「はい。私がこの世界に来たのは3ヶ月前になります。理由は環さんと同じで、勇者として、です」

「それで、魔法とかを教えられて、化物連中と戦うことになったと」

「そうです。ただ、私はあまり魔法は使えませんでした」

「そういえば、エバンスの話だと、精霊の加護っていうのを受けてるんですよね」

「はい。最初は何かの声が突然聞こえてきて驚きました。でも、エバンスさんのおかげで精霊の声を聞くようになることができて、精霊の力を借りることができるようになったんです」

「ほー。王子様直々だったんだ。俺は」環はカレンをちらっと見た。「かなり強引に仕込まれた気がするけど」

「タマキ様は才能がありますから、英才教育です。結果もしっかりしたものではありませんか」


 そう言ったカレンは、完璧なだけにわざとらしい笑顔を見せた。


「あー、わかった、わかったよ」


 2人のやりとりを見て、葉子は少し笑った。


「仲がいいんですね。環さんはこの世界に来てまだ1週間くらいしか経っていないんですよね」

「え、ああ、そういえばそんなもんしか経ってないんだなあ。骸骨が襲ってきたのはこっちに来た当日だったし」

「その時、私を助けてくれたんですね」

「あれはけっこうすごかったなあ」環は笑った。「でもなんであんなことになったんです?」

「それはよく覚えていないんです。闇王っていう人、じゃなくて魔物と戦った時に私は負けてしまったんです」


 それを聞いたエバンスはうつむいて沈痛な表情を浮かべた。


「私が一緒だったらそんなことにはさせなかったのだが」

「まあ過ぎたことだし、結果オーライでいいじゃない。でも、どうやって魔族の仲間になんかされたんだろう」

「それはおそらく、魔族の魂の一部を埋め込まれたのだと思います」

「魂の一部?」


 カレンの言葉に環は首をかしげた。


「はい、魔族の魂は混沌と悪意から生まれたものですから、普通の人間がそれを埋め込まれたら、それに飲まれてしまいます」

「それで、ほとんど魔族みたいになってしまう、ということなわけか」

「そうです。魔力は増大しますし、身体能力も格段に上昇します」

「なるほど、すごい話だ」


 環はそう言ってから、葉子とエバンスの顔を交互に見た。


「そんな状況をなんとかしたんだ。すごいね、俺」

「そう、全てタマキのおかげだ。ありがとう」

「本当にありがとうございました」


 エバンスと葉子が頭を下げたのを見て、環はとまどったような表情になった。


「まあまあ、そんなかしこまるもんじゃないって。俺は状況に流されてやっただけだし。それにしても2人とも息が合ってるね」


 環がそう言うと、エバンスと葉子は目を見合わせて微笑を浮かべた。それを見て立ち上がったカレンは環の肩に手を置いた。


「タマキ様、そろそろ私達は退場しましょう」

「え? なんで」

「もう少ししたらおわかりになりますよ。さあ、行きましょう」

「ああ、そうするよ。それじゃ2人ともまた後で」


 環も立ち上がり、カレンと一緒に部屋から出て行った。残されたエバンスと葉子はそのドアを見た。


「面白い男だな、タマキは。ヨウコの世界にはああいう者がたくさんいるのか?」

「まさか」葉子は首を横に振った。「精霊もずいぶん驚いているみたいでしたけど、あんな不思議な人は見たことがありません」

「そうだな」エバンスは葉子の手をとって微笑んだ。「我らを祝福してもらうのにあれほどふさわしい人間もいまい」

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